10年前の2009年3月7日、女優のチャン・ジャヨンさんが社会的有力人物らに性接待したという自筆の文を残して死亡した。当時、警察は関係者9人を立件し、118人を参考人として呼んで調査したが、検察が起訴した人は所属プロダクションの代表とマネージャーだけだった。この事件はチャンさんの接待対象に「朝鮮日報」というマスコミ権力が結びついていたという疑惑が浮上し、検察・警察の代表的な“ずさんな捜査”の事例として挙げられてきた。
■「検察・警察の総体的にずさんな捜査」と結論
昨年4月、法務部の検察過去事委員会は「女優のチャン・ジャヨンさんの性接待リスト事件」を調査対象に選定した。調査の実務を担当した最高検察庁(大検察庁)の真相調査団は、10年前の検察・警察の捜査内容から調べた。これを通じて、警察の初動捜査からチャンさんの携帯電話の通話内訳やデジタル・フォレンジック資料など客観的な証拠漏れ、接待対象者として名指しされた人物らに対する検察のゆるい捜査まで、総体的に“ずさんな捜査”だったという結論を出したという。
真相調査団は13日、法務部の検察過去事委員会に報告した最終調査結果で、まず警察の初動捜査の問題点を指摘したという。警察は、チャンさんが自ら命を絶った直後の2009年3月15日、チャンさんの自宅や車を家宅捜索した。しかし、家宅捜索した時間はたった57分だった。警察が確保したのはコンピューター1台、携帯電話3台、メモリーチップ3個、日記帳1冊、メモ帳1冊、スケッチブック1冊がすべてだった。捜索した場所もチャンさんの寝室に限定されたという。真相調査団は、当時警察が「朝鮮日報のパン社長」と書かれた日記帳を押収せず、チャンさんが普段持ち歩いていたカバンやハンドバッグの中の名刺もそのままにしたというチャンさんの知人の供述を確保した。
主な証拠が捜査記録に添付されていないことも問題として指摘されたという。真相調査団が検討した捜査記録には、チャンさんが誰と連絡したのかを確認できる客観的な資料が残っていないという。警察捜査当時、チャンさんとプロダクション代表の通話内訳を照会した“痕跡”はあったが、実際に彼らの通話記録の原本は捜査記録から抜けていたということだ。チャンさんが使用した携帯電話3台のデジタル・フォレンジックの結果も捜査記録に添付されていない状態だったという。チャンさんが自分に関する話を暴露した「サイワールド・ミニホームページ」に対する捜査もまともに行われなかった。真相調査団は、検察・警察の捜査過程で捜査記録が故意に抜かれた可能性も調べたという。
このような真相調査団の調査内容に照らしてみると、当時の検察捜査の説得力は否応なく落ちる。警察から事件を引き継いだ検察は、プロダクション代表にチャンさんの暴行と脅迫容疑だけを適用して起訴した。暴言と暴行の“背景”ともいえる酒席への出席強要はまともに捜査しなかった。
「朝鮮日報」一家へのずさんな調査
「性接待を要求し
酒席で接待させた」という文を残したが
通話記録1カ月分のみ照会して終了
「検察の初動捜査問題」
チャンさんの寝室を57分間“ちらっと捜索”
「朝鮮日報のパン社長の名前が書かれた
日記帳を押収せず」
通話照会・捜査記録、故意に漏れ落ちた?
通話記録の原本・フォレンジック結果
押収した手帳のコピーなどが添付されず
「検察捜査も説得力に欠ける」
プロダクション代表を暴行、脅迫容疑だけで起訴
暴行の背景である「酒席の強要」は
まともに捜査せず
■朝鮮日報と関連する疑惑調査
特に「チャン・ジャヨン文書」に登場する「朝鮮日報のパン社長」に関する捜査はほとんど行われていない。チャンさんは「2008年9月頃、(プロダクションの社長に)朝鮮日報のパン社長が性接待を要求させた」「朝鮮日報のパン社長の息子と酒席を作り、ルームサロン(個室クラブ)で接待させた」という内容の文を書き残した。これと関連して検察は、接待対象者として名指しされた朝鮮日報の関係者の1か月分の通話内訳だけを照会したという。他の携帯電話を使っているかどうかは調べなかった。
コリアナホテルのパン・ヨンフン社長に対する捜査も不十分だった。2009年7月頃、警察はプロダクション代表からチャンさんとパン・ヨンフン社長が2007年10月、ソウル江南区(カンナムグ)清潭洞(チョンダムドン)のある中華料理店で食事をしたという供述を確保した。しかし、外国にいたパン・ヨンフン社長を調査できないまま、事件は検察に送致された。検察はパン・ヨンフン社長が帰国した後も調査しなかった。
真相調査団は、当時朝鮮日報が警察の捜査過程で、「TV朝鮮」のパン・ジョンオ代表とチャンさんの間での通話内訳を削除した疑惑、警察が捜査の進行状況などを朝鮮日報に提供した疑惑なども調べたという。真相調査団は、朝鮮日報がチャンさん事件の捜査とマスコミ報道に組織的に対応したことは事実だが、通話内訳の削除や捜査記録の提供が実際に行われたのかは確認できなかったという。ただ、2009年3月頃当時イ・ドンハン朝鮮日報社会部長が、捜査責任者であるチョ・ヒョノ京畿(キョンギ)警察庁長を訪ね、脅迫じみた発言をした事実は、チョ元庁長から直接確認したという。
検察・警察の捜査の総体的なずさんさが確認されただけに、市民社会の再捜査の要求も強まるものとみられる。ただ、認められる事実とは別に、法理問題や公訴時效など刑事処罰の可能性の壁も大きいという。極めて一部の疑惑に対してのみ捜査勧告が行われるだろうという観測が出ているのもそのためだ。