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11年かかったサムスンの白血病被害者への謝罪…「娘との約束を果たせて嬉しい」

登録:2018-11-24 05:51 修正:2018-11-24 23:54
サムスンとパンオルリムによる「仲裁判断の履行合意」協約
 
サムスン電子「病気で苦しんだ従業員と家族に心から謝罪」 
ファン・サンギさん「いかなる謝罪でも十分ではない…サムスンの誓いと受け止める」
23日、ソウル中区プレスセンターで開かれたサムスン電子とパンオリンの仲裁判断履行合意協約式で、サムスン電子のキム・ギナム代表取締役(左から)、キム・ジヒョン調整委員長、パンオルリムのファン・サンギ代表が協約書を持って記念撮影を行っている=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 11年ぶりに勝ち取った「心よりお詫び申し上げます」の一言を聞いても、ファン・サンギさん(63)は涙を流さなかった。2007年3月、青春真っ盛りの22歳の娘、ユミさんに先立たれた父親のファンさんは、23日にサムスン電子と国会議員の前で、「娘との約束を果たすことができて、本当に嬉しい」と語っただけだ。だからといって、笑うわけにもいかなかった。老母は病気になった孫娘を見て衝撃で亡くなっており、彼の妻は娘の死後、うつ病から抜け出せずにいる。束草(ソクチョ)の街を駆け回っていたタクシー運転手のファンさんは、運転席を離れて、娘の無念の死の真相を明らかにするため、街をさまよわなければならなかった。彼の口元にはうっすら微笑みが浮んでいるだけだった。

 ファンさんはこの日、パンオルリム(半導体労働者の健康と人権守り役)の代表としてサムスン電子とソウル中区にあるプレスセンターで「仲裁判断履行合意協約式」を開いた。11年にわたる彼の凄然とした闘いはこのように幕を閉じた。まず、サムスン電子のキム・ギナム代表取締役が「病気で苦しんでいた従業員とその家族の皆さんに心からお詫び申し上げる」と述べた。キム代表の後を継いで演壇に立ったファンさんは、彼の謝罪を「誓いとして受け止める」と語った。

 「今日、サムスン電子の代表取締役の謝罪は、正直言って職業病被害の家族にとって十分ではありません。過去11年間にわたり、パンオルリム活動をしながら、数え切れないほど騙され侮辱されたことや、職業病の苦しみ、愛する家族を失った痛みを考えれば、実はどんな謝罪も十分ではないでしょう。しかし、私は今日の謝罪をサムスン電子の誓いとして受け止めます」

 ファン氏はつたない文字で直接書いてきた原稿を飾り気のない声で読み上げた。彼は数回にわたり、“感謝”を伝えた。キム・ジヒョン調停委員長や支援してくれた研究者、サムスンが問題解決に乗り出すように説得した国会議員、労働市民社会団体と活動家ら、1023日にわたり座り込みを行っている間、座り込み場を守った多くの人々に、彼は謝意を示した。

 ファンさんの娘ユミさんは、束草商業高校を卒業した後、サムスン電子の器興(キフン)事業場の半導体ラインで働き、入社2年目の2005年、急性白血病の診断を受けた。娘の骨髄移植手術後に訪ねたサムスンの課長は、娘の辞表を受け取りながら、500万ウォンを渡そうとした。彼は「サムスンにはお金がこれしかないから、これで解決しよう」と言った。労災として認めてほしいというファンさんの要求に、課長は「半導体工場では化学薬品を使っておらず、取り扱ってもいないのに、とんでもない」と一蹴した。ファンさんの涙ぐましい闘いが始まった瞬間だった。

 ファンさんは、病気の原因を明らかにするという娘との約束を果たすため奔走した。サムスン電子半導体工場で働き、白血病などを患ったほかの労働者の存在が、彼によって知られるようになった。娘が死亡した翌年の2008年3月、パンオルリムが発足した。ファンさんのストーリーは2014年に「もう一つの約束」として映画化された。

 ファンさんをはじめ、多くの被害者家族と活動家らの努力で実現された同日の協約式で、サムスン電子は自社のホームページに謝罪文と共に支援補償の案内文を掲載し、被害者に代表取締役名義の謝罪文を伝えることを明らかにした。また、事態の再発防止と社会貢献の一環として、500億ウォン(約50億円)の産業安全保健発展基金を韓国産業安全保健公団に寄託することにした。同資金は、電子産業安全保健センターの建設など、様々な労災予防事業に使われる。

 会場にはウ・ウォンシク、ハン・ジョンエ、カン・ビョンウォン議員をはじめ、正義党のイ・ジョンミ代表やシム・サンジョン議員、アン・ギョンドク雇用労働部労働政策室長らも出席した。同行事を準備した法務法人地平は「今回の合意が両当事者間の補償合意を飛び越えて、社会的合意だという趣旨」だと説明した。シム議員は「今回の合意が政界にも重要な課題を投げかけた。国会での労働力強化に向けた制度改善に最善を尽くす」と述べた。

 ファンさんは今年7月、調停委の仲裁方式について合意する署名式では感想を述べながら涙を流していた。従来の方式では合意が不可能だと判断した調停委は当時、「両者が調停案を条件なしに受け入れることを事前に合意するよう」提案した。これをサムスン電子とパンオルリムが受け入れたことで、事態解決の糸口が見えてきた。

 ファンさんは同日、「娘のユミとの約束を果たすことができて嬉しいです。しかし、ユミと私の家族が経験した苦しみを忘れることはできません。あまりにも多くの方々が同じような苦しみを抱えています」と語った。そして、その約束を履行するために作られる支援補償委員会と「実際は労働者が汗を流して働いて作ったお金」500億ウォンを運用する産業安全保健公団など関係者に、その苦しみを絶対に忘れないよう要請した。

パク・ギヨン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/871592.html韓国語原文入力:2018-11-23 20:57
訳H.J

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