ちょうど1カ月間、韓国は「チョ・グクをめぐる議論」の渦中にあった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が先月9日、チョ・グク前大統領府民情首席を法務部長官候補者に指名してから、チョ候補者が長官に任命された今月9日まで、チョ長官をめぐって数々の疑惑が次々と持ち上がった。チョ長官の任命に反対する大学生の抗議のろうそく集会も続いた。任命当日の9日にも、ソウル大学では500人以上の在学生と卒業生が、釜山大学でも約70人が集まって3度目のろうそく集会を開き、「法務部長官の資格はない。直ちに辞任せよ」と声を高めた。
多くの疑惑の中で、何よりも若者たちが挫折感を覚えたのは、チョ長官の娘をめぐる「入試特恵」の論議だった。チョ長官一家が社会的地位と“コネ”を利用して、娘の高校と大学時代に“スペック”(進学や就職などで重視される能力や経歴、保有している資格のこと)を身につけ、これを大学進学と医学専門大学院入学に活用したというのが論争の主な内容だった。このようなスペックを身につけられる環境が整っていない若者たちの怒りと挫折、剥奪感が特に大きかった。ハンギョレは、地方大学の学生たちや就活生、特性化高校出身の会社員など、若者の話と専門家の分析を通じて、この1カ月間が残した傷跡を振り返る。
_________
86世代の偽善
「民主主義に貢献した世代だが、既得権を握った後は子どもにそれを譲ることに罪悪感を持たなかった。『86世代』の偽善であり、限界だ」
地方大学を卒業して就活中のイ・ヘリさん(仮名・27)は、入試における特恵をめぐる議論を見ながら、チョ長官の娘より彼をめぐる86世代(80年代に大学生で、民主化宣言まで学生運動に参加していた現在の50代)に対する怒りが大きいと強調した。ここ1カ月間、多くの86世代の名望家たちがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通じて“友人”であり、“同志”のチョ長官を擁護した。イさんはこれについて、独裁政権に抵抗して、民主化を遂げたという86世代が目指していた理想は何なのかと問いただした。イさんは「86世代は学生運動や政治への参加などを通じて、手続き的民主主義の確立に貢献したが、その後は正義に則った社会を作るための十分な努力をしなかった」と指摘した。
若者たちはチョ長官に向けられた非難が度を越した側面があるとしても、外皮を剥いて対面した86世代の本当の姿がいわゆる「保守既得権層」とあまり変わらないと口をそろえた。大邱(テグ)のある大学に在学中のキム・ソンへさん(仮名・23)は「1対99の構図を作って1を攻撃していた人たちが、事実は20対80の構図では、上位20に属した既得権層だった」とし、「過去、チョ長官の言葉と態度を見て彼の真摯さを信じていたが、彼も既得権層であることがわかり、それによって認識はしてきたものの、はっきりしていなかった韓国社会の差別が鮮明に見えるようになった」と語った。全羅南道で大学を卒業し、ソウルで就職活動中のチェ・ヒョンシクさん(仮名・29)は「特定の情報を持っているかどうかによって、階層とその集団が区別される。今回既得権カルテルと一般階級が分けられる社会構造的問題が水面に浮上した」とし、「進歩派は価値を失っており、86世代は“利益ネットワーク”に変質した」と話した。
専門家らは、チョ長官をめぐる議論で若者たち感じた“失望感”が大きいと分析する。イ・テククァン慶煕大学教授(グローバルコミュニケーション学部)は、「ソウル大学生はソウル大学生同士では平等でなければならず、高麗大学生は高麗大学生同士では平等でなければならないが、ソウル大学や高麗大学の学生たちと地方大学の学生たちが平等である必要はないと考える世の中を作ったのは86世代」だとし、「重要なのは、そのような86世代に、特権を捨てて現場に入り、民衆と共に歩むという精神がもはやないということが暴露された点だ。86世代は、選挙工学的な計算を立てているだけで、過去の大義は振り返らない」と指摘した。政治コンサルタントのパク・ソンミン氏は「どの時代でも50代は社会の最上層を構成し、既得権を持つことになるが、86世代は既得権に加え、20代から互いに築いてきた人的ネットワークで強力かつ緻密に結ばれている。しかも、政治にも長けた世代」だとし、「若者たちは進歩か保守かではなく、エリート層の既得権争いと見ているが、50代は互いに相手がより大きな悪だと主張している。若い世代を無視し、啓蒙しようとする行動が、若年層の怒りを増幅させた」と分析した。
_________
合法と公正
「機会は平等であり、過程は公正であり、結果は正しくあるべきです」
若者たちはチョ・グク長官をめぐる議論を経験し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領のこのような約束が現実になることは不可能になったのではないかと自嘲する。今回の事態によって、韓国社会はすでに「法律の枠内」という名の下で、不平等で正義に反する結果を放置しているという認識が広がり始めたからだ。特に、チョ長官の娘の大学入試不正疑惑が持ち上がるたびに、チョ長官と86世代は「違法(行為)はなかったから、問題にならない」と強弁しており、このような言い訳が若者たちをさらなる絶望に陥れた。イ・ヘリさんは、「(チェ・スンシル氏の娘の入試不正など)過去には手続き的公正性が守られなかったことに対し、若者の不満が大きかったが、(チョ長官の娘の問題では)手続き的公正性、すなわち合法的に設計された制度もいくらでも不平等をもたらすことができるということがわかった」と述べた。就活生のパク・ヨンアさん(仮名・25)も「チョ候補者とその家族の違法行為よりも、『法的な問題がない』という釈明に、86世代の認識の限界を見ることができる。法律の枠内で彼らの世界が堅固に継承されることを自ら証言したからだ」と語った。
イ・ビョンフン中央大学教授(社会学)は、「当時、外国語高校の生徒らの大学入試は皆そのようなものだったという釈明は、当時の金の匙(エリートや資産家の子女)には通じるかも知れないが、エリート層の階級構造に入れない多くの若者にとっては納得できないもの」だとし、「若者たちが進歩か保守かにかかわらず、韓国社会がどれほど階級化しているのかを確認し、挫折と怒りを覚えるきっかけになった」と説明した。チョ・グク長官をめぐる議論は、このような構造的問題を解消しない限り、価値と理念だけで若い世代と共存できないことを示している。
_________
剥奪感の階級化
このような構造が事実上、剥奪感を感じる機会さえ剥奪された若者たちを作った。地方大学に通うキム・ソンヘさんは、チョ長官の娘をめぐる議論が剥奪感さえ感じられないほど自分とは「全く違う世界の話」だと語った。相対的な剥奪感は金持ちの親を持つスカイ(SKY:ソウル大学、延世大学、高麗大学)の学生に許された感情だということだ。「あのような親はあれほどのスペックを身につけさせてくれるのかと驚いただけで、実はまったく剥奪感を覚えなかった」とし、「私はチョ・グクのような父親を持ったこともなかったし、チョ・グクのような父親を持つ友人も周りにいなかったから」と話した。特性化高校を卒業した会社員ファン・スンジンさん(仮名・20)も「以前は金持ちの息子だからあんなこともできると腹も立てたが、今は腹立たしく思えないほど当然視されるのが悲しい」とし、「すでに韓国社会に失望した状態であるが、あのような現実に直面すると、これ以上失望することもないという気がする」と語った。
就活生のパク・ヨンアさんは「チョ長官が記者会見で、自分は土の匙(親の力に頼れない)の若者たちの心と痛みが絶対に分からないと言った時、もう一度剥奪感を感じた」とし、「『匙』という言葉がチョ長官のような人たちにとっては一つの修飾語にすぎないが、誰かにとっては傷だけを残す、社会が強制したレッテル」だと話した。パクさんはまた、「韓国社会について信頼を失った若者たちには、もう誰かの説明を聞く余裕すら存在しない」と付け加えた。
若者たちは「彼らだけのリーグ」で起きた戦争で、既得権層が自分たちを徹底的に利用したと批判した。キム・ソンへさんは「チョ・グクに代表される86世代の偽善と、彼と変わらないか、それ以上の保守既得権の攻防を見て、憤りを覚えた」とし、「彼らは若者たちに変わるべきだと言ってきたが、選択権も発言権も与えなかった。若者たちはまた利用されただけだ」と語った。キム・マンフム韓国政治アカデミー院長は「チョ・グク候補者の場合、若者たちを対象にした講義で、所得資産や教育水準、居住地を中心とした世襲社会が進んでいると糾弾したのに、今回本人の武器が虚偽であることが判明した」とし、「86世代が弱者や社会改革のための自己献身など、進歩的な価値を前面に掲げていたにもかかわらず、その裏では資本主義の隙間を利用しようとしたということも明らかになった」と話した。
「陣営の論理」にはまった86世代の単線的思考が、対立の溝をさらに深めているという指摘もある。ザ・モアのユン・テゴン政治分析室長は「入試問題をめぐり、チョ・グク個人の道徳性の問題と共に、進歩エリートらの二面性など複合的な争点があるのに、86世代は陣営の論理にこだわり、『どうしてチョ・グクを守るべきか』という質問に『自由韓国党が悪いから』と答える」とし、「申し訳ないと謝罪するのではなく、居直ってむしろ若者を戒め、声を荒げる彼らの態度が、若者の怒りを誘った」と指摘した。