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[インタビュー]「風船1個150万ウォン…ビラ商売で軍将兵を危険にさらすのか」

登録:2020-06-14 21:55 修正:2020-06-15 09:33
北朝鮮国境警備隊将校出身のホン・ガンチョル氏 
「風船を1個飛ばせば10倍以上利益残り、脱北民団体の功績になる」 
団体間の競争激しく…新型コロナ飛沫を付けようという話まで 
元北朝鮮国境警備隊詰所長の脱北民、ホン・ガンチョル氏=ホン・ガンチョル氏提供//ハンギョレ新聞社

 韓国政府や京畿道が対北朝鮮ビラ散布を強く遮断する方針を示したこと受け、脱北民(北朝鮮離脱住民)団体などが「国際社会が認めた人権運動」だと反発している中、北朝鮮将校出身の脱北民が「利権争いに変わった対北朝鮮ビラ散布よりも、朝鮮半島の平和を優先すべきだ」として、対北朝鮮ビラ散布を批判した。

 元北朝鮮国境警備隊詰所長のホン・ガンチョル氏(47)は13日、ハンギョレの電話インタビューで、「対北朝鮮ビラ事業が、一部の脱北民団体間の利権争いに変質し、互いを非難し、罵倒し合う状況になった」と語った。

 ホン氏は、北朝鮮の姜建総合軍官学校を卒業した後、国境警備隊の詰所長を経て、茂山(ムサン)の建材工場で労働指導員として働いたのち、2013年に脱北した。同年、中国やラオス、タイを経て韓国に入国したが、翌年、北朝鮮保衛司令部が送り込んだスパイとして起訴され、1・2審で無罪を言い渡された。現在、最高裁(大法院)の最終審を待っている。

 ホン氏は「脱北哨所コミュニティやインターネット、調査された内容によると、(対北朝鮮ビラを運ぶ)風船を1個飛ばすのに150万ウォン(約13万円)がかかるという。ところが、実際、風船の値段は8~12万ウォンだ。これを10倍以上のカネをもらって飛ばせば、団体の功績になる。こうした活動内容を米国の保守派団体に提出すれば、後援(金)をもらえる」と話した。脱北民団体の対北朝鮮ビラ散布競争も激しいと、ホン氏は伝えた。

 「対北朝鮮ビラを散布する脱北民団体は当初、風船飛ばし作業を脱北民に任せたが、こうしたノウハウを学んだ人が団体を出て、独自に対北朝鮮ビラを風船で飛ばしはじめたことで、競争になった。いわゆる“風船飛ばし”の師弟関係にある人たちが競争するようになり、互いを非難し、罵倒し合う状況になった」

 ホン氏は、「ビラ散布は北朝鮮の人権のための人道的行為だとし、これを今になって問題視するのは北朝鮮政府の顔色を窺っているのではないか」という一部の脱北民団体の指摘を強く批判した。

 「脱北民コミュニティのセトミン(新しい居場所を見つけた人という意味)ラウンジで、新型コロナウイルス感染症患者の飛沫を買って、1ドル紙幣につけ、風船に入れて北朝鮮に飛ばそうという話が出ており、実際こうした話が脱北民の間でも話題になった。飛沫を付けて飛ばせば、その被害はそのまま韓国国民に跳ね返ってくる。人間なら、たとえ敵だとしても、そのようなことをしてはいけない」

京畿道最北端の非武装地帯(DMZ)の接境地域をつなぐ金浦塩河江鉄柵道=パク・ギョンマン記者//ハンギョレ新聞社

 ホン氏は、北朝鮮が対北朝鮮ビラ問題について強く反発した理由について、「脱北民団体の動画を見ると、『ソルジュ(金正恩委員長の妻、リ・ソルジュ夫人)の愛』と題し、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領が(リ・ソルジュ夫人の)膝を借りて横たわっている合成写真を作って送ったものが出てくる。あまりにも卑劣な攻撃だ。おそらく北朝鮮がこれをそのままにしてはいけないと判断したのではないだろうか」と推測した。また、「板門店宣言で南北がビラを散布しないと約束したのに、その約束を守れなかったことが原因だと思う」とも話した。

 2018年4月27日、板門店(パンムンジョム)で開かれた第3回南北首脳会談で南北が合意した「朝鮮半島の平和と繁栄、統一のための板門店宣言」で、南北は「地上と海上、空中をはじめとするすべての空間で、軍事的緊張と衝突の根源となる相手に対する一切の敵対行為を全面中止することにした。当面の5月1日から軍事境界線一帯で拡声器放送やビラ散布などすべての敵対行為を中止し、その手段を撤廃し、今後非武装地帯を実質的な平和地帯にしていく」と宣言した。ビラ散布の中止を約束したのだ。

 ホン氏は「風船を飛ばすのは、北朝鮮住民の知る権利のためであり、表現の自由だ」という主張についても、「彼らは『韓国社会がこんなに発展した』、『経済大国だ。KTXも走り、STRも走る』ということを知らせたいと言っているが、北朝鮮の人々はすでにそれを知っている。苦難の行軍時代以前から韓国ドラマが中国を通じて入ってきて、皆見ている。私のフェイスブックにも、脱北民らが『(対北朝鮮ビラ散布者たちは)何を言っているのか。北朝鮮にいた時、家で韓国のドラマを見ていたのに』という書き込みを残している」と伝えた。

 さらにホン氏は、「すでにみんな知っていることを知らせるため、(風船を)飛ばすと言うが、風船が北朝鮮にちゃんと届いているのだろうか。江華島の席毛島(ソンモド)に落ちて、ゴミの増加で困った住民たちが抗議すると、石を投げて住民を脅したりする。それが人権運動家のやる事なのか。むしろビラは情勢を緊張させるだけだ。銃撃戦でも起きて、韓国軍が怪我でもしたら、誰が責任を負うのか。将兵の親は政府に抗議するだろうし、結局、南北関係が悪化するだけだ。我々の利益にならない」と語った。

 脱北民団体が韓国政府と京畿道の制止にもかかわらず、「表現の自由」を挙げ、ビラ散布を強行する意志を曲げていないことについて、ホン氏は「表現の自由はもちろん重要だ。しかし、韓国国民と国軍将兵の生命の安全よりも重要ではないはずだ。朝鮮半島の平和よりも重要であるとは言えないのではないか」と問い返した。

 ホン氏は「本当に(ビラ散布を)そんなにやりたいなら、(軍事境界線付近の地域の)住民と国軍将兵が皆賛同した時にやるべきだ。一部の脱北民団体のお金稼ぎのために、このような大事を引き起こしてはならない」と話した。

 一方、京畿道のイ・ジェミョン知事は同日、自身のツイッターに、ホン氏が「交通放送」に出演し、ビラをつけた風船を1個飛ばすのに150万ウォンだと述べたことに触れ、「お金稼ぎのため、大韓民国の安全保障と国民の生命を脅かす者は許せない」という書き込みを残した。これに先立ち、京畿道は12日、一部接境地域に対する危険区域指定▽対北朝鮮ビラ散布者の立ち入り禁止▽車両移動、ガス注入など、対北朝鮮ビラ散布前の準備行為に対する制止と不法行為の事前遮断▽京畿道特別司法警察団による取り締まりや捜査、告発措置など、北朝鮮ビラ散布禁止対策を発表した。

ホン・ヨンドク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/area/capital/949215.html韓国語原文入力:20-06-14 15:35
訳H.J

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