金正恩(キム・ジョンウン)北朝鮮国務委員長は「南朝鮮当局者が、最新武器の搬入と軍事演習を中断し、昨年4月や9月のような正しい姿勢を取り戻すことを願うという勧言(勧める言葉)を南側に向けて今日(25日)の威力示威射撃のニュースと共に知らせる」と話したと、26日付の労働新聞が1面トップ記事で報道した。「南朝鮮当局者」とは、事実上文在寅(ムン・ジェイン)大統領を指す。
新型短距離弾道ミサイルの発射という“武力示威”で、南側のF35Aなど先端兵器導入と8月の韓米合同軍事演習の中断を圧迫する一方で、4・27板門店宣言と9・19平壌共同宣言に戻ろうという呼び掛けだ。4・27板門店宣言は、「南北軍事信頼構築と段階的軍備縮小」、9・19平壌共同宣言は「非武装地帯(DMZ)など対峙地域の軍事的敵対関係を終息、実質的な戦争の脅威の除去」の約束を含んでいる。
金正恩委員長は「南朝鮮軍部の好戦勢力に厳重な警告を送るための武力示威の一環として、25日に新型戦術誘導兵器の射撃を組織し、直接指導」したと労働新聞が伝えた。金委員長は「南朝鮮軍部の好戦勢力が必死に導入している最新武装装備は、攻撃型兵器などであり、その目的自体も弁解の余地はなく隠すことができない」とし、「わが国家の安全にとって無視できない威嚇」と規定した。そして「それらを無力化させ、使い捨てられるスクラップにするための物理的手段の開発と実戦配備のための試験は、私たちの国家の安全保障に急務的な必須事業であり当為的活動」であると「同行(労働党中央委員会)幹部と国防科学部門幹部に」宣言した。
大統領府核心関係者は「朝鮮半島の平和のための対話の動力を生かすという政府の立場に変わりはない」として「北朝鮮が撃ったミサイルで、南北の進む方向が変わることはない」と話した。この関係者は、8月の韓米連合指揮演習と関連して「変化した事項はないと承知している」と話した。
金委員長は「先端攻撃型兵器」が何かは特定しなかった。これに先立って北側は11日、「外務省米国研究所政策研究室長談話」で「南朝鮮当局が“見えない殺人兵器”とも呼ばれる「F35A」を米国から導入しようとしている」として「相手方を狙った武力増強を全面中止することを明確に規制した『板門店宣言軍事分野履行合意書』に対する正面からの挑戦」と非難した。
韓国軍は、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35A」を今年に入って今までに8機導入したのに続き、年末までに合計16機を導入する計画だ。さらに米国の最新鋭高高度無人偵察機「グローバルホーク」も9月の2機を皮切りに、年末までに4機を導入する予定だ。これは根本的には、多数のステルス機と偵察衛星を備えた中国や日本などの周辺国との軍事力不均衡を減らすための中長期戦力増加計画の一環だ。だが、北朝鮮の核・ミサイル、軍指揮部を精密打撃する作戦の核心資産であるとして北側軍部の反発が強い。
昨年4月「社会主義経済建設集中」を新しい戦略路線として採択した後「すべての力を経済建設に集中」(4月12日最高人民会議14期1次会議施政演説)しようとして、人民軍と軍需工場まで動員してきた金委員長としては、内外で困惑している状況でありうる。金委員長は、今年の新年挨拶では「軍需工場部門が経済建設を積極支援しなければなりません」とし、朝鮮人民軍創建71周年の2月8日には人民武力省に軍団長・師団長・旅団長を全員集めて「国家経済発展5カ年戦略遂行のカギとなる今年、人民軍がしっかり役割を果たさなければならない」と指示した。「金委員長としては『南朝鮮と米国が私たちを欺瞞している。このまま手をこまねいていることはできない』という軍部中心部の反発をなだめる対応が避けられなかったのだろう」(外交安保分野の高官)という指摘が出る理由だ。
労働新聞の報道によれば、金委員長は「南朝鮮軍部の好戦勢力」と「南朝鮮当局者の二重的態度」を非難しながらも、事実上文大統領を指す「南朝鮮当局者」には「勧める言葉」だけを出した。韓米連合軍事演習を問題視するものの、対米警告はなかった。25日のミサイル発射が、対南警告用“武力示威”としながらも、実際にはミサイルは南側の反対方向に向いており、周辺国のどこも通過しない「東海北東側(遠海)」(26日合同参謀本部)に撃った。軍事的対立と衝突よりは「政治的メッセージ」を伝えることに重きを置いたとも解釈できる。
実際、金委員長は実行幹部に「超強力武器体系開発」を指示しながらも「やむを得ず」という修飾語を前に付けた。特に、労働新聞が事実上文大統領に向かって「南朝鮮当局者は今日の平壌発の警告を無視する失敗を犯してはならない」としつつも、その前に「いくら癪に障っても」と但し書きを付けた部分は繊細な読解が必要だ。北朝鮮式語法に詳しい元高官は「軍部の反発をなだめ、経済建設路線を持続しなければならない自身の難しい境遇を推し量ってほしいという金委員長の文大統領に向けた呼び掛けの性格もある」と指摘した。
一方、ドナルド・トランプ米大統領は25日(現地時間)、フォックスニュースとのインタビューで、北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射と関連して「彼らは核実験をしていない。彼らは本当に小さなミサイル(smaller ones)以外にはミサイル試験をしていない」として、小型ミサイルは「多くの人々が実験している」と明らかにした。北朝鮮との交渉プロセスを中断する重大理由には当たらないという意味だ。