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アジアの青年の血と汗と涙で築かれた“超一流サムスン”

登録:2019-06-17 23:35 修正:2019-06-21 08:35
グローバル・サムスン持続不可能報告書 (1)青年搾取 
 
1人目標1600台“作業名1200” 
管理者の“急げ急げ”の怒声の中 
旧型ギャラクシーを13秒に1台ずつ 
 
12時間組み立れば電光掲示板は消える 
最低賃金にもならない給与 
死ぬほど働いても20代半ばで退出
グローバル・サムスン持続不可能報告書//ハンギョレ新聞社

 グローバル超一流企業として君臨するサムスン電子は、今や韓国だけの企業ではない。超国籍企業サムスン電子は、世界の人々にどんな姿に映っているのだろうか。サムスン電子で働く労働者は、サムスンに対してどう思っているのだろうか。特にサムスン電子の主要生産基地に浮上したアジア地域の労働者の暮らしと労働の現実はどうなっているのだろうか。この質問の答えを得るために、ハンギョレはベトナム、インド、インドネシアのアジア3カ国9都市を訪ねた。2万キロ余り、地球半周分を巡って136人のサムスン電子労働者に直接会って質問調査した。国際労働団体がサムスン電子の労働条件に関する報告書を発刊したことはあるが、報道機関としては韓国内外をあわせて最初の試みだ。10人の労働者に深層インタビューし、20人余りの国際経営・労働専門家にも会った。70日にわたるグローバル・サムスン追跡記は、私たちが漠然とは察しながらも、しっかり見ようとしなかった不都合な真実を暴く。真実に向き合うことは、そのときは苦痛かもしれないが、グローバル企業としてサムスンがブランド価値を高めるためには避けられない過程だと判断する。5回に分けてグローバル超一流企業サムスン電子の持続可能性を尋ねる。

サムスン電子アジア工場の労働環境実態を調査するために、3カ国の労働者129人に会った。報道機関としては韓国内外をあわせて最初の試みだ。写真は先月22日、サムスンのインド・ノイダ工場前でアンケート調査をしている様子=ノイダ/チョ・ソヨン・ディレクター//ハンギョレ新聞社

悪口と怒声

 サムスン電子のインドネシア・チカラン工場で契約職として働くモハマディ(仮名・22)は、一日12時間立ちっぱなしで働く。現地人管理者たちは罪人を引き回すように毎日「バカ、役立たず」と怒鳴って責め立てると、彼は話した。5月15日、工場の近所でハンギョレと会ったモハマディは悪口を思い起こすことも苦痛だった。「毎日同じ目に遭っても毎日恥かしい」と話した。昨日はこっちのラインの30人が、今日はあっちのラインの22人が「そんな仕事しかできないなら、仕事をしたい人はたくさんいるから皆辞めろ」と侮辱される。

 管理者たちは「電話を受けたり休むのは絶対だめだが、トイレには行ってもかまわない」と言ったが、それも話だけだった。一日中休まずに働いても、割当量を満たすのは難しい状況で、安心してトイレに行くことはできなかった。割当量を満たせなければ、次の日に繰り越され、結局週末まで働かなければならない悪循環が繰り返された。

アジア3カ国のサムスン電子工場現況 //ハンギョレ新聞社

 サムスン電子の労働者は、工場を“怒声の恐怖”として記憶していた。インド・ノイダ工場の見習工だったプラカシ(仮名・22)は、覚えている韓国語はあるかとの質問が終わる前に“急げ急げ(パルリパルリ)”と答えた。少しでも作業ラインから離れたり座ろうとすれば、管理者たちは強い語調で「早く仕事しろ」と促したと話した。プラカシは「入社前は確かに2時間ごとに休息時間が与えられると言っていたが、実際には午前10時10分に“チャイ”(インド式ミルクティー)を飲む時に一度休み、午後にはほとんど休憩時間がなかった」と話した。

 インド青年のチトゥワン(仮名・21)にとってサムスンは夢だった。だが、実際にサムスン工場で働いた時は、夢を見る時間すらなかった。チトゥワンはサムスンを辞めてインドの首都デリーから列車で9時間かかる田舎のアヌペドゥラに暮らしている。彼は「サムスンに対して必ず言いたい話がある」と言って、デリーまでの遠い道を駆け付けて取材に応じた。

 チトゥワンは、2018年8月から11月までサムスン電子のインド・ノイダ工場で普及型ギャラクシー携帯電話を作るメインラインで働いた。ある日、熱が出て首が回らなくなった。朝出勤するとすぐに管理者を訪ねて、「昨日から首が回らない。今日は8時間だけ仕事をしたい」と話した。現地人管理者はすぐに「ターゲット(目標量)を満たして退勤するか、それが嫌なら今すぐ辞めろ」と悪口混じりに責め立てた。回らない首を向けて電光掲示板を見ると、1人当り生産目標量1600台を知らせるライトが灯った。作業名“1200”と呼ばれたギャラクシー携帯電話を13秒に1台ずつ、12時間組み立て続ければ電光掲示板は消えた。それほど働いても“見習工”という理由で、彼が受け取った賃金は最低賃金にも達しなかった。彼が向き合ったサムスン工場は、消耗するまで働いて、病気に罹ったり契約解約で切り捨てられる所だった。サムスンは長く通える会社ではなかった。

 2017年までノイダ工場で見習工として働いて辞めたアヌプ(仮名・21)は、「サムスンを辞めて別の電子企業に通っているが、サムスンほどたくさん働くこともひどい目に遭うこともない」として「ソニーやタタ自動車に通う友達にサムスン工場の労働環境と強度を話すと、『とんでもないことだ』と言われた」と話した。

 サムスン電子は、「持続可能経営報告書2018」を通じて「職員間のいじめ」を「厳格に禁止している」と主張した。この報告書は、人権政策および管理体系と関連して「私たちは“責任ある企業連合”(RBA)会員会社としてRBA行動規範を遵守する」と付け加えた。RBA行動規範は「労働者に対するセクハラ、虐待、体罰、精神的または肉体的強圧、暴言を含む一切の苛酷で非人間的な待遇があってはならず、そのような待遇に対する威嚇も一切あってはならない」と規定している。サムスンの公式主張が現実とは違うという証言を、アジア各地で容易に聞くことができた。

タクト・タイム

 ハンギョレが会ったすべてのサムスン工場の労働者は、各国の労働法が定める基準(8時間)ではなく、工場ごとに設定した「タクト・タイム」(tact time:一つの製品を生産するのに要する時間)を基準として働いていた。タクト・タイムは、サムスン工場の毎日が怒声の恐怖で満たされる理由だ。インド・ノイダ工場で旧型ギャラクシーを作る労働者は、一日1600台を組み立てなければならない。こうしたタクト・タイム管理は、サムスンが半導体と携帯電話分野で世界最高を維持している秘法だと専門家たちは指摘する。半導体と携帯電話の製造業は、1人の労働者が小型部品を配列し移動することなく商品を生産する労働集約的な単純組立工程がメインだ。タクト・タイムは、労働集約産業で劇的な効果を発揮する。前には電光掲示板を置き、数字と視覚でリアルタイムに圧迫し、後ろに立つ管理者は大声で怒鳴り聴覚的緊張感で神経を逆立てさせる。サムスンが半導体と携帯電話でトップ企業になれた背景は、技術力だけでは説明できない。「労働者を絞り取り、安くたくさん作る量産体制を整えたので覇権を握ることができた」というのが専門家たちの分析だ。

 アヌプ(仮名・21)は「ぎゃあぎゃあと大声を上げる管理者たちに、一日1600~1700台の携帯電話の組立を割当てられ、電光掲示板の数字が減っていくのに合わせて働くこと以外には何も考えられなかった」と話した。彼は1年間、ただの一日の休暇も使わずに働いた。管理者の目にとまり正規職になりたかったからだ。見習工のうち約5%程度が正規職に転換される。正規職に転換されれば、残業が減り、各種の手当と福祉恩恵などが提供される。実受領額は3倍近くに高まる。管理者たちは「一日も休まず熱心に働けば正規職になれる」と口癖のように話した。退社してしまってから、彼は「青い首輪をかけて通勤する『サムスンマン』に対する熱望が、持続不可能な極限労働に耐えられた青春の一時と交換されたことを悟った」と話した。再びサムスンに戻ることができるかという質問に、彼はきっぱりと首を横に振り「いや、できない」と話した。

 サムスンは2013年にブラジルで過度なタクト・タイム管理により超過労働を強要した疑いなどで、ブラジル労働検察から2億5千万レアル(約550万円)の損害賠償訴訟をされた。その後サムスンは「超過労働など労働者の意に反するいかなる行為もしない」と誓約し、韓国ウォン換算で13億ウォンの罰金を払うことでブラジル政府と合意した。ブラジルのサムスン工場のタクト・タイムは、一般携帯電話の場合で32.7秒、スマートフォンは2分だったが、ベトナムとインドではそれぞれ13~14秒と1分前後に短縮された。労働の権利が弱いアジアで、サムスンの顔は一層苛酷になった。

ベトナム・バクニン工場の駐車場に、労働者を運ぶ数十台の通勤バスが列んでいる=バクニン/チョ・ソヨン<ハンギョレTV>ディレクター//ハンギョレ新聞社

バスと寄宿舎

 サムスンのタクト・タイム管理は、工場内にとどまらない。福祉恩恵という外見を整えた通勤バスと寄宿舎がその核心手段として機能する。

 サムスン電子のベトナム・バクニン工場の労働者、デュエン(仮名・21)とインド・ノイダ工場の労働者モディ(仮名・21)は、朝6時30分に家を出て7時に出発する通勤バスに乗る。バクニン工場とノイダ工場は、首都から40~50分離れていて、通勤の唯一の手段はサムスンのバスだけだ。サムスンのバスは、毎日早朝と夜の決まった時間に専用停留場にのみ停まる。サムスンのバスで通勤しなければならない労働者の暮らしは、バスの時刻表で構成される。決まった業務量を終わらせても、バスの時間まで工場を離れることはできない。遅刻と早退は絶対に不可能だ。デュエンは「チームが一緒に動く。一人では動けず、時間が余れば残業する」と話した。

 2017年ベトナムのサムスン電子工場の労働実態報告書を作成したベトナム労働団体の研究員は、通勤バスについて「いくつかのグローバル企業もサムスンにならって導入し始めた独特のシステムで、通勤バスに依存する労働者は残業をはやく終わらせてもバスの時間に合わせてさらに働くことになる。工場では違うことはできず、追加で働けばせめて手当ては受け取れる。労働者をシステムに順応させる非常に悪らつな方法であり、労働者の想像力を剥奪する装置」だと話した。

 寄宿舎は、24時間監視を受ける統制された空間だ。ベトナム・バクニン工場で会ったあるサムスン労働者は、「寮は勤務時間帯が異なる交代勤務労働者を、一つの部屋で過ごさせる。退勤して戻れば、誰かが休んでいるので静かに過ごすほかはない」と話した。共用空間では防犯カメラ(CCTV)が24時間作動している。ベトナム労働団体の研究員は「サムスンがなぜ寄宿舎を利用せざるをえない他の地域の出身者を優先採用するのかが重要だ。サムスンの寄宿舎は、生産効率を最大化するために職員の時間を完全に制御する大きな計画の一部だ。住居を会社に依存させることで、会社に抵抗する意欲すら持てないようにすること」だと話した。

 サムスンの労働者と工場周辺の住民たちは、サムスンがバスと寄宿舎を利用せざるをえない遠距離地域の出身者を好むと話す。サムスン工場の門前で労働者の広間の役割を果す露店を営むあるバクニンの住民は「サムスンは工場の近くに暮らすバクニンの人は採用しない。バクニンの人は入れない」と言い切った。

最高企業の最低賃金

 アジア3カ国のサムスン電子工場の労働者は、自国の最低賃金にも満たなかったり、あるいは少しだけ上回る賃金をもらって、すべての時間と暮らしをサムスンに捧げていた。サムスンは、病気にかかる確率も、身体を傷める確率も少ない10代後半から20代はじめの青年を短期間使って切り捨てる。インドの見習工の場合、平均月給が14万1912ウォン(約1万4千円)に過ぎなかった。準熟練労働者の基準月額最低賃金1万5400ルピー(約2万5千円)に遥かに届かない。

 サムスンの工場から数百キロも離れた地域から来たベトナムのデュエンとインドのモディは、それぞれ同僚たちと一緒に暮らす。見習工の身分であるモディは、残業手当を合わせて1カ月に9千ルピー(約1万4千円)を受け取るが、その金ではベッドもない部屋の家賃も一人ではまかない切れない。同僚2人と共に月5千ルピーの家賃を分けて払う。彼が出勤すれば、彼がうずくまって眠っていた床で夜昼交代を終えて帰ってきた同僚が眠る。モディはまだ眠りの覚めない体を起こして出勤する時、サムスンの面接官が聞いた質問をしばしば思い出す。面接官は「お父さんは何をしているか、暮らし向きはどうか」と尋ねた。モディは自分が貧しかったから、いっそう必死に働くと思われて選ばれたのだろうと考えている。

インド・ノイダ工場の周辺に、サムスン電子の求人広告が貼られている=ノイダ/チョ・ソヨン<ハンギョレTV>ディレクター//ハンギョレ新聞社

労働のサムスン化

 ベトナムのハノイで会ったある国際労働団体の関係者は「サムスンの経営は、グローバル企業間の“最底辺に向けた競争”を追求する方式」と断言した。「サムスンが進出した地域には共通点がある。サムスンの工場ができるとグローバル最低ラインが作られる。該当国家の法が規定した最低ラインを越えて、労働者を訓練教育するように管理するのがサムスン経営の核心」だと彼は話した。彼は「この過程を国際的観点で“労働のサムスン化”現象と呼ばなければならない。サムスンはそのような労働をさせられる国家だけを訪ねていく」と指摘した。“労働のサムスン化”は、労働者を権利のない“安い人間”として扱う旧時代的な経営だ。1970~80年代に韓国社会で使われた方式を、いま開発途上国で使っているのだ。

 サムスン電子の一年の売上は243兆7700億ウォン(約22兆円)、営業利益は58兆8900億ウォン(約5.4兆円、2018年基準)に達する。携帯電話で100兆6800億ウォン、半導体で86兆2900億ウォンの売上を記録した。だが、今でもサムスンの工場のある労働者は“金がなくて夕食を抜く”生活をしている。インドネシアで会ったある労働活動家は「サムスンが作り出している搾取と格差を説明するグローバルな概念が必要な状況」と話した。サムスンが享受している全地球的な「金の権能」は、アジアの青年労働者の汗と涙と魂のかたまりだ。

インド、インドネシア、ベトナム/キム・ワン、オク・キウォン、イ・ジェヨン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/898252.html韓国語原文入力:2019-06-17 19:58
訳J.S

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