北朝鮮の労働新聞は9日、「8日の対南(対韓国)事業部署事業総和会議」で「南北間のすべての通信連絡線完全遮断」措置を指示した主体が「朝鮮労働党中央委員会副委員長キム・ヨンチョル同志と党中央委第1副部長キム・ヨジョン同志」であると報道した。
キム・ヨジョン第1副部長は、対北朝鮮ビラ問題を契機とした最近の北側による対南圧迫の起爆剤になった4日付の談話の主体だ。加えて1989~1992年の南北高位級会談時から30年以上にわたり対南事業に深く関与してきたキム・ヨンチョル副委員長まで再び前面に出てきたということだ。
「キム・ヨジョン+キム・ヨンチョルコンビ」は、その背景を探るべき点が多い。「祖国統一」を国是として前面に掲げた北朝鮮で、対南事業の最高責任者は唯一無二の“最高尊厳”であり“敬愛する最高領導者”である金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長で、実務責任者は労働党統一戦線部長だ。したがって、「対南事業部署総和会議」は統一戦線部長が主宰するのが正常な姿だ。
ところが、韓国統一部が9日に「統一戦線部長はチャン・クムチョルと把握している」と述べたチャン・クムチョルは、労働新聞の報道に登場しない。「対南事業を総括」(5日付の統一戦線部報道官談話)しているキム・ヨジョン第1副部長が実質的に対南対応を主導しているとしても、権力構造上、会議の主宰は「統一戦線部長または職責上その上級がしなければならない」ということが、北朝鮮の権力構造に精通した元高官の指摘だ。労働新聞が会議の主宰者であり指示者としてキム・ヨジョン第1副部長の前にキム・ヨンチョル副委員長を名指した理由と見られる。元高官は「キム・ヨンチョル副委員長が統一戦線部長に復帰した可能性を排除できない」と話した。
北側の対南強硬基調転換の主導者として「キム・ヨジョン+キム・ヨンチョルコンビ」が前面に出た事実を、他の脈絡から探ってみることもできる。「キム・ヨジョン+キム・ヨンチョルコンビ」は、2018年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪高位級代表団として南側に来て文在寅(ムン・ジェイン)大統領に会い、金正恩国務委員長の親書を伝え、南北関係の突破口を開いた。2018年4月27日、5月26日、9月18~20日には文大統領と金委員長の3回の首脳会談に同席した。2018年以後、南北和解協力の流れに深く関与した金正恩委員長の主要な側近だ。
北側としては、対南事業を「対敵事業」として伝えなければならないほどに過去2年を“失敗”と規定した以上、北側の体制の特性に照らせば、この事態に誰かが責任を負わなければならない状況だ。「キム・ヨジョン+キム・ヨンチョルコンビ」が、失敗の責任を負って前面に出たのかも知れないという分析が出てくるのはこのような背景からだ。経験豊富なある元老は「金正恩委員長のリーダーシップの大きな特徴は、“成果主義”であるため、通常はキム・ヨジョンとキム・ヨンチョルに責任を問わなければならないが、キム・ヨジョンに対してそうすることはできないだろう」と指摘した。これは「キム・ヨジョン+キム・ヨンチョルコンビ」が、南側に向けて強力な誹謗と行動に出るだろうという暗い展望につながる。
別の解釈もある。元高官は「キム・ヨジョンが忠誠競争を意図して前面に出なかったのだろう」として「文在寅大統領が南北関係の自主性を高める方向で決断を下すならば道が開かれる余地がなくはない」と希望をつないだ。