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[記者手帳]文大統領が言及した「人間の安全保障」の含意

登録:2020-05-12 08:10 修正:2020-05-12 09:27
文在寅大統領が就任3周年を迎えた今月10日午前、大統領府で国民に向けての特別演説を行っている=大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)防疫の成功モデルを作り出した韓国に対する世界の人々から賛辞が送られている。国民みなが“国家の品格”が高まったという自負心を感じるに値する。しかし、人類の前に置かれたさらなる脅威である気候変動への対応に関する韓国の“国家の品格”は、依然として低いままだ。言葉と行動が一致していないからだ。

 韓国政府はこれまで、気候変動への対応において先進国と発展途上国の懸け橋になると語ってきた。2009年には低炭素グリーン成長で気候変動対応の先導国になると宣言した。韓国の温室効果ガス排出量は、その後も経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で増加率1位を記録し、2010年の6億5760万トンから2017年には7億910万トンに増えた。国連の勧告を無視して、温室効果ガスの排出の主犯である石炭発電所を引き続き建設し、開発途上国への石炭発電の輸出の中止を求められたにもかかわらず、様々な理由をつけて言い逃れを続けてきた。韓国が国際社会で“気候悪党"と呼ばれるのもそのためだ。共にバッシングを受けてきた日本でさえ最近、石炭発電の輸出を中止する動きを見せており、このままでは韓国はOECD加盟国の中で唯一の石炭発電輸出国としてさらに悪名を馳せるかもしれない。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が10日、就任3周年の特別演説で「人間の安全保障を中心に置いてポストコロナ時代の国際協力を先導していく」と宣言した部分に特に注目が集まるのは、このような周辺状況のためだ。「人間の安全保障」とは、軍事安保を超えて人間の日常的生活と尊厳を脅かす全てのことから人間を保護することを指す。国連開発計画(UNDP)は「1994年人間開発報告書」で初めてこの概念を紹介し、食糧や健康などとともに環境を人間の安全保障の7つの下位範囲の一つとして提示した。

 人類がともに解決しなければならない世界最大の環境問題が気候変動であることを否定する人はあまりいない。実際、気候変動は食糧や健康、経済まで左右し、人間の安全保障の下位範囲を越え、人間の安全保障そのものと呼ぶに値する。世界の各界の指導者が毎年集まる世界経済フォーラムで、気候変動がここ数年間に人類に襲いかかってきた最大の危険と指摘されてきたこともこれを裏付ける。

 文大統領は演説で、人間の安全保障の対象として気候変動について直接言及はしなかった。しかし、多くの人間の安全を脅かす要因の中で、災難や疾病と共に環境問題を特別に言及した意味に注目すべきだ。海外のマスコミも注視する文大統領の演説文に環境問題が含まれたのは偶然ではないはずだ。

 いまや大統領府の参謀陣と関連省庁には、人間の安全保障に向けた国際協力の先導国になるという大統領の宣言を実現するロードマップを作る課題が残された。それがどのような形で描かれようとも、出発点は粒子状物質(PM2.5など)と温室効果ガスを共に売り渡すような石炭発電の輸出の中止でなければならない。“気候悪党”であり続ける限り、“人間の安全保障を先導する国”にはなれない。韓国電力から近く行われるベトナムやインドネシアなどへの国外石炭発電投資の最終決定が注目されるのも、そのような理由からだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンス先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/society/environment/944448.html韓国語原文入力:2020-05-12 02:42
訳H.J

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