「絶壁の前で立場がなかったピョン・ヒス下士(階級名)は勇敢に自分を世界にさらしました。軍はいつまで卑怯な態度を貫くつもりですか?」。最初のトランスジェンダー軍人ピョン・ヒス下士が、ついには強制除隊させられるのを見守っていた元陸軍将校Aさんは28日、ハンギョレに語った。Aさんは2017年「陸軍性的マイノリティー摘発事件」で、性的マイノリティーという理由で捜査を受け、自ら転役(ここでは退役のこと)を選んだ。勇気をもって公開記者会見を開き「この国を守る軍人になる機会を与えてほしい」と涙ながらに訴えたにもかかわらず、その夜12時をもって強制転役となったピョン下士を見ながら、Aさんは様々な感情が交差した。Aさんは「軍は依然として性的マイノリティーを包摂できていない」と批判した。
2017年3月に起きた陸軍性的マイノリティー摘発事件は、当時のチャン・ジュンギュ陸軍参謀総長が性的マイノリティー軍人を摘発するよう指示したという軍人権センターの暴露により初めて世に知られることとなった。陸軍中央捜査団は同性の軍人間での性的行為を罰する軍刑法第92条6項に違反したとして、性的マイノリティー軍人たちを捜査し、同年4月には1人の陸軍大尉が拘束された。約4万人の市民が釈放を求める嘆願書を提出して抗議したが、性的マイノリティー軍人23人が刑事立件され、そのうち9人が裁判にかけられた。11人は容疑をかけられたものの起訴猶予処分となった。
海軍でも同様の摘発事件が起きた。ある性的マイノリティー軍人が兵営生活相談官のもとを訪れ、他の軍人と合意の上で性的関係を持ったことを話し、相談官の報告で憲兵による捜査が始まった。摘発された軍人1人は起訴猶予処分となった。性的マイノリティー軍人摘発事件からピョン下士の強制転役まで、性的マイノリティー軍人は性アイデンティティーと性的指向を理由に、自らの意思に反して軍を離れたり、離れる危機に陥ったりした。性的マイノリティーという理由で除隊したり、転役の危機に直面した軍人は現在まででピョン下士を含めて計5人。性的マイノリティー摘発事件で起訴猶予となった陸軍幹部2人は、去年の長期服務選抜で脱落したり、進級の過程で不利益を受け、転役を控えている。性行為のやり方まで聞いてきた軍検察の捜査に屈辱を感じて自ら転役を選んだ軍人も2人(軍人権センター集計)いる。軍人権センターのキム・ヒョンナム事務局長は「有罪判決を受けた他の軍人も同じ手順を踏む可能性が高く、転役する性的マイノリティー軍人は増えるだろう」と予想する。
性的マイノリティー軍人は、単に他人と異なるアイデンティティーを持つことが罪になるのかと問い返す。元将校のAさんは「性的マイノリティーは違って見えたりユニークに見えたりするかも知れないが、軍隊にはもっと変わった人も多い。性的マイノリティーが軍の戦闘力を弱めるという実証的な証拠はどこにもない」と述べた。だが「任官後、つらい訓練を経て軍に対する自負心だけは高かった。ところが摘発事件を経てから、私にとって軍は身の毛がよだつほど恐ろしい存在になった」と打ち明けた。
陸軍本部によるピョン下士強制転役決定後、市民社会団体からも性的マイノリティー軍人に対する差別をやめよという声があがっている。韓国女性団体連合は声明を発表し「今回の決定は軍が特定の男性の体だけを軍に服務する資格があると設定し、それに合致しない存在を差別し排除するという時代錯誤的な慣行を繰り返すもの」と批判した。民主労働組合総連盟も声明を出し、「ピョン下士の転役は性アイデンティティーを理由とした差別であり、労働権に対する深刻な侵害だ」と指摘した。