コロナウイルス感染症(COVID-19)の余波で「災害基本所得」の議論が熱い。脆弱階層に政府補助金を直接支給して所得を満たそうという主張だ。香港とマカオは似たような内容の基本所得案をすでに用意しており、直ちに支給する予定だという。災害に準ずる状況であるだけに、制限された領域に一時的に基本所得を支給する案を積極的に検討するに値する。
SOCAR(カーシェアリング会社)のイ・ジェウン代表の提案により触発された災害基本所得の議論には、与野党、進歩・保守の全てが肯定的に応じている。新党である時代転換、基本所得党、未来党が似た提案をしており、未来統合党のファン・ギョアン代表も呼応した。共に民主党も脆弱階層中心の災害基本所得の導入を主張した。スピード感ある議論と検討を行う条件が用意されたわけだ。
本来の意味の基本所得は、所得水準とは関係なく全ての国民に補助金を支給する内容だ。イ・ジェミョン京畿道知事、キム・ギョンス慶尚南道知事がそのような普遍的な案を提案した。支援対象を選別するのに要する時間と行政費用を惜しみ、高所得層に支給した分は後で税金として納めさせればよいとの概念だ。
一見、説得力があるように見えるが、弱点がある。多額の金が掛かるだけでなく、交付システムが十分に用意されておらず、現実性に乏しいという点だ。国家が確保している国民の個々人の情報は居住地中心であり、口座情報などは確保していない。ホームレスや住所不明者のような空白地帯もある。基本所得支給の後に増税法案を用意する過程で激しい議論が避けがたいという弱点もある。場合によってはポピュリズムの是非と政争だけが激しくなることがあり得る。普遍的基本所得支給を公約として掲げている時代転換さえ、COVID-19事態に対しては制限的基本所得案を提案したのは、そのような理由だ。
現在の条件では、脆弱地帯である小商工人、零細自営業者、非正規職、日雇い労働者に支援を集中することができる“制限的な案”がより現実的で望ましく見える。予算をそれほど要せず、既存の補助金交付システムを活用することができ、早期に推進できるからだ。11兆7千億ウォン(約1兆600億円)規模の政府追加予算案には、基本所得の趣旨を盛り込んだ予算2兆6千億ウォン(約2300億円)がすでに反映されている。脆弱階層580万人に商品券と現金を直接支援する内容だ。このような性格の予算規模を増やして支援対象を広げれば、災害基本所得を盛り込む効果を高めることができるはずだ。そのためには補正の規模を増やしたり二次補正を準備しておく必要がある。
災害基本所得の議論に引き続き、追加予算案の規模の破格的拡大の提案が民間部門からも出ている。大韓商工会議所のパク・ヨンマン会長は9日の記者懇談会で「COVID-19のために前代未聞の状況」だとし、「経済成長率が1%ポイントを超えて落ちることに備えるには(財政投入が)40兆ウォン(約3兆4000億円)程度必要だ」と述べた。脆弱階層の救済から進み経済悪循環の輪を遮断するためだからだ。国内でCOVID-19事態がすぐに終わりそうにもない上、米国・欧州では今始まったとの話が出ているだけに、財政当局が非常事態の認識を持たなければならない時だ。