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新型コロナ事態が露わにした嫌悪…中国人や大邱、新天地まで

登録:2020-03-10 07:49 修正:2021-10-08 07:20
[差別禁止法は共に生きるための法律] 1.中国嫌悪 
感染の不安に駆られ、「中国罵倒」が急速に拡散 
被害地域の大邱まで非難が移動 
「劣等・未開」だとして、無分別に追及 
無形の暴力に正当性を付与 
人種・性別など集団的排除を煽る

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事態で、中国人を中心とした嫌悪が広がった。最近、性的マイノリティのトランスジェンダーの女性が軍隊から強制転役された後、女子大学に入学しようとしたことをめぐり、大学内外から嫌悪世論が巻き起こった。精神障害者は常に偏見と嫌悪の場に召喚される。我々は果たして、嫌悪に停止ボタンを押すことができるだろうか。ハンギョレはそのスタート地点として、2007年以降13年間、国会の敷居を超えられずにいる「差別禁止法」の立法を開始すべきだと判断した。これに基づき、マイノリティの話やデータ分析、専門家の助言、社会力学者のキム・スンソプ高麗大学教授との碩学対談を企画シリーズで連載する。

新型コロナ発生以降の「中国」と感性関連ワード※1月18日~2月26日に「中国」と共に言及された感性ワード(感情表現と関連した言葉)の順位(資料:ソーシャル・マトリックス・トレンドホームページ)//ハンギョレ新聞社

 危機は外部の敵を必要とする。不安と恐怖の責任を負わせるためだ。さらに、外部の敵は内部の結束を強化する。公共の敵は常に(社会との)繋がりが弱いどこかに存在する。“正常”より“劣等”であり、“未開”な部分にこそ、責任を問う時に危機の原因が鮮明に現われ、責任追及にも正当性が生まれると思われているからだ。目に見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の恐怖が韓国社会を揺るがした2020年の冬にも、この命題はそのまま繰り返された。

 COVID-19が初めて韓国に紹介されたのは今年1月2日だ。その二日前、香港の「サウスチャイナ・モーニングポスト」が武漢市の発表を引用し、COVID-19について報道したことを受け、韓国マスコミは先を争って「中国武漢のある海鮮市場でウィルス性肺炎が集団発病し、珍しい伝染病が発生したのではないかという懸念が高まっている」と報道した。以降、しばらく静かだった世論は1月20日、国内で最初の感染者が確認されたことで、再び火がついた。感染者が相次ぎ、23日には中国政府が武漢封鎖令を下したことで動き始め、同日「中国人の入国禁止要請」が大統領府の国民請願に掲載され、合わせて76万1833人の同意を得た。旧正月の連休前後に中国同胞の密集地域であるソウル大林洞(デリムドン)に対する嫌悪感が広がり、23日にはあるコミュニティに「武漢肺炎が心配だが、“朝鮮族”の家政婦を辞めさせた方がいいでしょうか」という書き込みが掲載され、28日にはソウルに「中国人出入り禁止」を掲げたレストランも登場した。

 ダウムソフトが運営するビックデータ分析サイト「ソーシャル・マトリックス・トレンド」の調査結果によると、COVID-19が国内に報道される前の昨年12月の一カ月間、ネイバーに掲載された全ての記事やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、ブログに“嫌悪”と共に言及された関連ワードは主に「女性」や「自己嫌悪」、「嫌悪発言(ヘイトスピーチ)」、「障害者」などだった。しかし、COVID-19感染者が発生し始めた1月第5週(1月26日~2月1日)には「女性」や「人」に続き、「中国」が3位に上がり、「コロナ」が初めて5位に登場した。さらに2月第3週(16~22日)からは「中国人」が2位、「中国人嫌悪」が10位、「中国人の入国」が12位に上がり、2月第4週(23~29日)には「新天地」が3位に上がった。国内感染者の動線が公開され、彼らに対する非難が殺到したのも、この時からだ。

「チャンケ」の言及量の推移(単位:回)//ハンギョレ新聞社

 中国人を蔑む意味の「チャンケ」という嫌悪表現の使用頻度も高くなった。昨年12月第5週(12月29日~1月4日)に「チャンケ」という嫌悪表現が使われた回数は計710回だった。しかし、1月第5週には1万1029回で、1カ月で15.5倍も急増した。インターネットで中国を検索した際、共に言及された「感性語」(感情表現と関連した言葉)も否定的に方向に変わった。昨年12月18日から今年1月18日まで1カ月間、「中国」と共に言及された主要感性語は「ありがたい」や「良い」、「助け」などだった。しかし、それから1カ月(2月26日まで)は「感染する」や「嫌悪」、「恐怖」に変わった。中国に対する全体感性語のうち否定的な表現の割合は30%から72%に急増した。ソーシャル・ビッグデータ分析専門会社「サイラム」のペ・スジン課長は「過去にもこのような反応はあったが、最近は高高度防衛ミサイル(THAAD)紛争以降、中国がならず者のように振る舞い、韓国に被害を与えていると考える世論が、若年層を中心に広がった。香港の民主主義要求デモ弾圧の時も似たような世論が形成された」とし、「特にネットユーザーらがCOVID-19について最も初めて接した情報が食用野生動物を売る武漢市場における伝染病の発病なので、『中国人は非衛生的だ』という偏見に加え、『中国人は未開だ』という嫌悪反応が登場した」と説明した。社会批評家のパク・クォニル氏も「外国人だからといって無条件的に嫌悪するわけではない。中国人に対する嫌悪は異質的なもにに対する嫌悪というよりは、劣等なものへの嫌悪だ」とし、「中国は今、経済的にも軍事的にも大国だが、中国人一人ひとりは韓国より劣っているという考えを持っている韓国人が多い」と指摘した。

 ハンギョレの独自調査でも同じ流れが現れた。ハンギョレはプログラミング言語「パイソン」(Python)を利用し、1月18日から2月26日まで40日間、ツイッターで「コロナ」または「武漢」という言葉の入ったツイート69万9254件を収集した。分析結果、1月25日のツイッターで「武漢」や「コロナ」、「チャンケ」という表現が言及されたツイートは378件だった。特に「チャンケ」という嫌悪表現は「中国人の入国禁止」を要請する大統領府国民請願が掲載された1月23日には32件だったが、請願の参加者が20万人を突破した3日後、1013件へと31.6倍急増した。該当の言葉が「チャンケのような言葉は使わない方がいい」などという肯定的な脈絡で使われたツイートは集計から除外された。

 ツイッターの分析で「中国」や「大邱」、「新天地」と共に最も多く言及された単語100個を調べた際も、差別と排除を連想させる言葉が目立った。「中国」と共に言及された言葉は「武漢肺炎」(7位、9277回)や「禁止」(12位、6241回)、「封鎖」(29位、2068回)、「嫌悪」(38位、1700回)などがあった。「大邱」と共に言及された言葉には31人目の患者を指す「31番」(13位、2670回)が比較的高い順位にランクされた。「封鎖」(18位、1969回)や「閉鎖」(34位、1166回)、「大邱コロナ」(40位、1057回)、「遮断」(65位、607回)、「大邱肺炎」(78位、553回)も主に言及された。

 危機はいかにして嫌悪を招くのか。この地点で西江大学のチョン・サンジン教授(社会学)の分析が興味深い。チョン教授は「社会的かつ国家的な危機状況に直面すれば、これが引き金となり、潜在していた否定的な感情を刺激する。このような現象は韓国だけのものではない」としたうえで、「疾病や災害が襲うと、本人たちが感じる認知的混乱や感情的不満、道徳的な動揺の3つを解消する対象を探すが、これが中世の魔女狩りのようにスケープゴートを探す方法で現れたもの」だと説明した。チョン教授は「特に、今回のCOVID-19は発源地が初期から中国武漢であることが特定されていた。そのため、スケープゴートが中国人に設定され、嫌悪を通じて不安や恐怖のような心情的問題の解決策を見出すことになった」と指摘した。

 COVID-19事態におけるスケープゴートの仕組みは、大邱で感染者が続出し、大邱へと向かうかのように見えた。大邱で31人目の感染者が出た先月18日、ツイッターではCOVID-19関連ニュースが「#大邱コロナ」と「#大邱肺炎」というハッシュタグと共に共有された。同日、この2つのハッシュタグが登場したツイートは43件だったが、政府が感染病危機警報を「警戒」から「深刻」段階に引き揚げた23日には、5日で2446件に急増した。韓国国内で初めて感染者が出る前日の1月19日、「武漢肺炎」と「#武漢コロナ」というハッシュタグがついたツイートは15件に過ぎなかったが、20日に432件、21日には4011件に急増し、28日には5765件で最高値を記録した。

 その後、31人目の感染者が新天地イエス教会の信者という事実が伝えられ、新天地の信者を中心に急速にCOVID-19が広がるにつれ、大衆の怒りは新天地へと向かった。「#新天地コロナ」が武漢と大邱関連のハッシュタグよりも頻繁に言及され始めた。「#新天地コロナ」のハッシュタグは感染者20人のうち14人が新天地の信者という事実が知られた19日、ツイッター上で初めて登場した。以降、ツイッター上で「新天地」と共に言及された言葉は罵詈雑言や卑俗語が2062回で、大きな割合を占めた。COVID-19の危機によって大衆の否定的な反応が中国から大邱、新天地へと次第に移った流れがわかる。

 これは結局、誰もが嫌悪の加害者や被害者になりうるという事実を示す典型的な事例だ。成均館大学のチョン・ジョンファン教授(国語国文学)は「伝染病は誰でもかかり得るし、世界的に広がる現象なのに、特定地域や性別、人種のようなアイデンティティ指標について否定的な表現をつけるのは、嫌悪と差別の基礎になりかねない」と指摘した。東亜大学のクォン・ミョンア教授(韓国語文学)も「実際の生活で後ろ指を差すように、(このようなハッシュタグは)皆がその人々に注目を集める。そうなれば特定集団を排除して区画して封鎖する効果をもたらす」と述べた。

オ・ヨンソ、クォン・オソン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
http://www.hani.co.kr/arti/society/rights/931870.html韓国語原文入力:2020-03-10 05:00
訳H.J

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