「風邪気味かもしれない」
米バージニア州フェアファックス郡で事業を営んでいる在米韓国人のAさん(64)は、先月30日、発熱と風邪の症状を示す妻(64)を見て、不安がよぎった。症状が出る4日前、看護士の妻が担当した90代のお婆さんが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)陽性判定を受けたからだ。Aさんの不安はまもなく現実となった。妻は一週間前、地域の保健所で感染が確認された。それから、彼の家族には苦しい時間が続いている。呼吸困難と高熱を訴えた妻は自宅療養を指示されただけで、彼と子どもたちは検査すら受けられない。
Aさん8日、ハンギョレとの電話インタビューで「現地の状況は極めて深刻だ。米国内で多くの患者と接触者がきちんとした検査と治療を受けられない」と伝えた。同日基準で米国では約39万人がCOVID-19に感染しており、死者も1万2千人を超える。今月2日、妻の症状がひどくなり、急いで米疾病統制予防センター(CDC)と地域保健当局に連絡してみたが、なかなか検査してもらえなかった。「検査装備不足のため、(感染が疑われるからと言ってすぐに)検査を行うわけにはいかないい。主治医からCOVID-19が疑われるという確認書と処方箋をもらってきてほしい」と言われた。書類を準備するには時間がかかるため焦っていたAさんは「妻が働く病院で感染者が出た」と説明し、ようやく近くの保健所に行くように指示された。
結局、彼の妻は保健所前の駐車場で「ドライブスルー」方式で検査を受け、翌日電話で陽性判定が出たという通知を受けたが、それだけだった。彼は「保健所では薬を処方することもなく、1週間自宅隔離しろと言われた」と話した。米国の各地域の病院はCOVID-19重症患者に限り、入院治療を行うためだ。妻の感染が確認されてから、Aさんと子どもたちの感染も心配だったが、町の主治医はなかなか確認書を書いてくれなかった。「感染者と一緒に生活しても、症状がない限り検査を受けるのは難しい」と言われた。
しかし、妻の症状は高熱と呼吸困難などで日増しに悪化していった。3年前、心臓疾患で手術を受けた妻の状態を心配したAさんは。結局5日に911に連絡してからようやく病院に行くことができた。救急車には妻一人しか乗れず、病院に運ばれたその日に退院させられた。手術歴まであるにもかかわらず、酸素飽和度の数値が正常に近いというのが理由だった。幸い、家に帰ってから妻の症状は次第に好転したが、Aさんはまだ安心できない。
Aさんの家族は現在1週間以上隔離状態で一つの屋根の下で生活している。妻とは別の部屋で過ごし、食事を運ぶ時だけ顔を合わせる。大学生の子供2人は地下の部屋で寝泊まりしている。家族同士の連絡には携帯電話を使っている。必要な医療物品や生活必需品の調達にも苦労している。COVID-19の感染拡大で、米国内で「買い溜め」の動きが広がっているからだ。彼は「2週間前にスーパーに食料品を買いに行ったが、入るまで1時間半も待たされた。小麦粉や鶏肉を購入できない日もあり、タイレノール(解熱鎮痛剤)や消毒液、体温計など患者のための物品購入はさらに厳しい状況だ」と語った。
Aさんは「自発的に家族で隔離規則を守っているが、保健当局の管理は全く行われていない。感染者に対する疫学調査も体系的に行われていないようだ」とし、「妻が働く病院では医療陣すらマスク不足で悩んでいる。感染する前に出勤していた妻から、赤ちゃんのオムツやティッシュを切って口をふさいでいるという話を聞いた」と話した。