「小学校3年生から塾に通い、平日は塾が終わったら夜10時です。週末も塾に行って英語の文章を覚えたり、読解問題を解いたり。お母さんに『どうしてここまで勉強しなければならないのか』と聞いたら『今は高校も入試があるからね』と言うんです。いつまでこんな風にしなければいけないのかと思います。日曜日に塾が全部休めばその日だけでも休めるんじゃないでしょうか」。
17日午後、ソウル市西大門区(ソデムング)にある有名な塾の近くで会った中学校1年生チェ・ジョンユン(仮名)の言葉だ。口元に水ぶくれのあるジョンユンは、「塾の日曜休業制」という言葉にしばらく目を輝かせ、「次の塾」に向かって急いだ。大人も「週5日勤務」の時代に子どもたちは「週7日学習」に追われている。
ソウル市教育庁が「塾の日曜休業制」導入に向けて「熟議民主主義公論化」を本格的に開始すると19日明らかにした。ソウル市のチョ・ヒヨン教育監の主要公約の一つである「塾の日曜休業制」は、日曜日だけでも塾に休業義務を課し、生徒に「休みのある週末を返そう」という制度だ。ソウル市教育庁は20日から始まるオンライン・電話による事前世論調査と、「公開討論会」および200人余りの市民参加団が行う討論を通じて、今年11月までに「塾の日曜休業制の公論化」を終えると発表した。今回の公論化が「入試地獄」の中にいる生徒たちに「息つぎの穴」となり、生徒たちの「余暇権」「休息権」「健康権」に対する認識変化につながるか注目される。
大学はもとより、高校まで序列化してきたことで、年ごとに私教育(公教育の反対語。塾や習い事)費は増えている。昨年、小・中・高校生の私教育費の総額は19兆5千億ウォン(約1兆8千億円)で、前年の18兆7千億ウォン(約1兆7千億円)より8千億ウォンも増えた。今年の政府の研究・開発(R&D)予算20兆ウォンに匹敵する規模だ。英才高校、科学高校、外国語高校、自律型私立高校などが増え、高校受験まで過熱し、私教育開始年齢がますます下がり、深夜や週末にまで塾に通う生徒が増えた。ソウル市教育庁教育研究情報院が2017年に発表した「塾の休日休業制および塾月謝上限制導入案の研究」によると、中学生の三人に一人に当たる33%が日曜日にも塾に通っている。特殊目的高校の入試競争が激しくなり、中学生の高校入試に対するプレッシャーや不安も高まっている。中学校2年生のソ・ヒョンス(仮名)は「平日は10時まで塾に通い、週末にも科学と論述の塾に通っている」、「科学高校に行きたいけれど、単なる希望事項」と苦い顔を浮かべながら言った。ヒョンスは「塾に行くのは大変だけど、塾に行かなければ自分が怠けそうで怖い」と不安をあらわにした。このような子どもたちは、小学校の時から食事すら適当に済ませており、夜遅くまで「勉強」に苦しめられている。
18日の夕方6時頃、小・中・高校の学習塾が密集するソウル市瑞草区(ソチョグ)サムホガーデン交差点は塾からあふれ出てくる子どもたちでにぎわっていた。彼らのうち相当数が小学校2~3年だった。夕食の時間だが、子どもたちは家に帰らず近くの食堂に向かった。母親たちが時間に合わせて注文しておいた海苔巻きやクッパのような食べ物を食べるためだ。子どもたちはたった15分でさっさと飯を「飲み込んで」塾に向かった。近くに住むという子どもの親パク・イェウォンさん(仮名)は「二カ月間、一学期先の学習内容を教えてくれる有名な数学塾があるのだが、入学競争が熾烈」、「小学生が英・数学塾にだけ通っていても終わるのは毎晩8~10時」と語った。
「塾の行き過ぎ」で子どもたちの精神の健康に「赤信号」が灯っているという統計も出ている。今年5~7月、中学校2・3年生、高校2年生1600人余りを対象とした「江南区(カンナムグ)青少年私教育・精神健康現況調査」報告書によれば、中高生の43.1%が学業ストレスを感じていることが分かる。激しいストレスや憂うつな気持ちによって自傷行為に及んだという回答者は4.7%に達した。江南などで多くの青少年の相談に応じてきた心理カウンセラーは、「ストレスの溜まった子どもたちの攻撃性が学校で友達を仲間はずれにしたりいじめたりするといった風に表出し、表出のされ方もますますひどくなっている」とし、「子どもたちがまともに成長できていない」と指摘した。「私教育の心配のない世の中」の政策局長ク・ボンチャンさんは「大人も週52時間制のような制度を通じて過度な労働時間の問題を解決しようとしてるのに、子どもたちには週末にまで塾に行けというのは酷だ」と語った。
「休みのある教育市民フォーラム」運営委員長のキム・ジヌさんは「塾の深夜営業制限が議論になった際も、家庭教師の増加など問題が別のかたちで現れることが懸念されたが、制度施行後は夜10時以降に塾に通う子どもたちが50%以上減った」、「過労死ラインに抵触するほど学習時間が長い生徒たちに休みを作ってあげる必要がある」と述べた。
ヤン・ソナ記者
「塾の行き過ぎ、止めるには」…二カ月あまり、熟議民主主義で解決策探る
「日曜日だけでも塾を閉め、生徒たちに休む時間を返そう」
ソウル市教育庁が推進しようとしている「塾の日曜休業制」は、趣旨はいいが効果に対してはさまざまな議論があるのも事実だ。高校の序列化、大学の序列化という厳然たる現実がある中で、単に日曜日に塾を運営できないようにすることに、どれほど効果があるのかという問題提起、「高額家庭教師」など、問題が違う形をとって表出する可能性も侮れないといった反論だ。ソウル市教育庁も条例改正は急がず、「公論化」方式による熟議民主主義を通して様々な層の意見集約を図るものと見られる。今後、「塾の日曜休業制」の公論化はどのように進むのだろうか。
ソウル市教育庁が19日に発表した「塾の日曜休業制熟議民主主義公論化事業」によると、最近、公論化推進委員会(7人)や諮問会議(10人)が、今後進める公論化の方式や日程など、大きな枠組みを確定した。市民参加団200人が二度の討論会を開くのが公論化事業の中心と言えるが、より多様な意見の集約に向けて事前段階を経ることとした。まず10月15日まで、約2万3500人を対象に「塾の日曜休業制」に対する基本的な態度とその理由などを問う「事前世論調査」を行い、9月27日と10月22日には「事前公開討論会」を開催する。事前公開討論会で交わされた議論は、市民参加団の「オンライン熟議」資料として使われる。
市民参加団200人は、生徒80人、父母60人、教師30人、一般市民30人によって構成され、生徒80人には小学生10人が含まれる。彼らはまずウェブページにて意見を開陳するなど「オンライン熟議」に参加し、10月26日と11月9日の二度にわたって討論会を行う。討論会では事前・事後現場アンケート調査、専門家による発表、グループ討論などが行われる予定だ。最終的には公論化推進委員会が市民参加団の活動結果をもとに勧告案を出す仕組みとなっている。
公論化を通じて「塾の日曜休業制」に賛成する世論が高まり、いざ導入という段階に至っても、法制度上の越えるべき壁がある。ソウル市教育庁が「塾の日曜休業制」を導入するには関連条例を制定しなければならないが、これは教育監の権限に対する法的争いに繋がりかねない。「塾の設立・運営及び課外教習に関する法律」(学習塾法)は、教育監が市や道の条例で定めることができる範囲として「教習時間」のみを規定している。法制処は2017年に「教育監は市・道の条例によって深夜時間に対する制限をすることはできるが、特定曜日や週末に教習できないようにする『休講日』を規定することはできない」との判断を下している。「塾の日曜休業制」を導入するには、学習塾法の改正が比較的確実な方法ではあるが、これは教育庁ではなく国会で議論しなければならない事柄である。
ソウル市のチョ・ヒヨン教育監は18日、記者団に対し「敏感な問題であり、意見の集約を出発点とするもの。政策化するかどうかはその次に決定する問題だ。ただ世論の情勢は(推進側に)有利だと思う」と述べた。ソウル市教育情報研究院が2017年に発表した「塾の休日休業制および塾月謝の上限制導入方策の研究」によると、中学生の75%はもちろん、親の68%も塾の日曜休業に賛成している。チョ教育監は、法制度的な問題については、「公論化の結果によって条例を制定する段階に進むなら、その条例の法的妥当性を問う争点自体が熟議民主主義の過程と見ることもできる。また、その過程で国会が「塾の日曜休業制」の法制化に乗り出す可能性もある」と述べた。