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「子どもがどこに住んでいるのかも知らないのに…」みなし扶養費で削られる生活給付金

登録:2019-10-04 10:38 修正:2019-10-04 12:06
貧困層泣かせの「削減福祉」 
事業の失敗で妻と6人の子どもは散りぢりに 
扶養義務者の所得が増加したという理由で 
入金されてもいないお金を所得とみなし 
40万ウォンの給付金のうち30万ウォンが削減されることも 
給付金を原状回復する過程も「いばらの道」
「生計給付金」を受けなければならないほど経済的困難を負っていても「みなし扶養費」によって生計給付金まで削減されている世帯は約6万2千世帯にのぼる。この世帯のうち60%が1人世帯だ。写真は一人暮らしの老人がテレビを見ている姿=ハンギョレ資料写真//ハンギョレ新聞社

 「金のない暮らしをしているから、千ウォンでも大きなお金だったんだ。でも(生計給付金を)削られまた削られて…。お金がないのがこんなに悲しいとは思わなかった。こうなったのが恥ずかしくて友達にも助けてくれと言えない。誰にも訴えられない」

 30日、ハンギョレと会った70歳のキム・チョルスさん(仮名)はしばしばため息をついた。ソウルで一人で生活する基礎生活(日本の生活保護にあたる)受給権者である彼は、生計給付金が入金される毎月20日には、銀行に行き必ず通帳記入をする。月21万ウォン(約1万9千円)の生計給付金がまた削られていないか不安だからだ。キムさんは理由も分からないまま生計給付金が削られたことが一度や二度ではない。

■入金されない所得

 キムさんが貧困の沼に陥ったのは20年前からだ。一時業績がよかった事業が倒産し、保証人となった悪材料が重なり、健康まで失った。現在、1人世帯は生計給付金の支給基準である51万2102ウォン(約4万7千円)から月所得認定額(所得評価額+財産の所得換算額)を除いた残りの金額を生計給付金として受け取ることができる。働くこともできず、貯めた財産もないので、1カ月の所得は当然「0ウォン」。にもかかわらず、生計給付金が21万ウォンである理由は、毎月30万ウォン(約2万7千円)ずつ受け取っている基礎年金が所得とみなされるからだ。

 それだけでなく、入金すらされていない所得のために彼の生計給付金はしょっちゅう削られた。「みなし扶養費」のためだ。2015年末、キムさんが初めて地域の住居福祉センターを訪れた後、最近まで相談した内容によると、みなし扶養費のせいで生計給付金の「削減→復元」の過程が何度も繰り返されていた。みなし扶養費とは、キムさんのような基礎生活受給権者の子どもや親など扶養義務者の所得水準が「扶養能力微弱」区間の場合、扶養費を支給するものとみなす金額だ。このようなみなし扶養費は、基礎年金と同様、受給世帯の所得とみなされ、その分生計給付金が自動的に削減される。

■連絡が途絶えた6人の子どもに扶養責任

 キムさんが「子どもたちの所得のために」生計給付金が削られ始めたのは、2015年末に遡る。当時は基礎年金(約20万ウォン)を申請する前であり、約43万ウォンの生計給付金を受けていた。ところが、ある月から3万~4万ウォン少なく振り込まれていた。家賃20万ウォンを滞納していた彼には、1万ウォンも惜しかった。ついに住民センターを訪れた。「結婚した娘さんの所得が少しあった」という答えが返ってきた。どういうことか分からなかった。

 彼にも一時家族がいたことはあった。生活に波風が吹きつけ、妻と別れ、6人の子どもたちもろくに面倒を見られなかった。今は子どもたちがどこで何をして暮らしているのかも知らない。にもかかわらず、現行法は子どもたちに彼の扶養義務責任を押し付ける。2016年秋から翌年春までは、毎月生計給付金の40万ウォンのうち30万ウォンも削られた。子ども6人のうち誰かも分からない一人の所得が上がったため、みなし扶養費がつけられた。そうした中、もう一人の子どもの所得が変わり、「みなし扶養費」がさらに加わった。政府は毎年上・下半期の2回、受給者と扶養義務者世帯の財産と所得の変動内容を調査し、受給資格維持と給付金額を調整する。

 彼の通帳にはお金が入ってもいないのに生計給付金が削られた時、これを元の状態に戻す過程も難しかった。扶養義務者が扶養を拒否する状況を「例外的に」認められなければならないからだ。福祉部が発行した2019年基礎生活保障事業案内によると、受給権者から家族関係解体証明書を受け取り、受給権者と扶養義務者世帯の金融情報など事実調査をもとに、地方生活保障委員会(地生保委)の審議・議決を経ることになっている。しかし、この過程で受給権者たちは過度に多くの証拠資料の提出を求められ、地生保委の審議の機会も得るのが難しいというのが、貧民団体の活動家たちの意見だ。

■家族関係の解体を証明しなければならない苦痛

 家族関係の解体は、貧困層の高齢者たちが自ら示すのを避けたがる傷だ。キムさんも、生計困難を負いながらも子どもとの関係を自分の手で断つのを3年間ためらった。昨年10月に再び子どもの所得の変動で10万ウォンの生計給付金が削られると、ついに家族関係の解体事由書を書いて住民センターに提出した。「あまりにもつらい…」。戻れない過去と信じられない現実の話を行き来しながら話していたキムさんから、涙混じりの声が漏れた。

 生計給付金の受給者らを対象にしてきたソウル市のある社会福祉公務員は、「みなし扶養費のため生計給付金が削られる世帯の半分以上は、実際には扶養義務者から支援を受けることができず苦しい状況にある」とし、「家族解体基準が曖昧な時があり、不正受給を懸念する消極的な行政のせいで、死角地帯に置かれている」と語った。

パク・ヒョンジョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/911965.html韓国語原文入力:2019-10-04 04:59修正:2019-10-04 08:29
訳C.M

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