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「アカ」とされて満身創痍の人生…「家の保証金200万ウォンが私の葬式代」

登録:2020-05-14 10:11 修正:2020-05-14 14:42
[5・18 40周年企画]  
5つの話-(2)苦痛 

市民軍機動打撃隊出身のナ・イルソンさんの40年 
打撃隊に選ばれてから1日で戒厳軍に連行され 
単純加担なのに「金大中内乱陰謀の同調者」に 
当時激しい暴行を受け、右膝が壊れる 
骨の節々の痛みのうえに幻聴まで聞こえ苦しむ 
毎日睡眠誘導剤を10錠以上飲まないと眠れない

5・18民主化運動当時、殴打の後遺症で不眠症に苦しむ市民軍機動打撃隊出身のナ・イルソンさんが、睡眠誘導剤を処方してもらうため病院に向かっている=キム・ヨンヒ記者//ハンギョレ新聞社

5・18光州(クァンジュ)民主化運動がはや40周年を迎えるが、完全な真実究明と責任者処罰を求める声は依然として残っている。ハンギョレは新軍部のむごい暴力によって人生がもつれた人々の話を▽別れ▽苦痛▽忘却▽懺悔▽復活の5つのキーワードに分けて聞いた。市民だけでなく、命令に従って光州に投入された“普通の軍人”たちも歴史の被害者であり、彼らの荒い息づかいはいまも現在進行形だ。40年目の5・18の5つの話を、3回に分けて掲載する。

 光州広域市西区(ソグ)のある賃貸マンションに住むナ・イルソンさん(59)は最近、韓国の解放戦後史を勉強している。5・18民主化運動当時、市民軍の機動打撃隊員として活動した彼は、若い頃に「アカ」と決めつけられ、まともな職につけず、肉体労働などを転々とした。現在は殴打の後遺症で体調を崩し、政府から支給される基礎生活受給費(日本の生活保護にあたる)に頼って13坪(43平方メートル)ほどのマンションで一人暮らしをしている。

 「5・18直後、祖父が『アカは家に帰ってくるな』と言ったんです。いまでもアカとは何なのか分からなくて、死ぬ前に勉強してみようと思っています」

 1980年5・18光州民主化運動当時、ナさんは市民軍の機動打撃隊に選ばれた。5月27日未明、旧全南道庁の裏門を守っていたところ、戒厳軍に捕まって尚武隊営倉に連れて行かれた。機動打撃隊は戒厳軍の鎮圧計画を聞いた抗争指導部が5月26日午前に結成した決死抗戦組織で、主に巡察と治安を担当した。ナさんは「単純加担者」だったが、最終的に「金大中(キム・デジュン)内乱陰謀同調者」になっていた。

2008年4月、5・18機動打撃隊同志会団結会で、ナ・イルソンさん(右)が仲間たちと話をしている=5・18機動打撃隊同志会提供//ハンギョレ新聞社

 調査のたびに殴られ、右膝が壊れた。1980年6月、自殺を試みたが失敗した。その年の10月26日、一審で長期7年、短期5年の刑を言い渡されたナさんは、4日目に釈放された。翌年の1981年3月3日、全斗煥(チョン・ドゥファン)の大統領就任を契機に赦免復権の通知書が届いた。自分たちが勝手に捕まえて拘束し殴打して裁判をしたのに、突然赦免とは。敵がい心と虚脱感に襲われ、生きる意欲がなくなった。家族に内緒で睡眠薬50錠あまりを飲み込んだが、死なずに3日で目を覚ました。夜には骨の節々がうずく苦痛にもがき、耳には幻聴が聞こえ、精神まで疲弊した。苦痛を忘れようと酒に浸り、アルコール依存症とうつ病も発症した。そんな中、1984年に5・18墓地で偶然出会った女子大生と結婚し、2人の娘をもうけたが、家庭は4年で崩壊した。家族をなおざりにして5・18名誉回復と民主化運動にばかり走り回ったためだった。

詩人のキム・ジュンテさんが5・18市民軍機動打撃隊出身のナ・イルソンさんに書いた献詩。ナさんはこの詩を自分の墓碑に刻む予定だ=キム・ヨンヒ記者//ハンギョレ新聞社

 1990年5・18被害者補償の際、障害12等級を受け、約4000万ウォン(約350万円)を受け取ったが、大きな助けにはならなかった。タクシー運転や建設現場、日雇いなどで生計を立ててきたが、十年以上前から腰と足がひどく痛んですべての仕事を辞めてからは、一人で過ごす日が多い。1カ月の所得は基礎生活受給費52万ウォン(約4万6千円)と光州市が支援する5・18民主有功者生活支援金10万ウォン(約8800円)がすべてだ。ご飯の代わりに酒で食事を済ませ、たまに昔の仲間に会うのが慰めだ。

 焼酎の代わりにマッコリを飲んでアルコール依存症を克服しようと努力している。しかし不眠症は相変わらずで、毎晩睡眠誘導剤を10錠以上飲まないと眠れない。ナさんは「手元に200万ウォン(約17万5千円)あればいい」と言う。自分の葬式費用だ。

 「家の保証金がちょうど200万ウォンなんです。他人に借金さえ負わなければいいと思うので、気は楽です。私のために苦しんだであろう家族や仲間たちにすまない気持ちでいっぱいです」

 2000年、全北大学看護学科のピョン・ジュナ教授とパク・ウォンスン弁護士(現ソウル市長)が共同で発行した『癒されない五月』によると、ナさんのような5・18による連行・拘禁者5500人余りは長期間の痛みに苦しみ、鎮痛剤やアルコールなど薬物に依存する人生を生きている。昨年、慶尚大学のキム・ミョンヒ教授は5・18 39周年記念学術大会で発表した『5・18関連自殺とトラウマの系譜学』で、1980年から昨年まで計46人(推定)が自殺を図ったと明らかにしている。

キム・ヨンヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/area/honam/944545.html韓国語原文入力:2020-05-12 08:01
訳C.M

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