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[ニュース分析]大統領府と労働党の直通電話を遮断…南北の「信頼安全弁」危機

登録:2020-06-10 06:17 修正:2020-06-11 07:34
[北朝鮮、南側に強硬策取る理由とは] 

対北ビラまき、昨年10回、今年3回 
「板門店宣言違反」とし、敵対行為とみなし 
新型コロナ防疫の無力化を図るのではと強く警戒 
内部を引き締め、経済難克服の意志も 
 
[南北関係はどこへ] 
キム・ヨジョン談話、軍事合意破棄の言及に続き 
5日は「接境地域で頭を悩ませること行う」を警告 
交流の中止超えて軍事的対立も排除できず 
外交安保専門家ら「大統領の決断が必要」

北朝鮮が脱北者団体のビラまきと韓国政府の対応を強く非難する中、各地でビラまきに抗議する青年学生らによるデモ行進が行われたと、「朝鮮中央通信」が9日付で報じた= 朝鮮中央通信のホームページよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 南北関係が2018年4・27板門店宣言以前に後退する危機に追い込まれた。北朝鮮が9日、「対南(対韓国)事業を徹底して対敵事業に転換」すると公言しているだけに、交流中止のレベルを超え、軍事的対立・衝突に広がりかねない状況だ。ただし、北朝鮮側の追加措置と韓国政府の対応によって、南北関係の変化の幅と進路が変わる余地はある。

 対北朝鮮ビラを問題視したキム・ヨジョン朝鮮労働党中央委員会第1副部長の4日の談話から、「労働新聞」9日付に掲載された「北南間のすべての通信連絡線を完全に遮断する措置を取ったことについて」と題した「朝鮮中央通信社の報道」(中通報道)に至るまで、北朝鮮側の動きにはいくつか注目すべき点がある。

 第一に、北朝鮮へのビラまきを「最高尊厳と朝鮮人民全体に対する冒涜」と見なしている。第二に、最近の対北朝鮮ビラまきを「南北関係破局の導火線」であり、「南朝鮮当局の隠蔽された同族敵視政策」の表れと捉え、その責任を南側当局に問うた。9日の「報道」では「ただでさえ数え上げられることが多い」とし、これまで文在寅(ムン・ジェイン)政府に対する累積した不満が爆発したことを隠さなかった。問題は対北ビラだけではないということだ。第三に、キム・ヨジョン第1副部長が「対南事業総括」の責任者として前面に出ており、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の代理人として2018~2019年の南北・朝米首脳会談に深く関与したキム・ヨンチョル労働党副委員長も加わった。第四に、4日の「キム・ヨジョン談話」から9日の「中通報道」まで、例外なく「労働新聞」に大々的に報道された。「労働新聞」は労働党中央委の機関紙で、北朝鮮では公式性が最も強い“人民必読”のメディアだ。今回の局面には韓国への圧力・措置だけではなく、内部的な需要もあることを裏付けている。

 北朝鮮が「対南事業部署の事業総和会議」の公式決定を「労働新聞」に報道しただけに、“言葉”だけではなく、“実行”を前提にした行動といえる。文在寅大統領と金正恩委員長の信頼の象徴である「朝鮮労働党中央委本部庁舎と大統領府間の直通通信連絡線を完全に遮断する」処置は、南北関係の最後の安全弁すら危うくなったことを物語っている。ただし、まだ金正恩委員長は直接関与しておらず、「機会の窓」を完全に閉じたわけではない。文大統領を中心にした政府の対応基調や方向、スピードがカギを握っている。

 対北ビラまきは今回が初めてではない。北朝鮮側も統一戦線部報道官の談話(5日)で、「昨年も10回、今年は3回ビラをまいた」と主張した。ところが、なぜ今回はこのように強く問題視するのだろうか。それには2つの理由がある。第一に、北朝鮮へのビラまきは「ビラまきを含むすべての敵対行為の中止」を明示した4・27板門店宣言違反だ。第二に、北朝鮮は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を非常に恐れている。1月28日に「国家非常防疫体制」に切り替え、国境を閉鎖すると共に、正式な輸入品に対しても「10日間放置してから、24時間間隔で3回消毒」の防疫指針を実施している。対北ビラは集めるのが難しく、防疫がさらに複雑だ。また3月初め、一部の脱北者が集まる匿名コミュニティに「北朝鮮地域にCOVID-19を広めるためのプロジェクトを推進中」だとし、「COVID-19患者が使っていた物を購入したい」という書き込みが掲載されてから、削除されたことがある。4・27板門店宣言から2年がたったにもかかわらず韓国側が対北ビラ問題を放置しているという不満の上に、対北ビラを媒介にした外部からのCOVID-19流入の恐怖まで重なり、不満が爆発した可能性がある。統一戦線部談話で「韓国側の汚らわしい汚物を回収し続け、疲労に苦しんできた我々」と言及した部分は、これを念頭に置いたものとみられる。

 北朝鮮当局が対北ビラまきを機に、対南強硬基調を内部引き締めと「自力更生による正面突破戦」を促進する動力にしようとする兆しも見える。「脱北者のクズどもに死を」というスローガンが掲げられた抗議群衆集会や平壌(ピョンヤン)総合病院の建設労働者が「燃える敵がい心を抱いて熾烈な徹夜戦をさらに激しく」展開しているという内容の「労働新聞」9日付1面の記事がその一例だ。

 「段階別対敵事業計画を審議」したという北朝鮮が、9日に南北のすべての通信線を遮断した後に取る対南措置は、事実上すでに予告されている。最初の後続措置は統一戦線部の談話で「必ず撤廃する」と公言した開城(ケソン)の共同連絡事務所になる可能性が高い。「キム・ヨジョン談話」では、「開城工業地区の完全撤去」▽「開城北南共同連絡事務所の閉鎖」▽北南軍事合意破棄を列挙した。北朝鮮は「南朝鮮当局とこれ以上向き合うことも、協議する問題もない」(9日の「朝鮮中央通信」報道)とし、「南側で法案が議決され、実行されるまで、接境地域で南側が頭を悩ませること」(5日、統一戦線部談話)を行うと予告した。

 元政府高官は「韓国政府が板門店宣言を履行するためにも対北ビラに原則的かつ断固として対応し、関連立法に拍車をかけなければならない。究極的に対北朝鮮制裁に阻まれた南北関係の自主性を高める決断を下すべきだ」と述べた。外交安保分野の関係者は「北朝鮮の不満表出が南側を越えて米国に向けて広がる可能性がある。大統領の決断が必要な時だ」と述べた。朝鮮半島情勢を揺るがす“時限爆弾”の秒針が動き出している。

イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/948582.html韓国語原文入力:2020-06-09 21:11
訳H.J

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