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「ゆりかごから墓場まで」発達障害のケア、初めて国家レベルで取り組む

登録:2018-09-13 08:46 修正:2018-09-13 14:54
統合保育園・幼稚園も拡充 
成人の発達障害者の学習・体育など日中活動サービス支援も 
全国障害者父母連帯「発達障害者の国家責任制を歓迎」
文在寅大統領とキム・ジョンスク女史が12日午前、大統領府迎賓館で開かれた「発達障害者生涯ケア総合対策発表および招待懇談会」で、発達障害者公演団「ドリーム・ウィズ・アンサンブル」の公演に飛び入りで踊るチャン・ヘジョンさんを見て微笑んでいる=大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 母親は泣きながらひざまずいた。母親には19歳の発達障害の娘がいる。2017年9月、ソウル江西区(カンソグ)に特殊学校を建設する問題をめぐって開かれた住民討論会の場だった。江西区に住むチャン・ミンヒさんの娘はその年2月に高等学校を卒業した。自分の娘のことではないが、発達障害者である「私たちの子どもたち」のためのことだった。チャンさんは、壇上の前の一番前の列にひざまずいて座り、「特殊学校を建てさせて下さい」と訴えた。

 特殊学校はすべての発達障害者の母親たちの夢だ。江西区に発達障害者特殊学校は橋南学校の1カ所だけだ。子どもが中学生だった2012年、大田(テジョン)からソウル江西区に引っ越して来た後、チャンさんも何度も橋南学校を訪れた。しかし、いつも定員は埋まっていた。チャンさんは結局、子どもを一般学校の特殊学級に送るしかなかった。

2017年9月5日、ソウル江西区タプサン小学校で開かれた「江西地域の特殊学校新設に向けた住民討論会」で特殊学校の設立をめぐり住民の賛否の意見が飛び交うと、障害児童の親たちがひざまずいて訴えた=ソウル障害者父母連帯フェイスブックページのキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 発達障害の子どもを持つ母親たちは、生涯を薄氷の上で暮らす。意思疎通がスムーズでなく、認知能力が劣る発達障害児たちは、年齢がいってもぐずったりいきなり怒り出すことが多い。障害児専門・統合保育園や幼稚園、特殊学校が少ないため、一般学校の特殊学級に送るしかない。「同年代との関係などを考えると一般学校での統合教育がいいということはわかります。しかし、特殊教師が不足している一般学校では、特殊学校のように社会適応訓練や職業訓練がなかなか行われないのです」

 娘は昨年無事に学校を卒業した後、職業リハビリセンターで働いている。ダンボール箱を組み立てたり、ビニール袋にたわしを入れる仕事をして月14万ウォン(約1万4千円)をかせぐ。それでも母は安心できない。一人で通勤することもまだ娘には無理だ。最近は娘の同僚の発達障害者が一人で退社した後、道に迷って早朝3時に発見された事件もあった。

発達障害者生涯ケア総合対策//ハンギョレ新聞社

 2017年の障害者実態調査によると、発達障害者の80%は他人の助けを必要とする。障害者平均(34%)より高い。発達障害者は、成人した後も自立が容易でない。チャンさんは自分が死んだ後がより心配だ。チャンさんの娘のように知的障害や自閉症がある発達障害者は、現在22万6千人にのぼる。障害者全体の10%近くになる。毎年3.6%ずつ増えている。

 2014年4月に発達障害者法が制定されたが、発達障害者と家族の暮らしは変わっていない。発達障害者の子どもを持つ親たちが4月、「発達障害者国家責任制」の実施を求め、大統領府付近で剃髪式を行い、毎週集会を続けているのもそのためだ。

2018年4月30日、ソウル光化門広場で発達障害者の父母が「発達障害者国家責任制」を求め三歩一拝を行っている=シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 12日、政府がこのような発達障害者たちを生涯支援する総合対策を打ち出した。「発達障害者国家責任制」の第一歩を踏み出したわけだ。障害児専門・統合保育園や幼稚園、特殊学校を増やし、成人の発達障害者たちが体育・学習プログラムに参加できる日中活動サービスを提供することにした。この日午前、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が大統領府迎賓館に発達障害者とその家族を招待するなかで、保健福祉部と教育部、雇用労働部が「発達障害者生涯ケア総合対策」を発表した。生涯周期別に合わせて発達障害者を支援する対策が出たのは初めてだ。

■保育・教育を受けられるように

 政府は発達障害を早期に発見できるよう、乳幼児発達障害の精密検査の支援対象を現在の所得下位30%から来年50%に拡大した後、全体の乳幼児に次第に広げていくことを明らかにした。発達障害児が教育を受けられる施設も大幅に増やす。仁川の「自由幼稚園」のように、障害児と非障害児が同等に交わる形の統合幼稚園は現在1カ所だが、2022年までに16校を新設する予定だ。障害児専門・統合保育園も5年間で60カ所をさらに増やす方針だ。特殊学校も23校が新たに作られる。これによって、現在174校の特殊学校が2022年には197校に増える。今年すでに仁川、忠清南道、京畿地域に特殊学校3校が開校した。特殊学校の過密学級、遠距離通学問題を解決できるものと期待される。特殊教師と統合教育支援教師も増員する計画だ。

 キム・ナミョン全国障害者父母連帯ソウル支部長は「障害者特殊教員の補充率は60%台で、一般教員の補充率(90%台)よりずっと低い」とし、「特殊教師の拡充などの環境が作られてこそ、統合教育が可能となる」と指摘した。また、中高校に通う発達障害生徒たちをケアするため、1日2時間「放課後ケアサービスバウチャー」が提供される。支援対象は来年4千人から始め、2022年には2万2千人まで増える。

■働けるように

 現在、発達障害者のうち14万人は非経済活動人口に分類される。発達障害者の自立に向けた第一歩は雇用だ。政府は発達障害者の職業訓練と雇用支援を強化することにした。職業訓練と就職を連携する重症障害者支援雇用事業の人員が、現在の2500人から来年5千人に2倍に拡大される。「発達障害者訓練センター」も今年の7カ所から2022年まで17カ所に増やす方針だ。

 これによって、これまで視覚・聴覚など身体障害者を中心に行われてきた「労働サポーター」制度が発達障害者に拡大適用される。労働サポーターは、職場内の他の発達障害者の意思疎通をサポートするなどの仕事を担うが、今年の1200人から2022年には1万人まで増える。

■ケアに疲れないように

 青・壮年期の発達障害者たちは一人で家に閉じこもっているケースが多い。彼らが有意義な昼間の活動ができるように「日中活動サービス」を新たに開始する。小さな集団毎に地域社会内で学習・体育型プログラムに参加するサービスだ。まず来年1500人に週22時間を提供することを皮切りに、2022年には1万7千人まで対象を拡大する計画だ。

 ソウルと釜山にしかない発達障害者の拠点病院および行動発達増進センターを全国8カ所に増やし、障害者の検診機関も今年8カ所から来年28カ所、2022年には100カ所に拡大する。一人で残される子どもを心配する発達障害者の親を考え、公的信託機関で発達障害者の信託資産を安定的に管理する策も推進する。

文大統領とキム女史が大統領府迎賓館で開かれた「発達障害者生涯ケア総合対策発表および招待懇談会」に先立ち、発達障害者で構成された「光となる音グローバル芸術協会」の知的障害3級パク・ヘシンさんの作品を本人と母の説明を聞きながら鑑賞している=大統領府写真記者団//ハンギョレ新聞社

 政府は、日中活動サービス・放課後ケアサービスなどを推進する予算を来年1230億ウォン(約122億円)とし、今年(412億ウォン=約41億円)より3倍以上増額した状態だ。これを通じて、家にばかり閉じこもる発達障害者の割合が現在の26%から2%に下がることを期待している。ユン・ジョンスル全国障害者父母連帯代表は、「何度も座り込みをして断食しても受け入れられなかった『発達障害者国家責任制』という要求に、国家が初めて礼儀をもって応えた」とし、「具体的な施行計画には協議が必要だが、国家レベルで発達障害者支援政策の方向を提示したことについて歓迎する」と明らかにした。

ファン・イェラン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/handicapped/861820.html韓国語原文入力:2018-09-12 20:42
訳M.C

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