国民年金をめぐる論議が沸き起こり、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が直接沈静化に乗り出した。文大統領は13日午後、大統領府首席・補佐官会議の冒頭で、「国民年金の改編は老後所得保障の拡大という基本原則の中で議論されるもの」だとし、「国民の同意と社会的合意のない政府による一方的改編は決してない」と釘を刺した。文大統領が直接乗り出して国民年金制度改編の方向性と目標を明確に提示したわけだが、この日の発言を通じて党・政・大統領府間の亀裂が明らかになったという点で、また新たな議論が予想される。
文大統領はこの日の発言で二度も「老後所得保障の拡大」を強調した。「国民年金が底をつく時期が3年早まる」「国民年金を受け取る年齢が65歳から68歳に上がる」など、最近マスコミを通じて伝えられる国民年金政策諮問案の細部内容に集まった視線を「老後所得保障」という基本原則の側にまた引き寄せることが本音だ。
国民年金所得代替率の引き上げは文在寅大統領の大統領選挙での公約であり、政府の国政課題だ。国民年金加入期間中の平均所得に対する年金受け取り額を意味する「所得代替率」は、現在45%(40年加入基準)で、文大統領は大統領選挙当時50%まで上げなければならないと発言したことがある。少子高齢化時代に深刻になる高齢者貧困問題を解決するため、国民年金の「保障性」を強化するという意味だ。ただし、このためには国民年金の保険料と年金支給時期など全般的な年金制度改革が行われなければならない。
国民年金改革論議が第一歩を踏み出す前から
保険料・受給時期などをめぐり世論が沸き
福祉部「政府案ではない」と鎮静化に出たが
国民の怒りの火消しには力不足
野党の「政治争点化」も議論を煽る
専門家「政府は社会的論議に乗り出すべき」
ところが、国民年金改革の第一歩を踏み出した議論が公式に始まる前から混乱は醸されていた。保健福祉部は5年ごとに国民年金の財政計算を行い発表している。年金専門家や利害当事者代表などで構成された諮問委員会で、国民年金制度の発展案も議論される。今月17日には公聴会を通じて第4次財政計算委員会の政策諮問案を発表する予定だった。
政府政策の方向どおりなら、「老後所得保障拡大」というカードを先に出した後に、国民年金の持続可能性を高めるため加入者が毎月払う保険料率を上げ、「多く払って多くもらおう」と国民を説得しなければならないのが順序だった。しかし、10日から一部のマスコミを通じて政策諮問案の細部内容が部分的に報道され始めた。政策にパッケージではなく断片的に接した国民は怒った。国民年金受給開始年齢を65歳から68歳に上げると聞くと「死ぬまで国民年金保険料ばかり納めろという話か」とし、怒りの大統領府国民請願が3日で千件を超えた。
これに対し福祉部は12日、パク・ヌンフ長官名で立場文を発表し「政策諮問案であるだけで、政府案ではない」と鎮静化に出たが、国民の怒りを抑えるには力不足だった。大統領府と与党は、国民年金論争をめぐり福祉部が十分に対処できなかったことに強い不満を持っているという。政策諮問案がマスコミ報道で公開され、公開された後に議論が高まる中でも積極的に対応せず、むしろ議論を膨らませたということだ。
13日、文在寅大統領は「一部の報道通りなら、大統領が見ても納得できないこと」だとし、最近のマスコミ報道に対する不満を示した。福祉部に向けても「政府各省庁は仕事を熱心にすることも重要だが、国民と積極的に疎通し、国民が知るべき国政情報を正確に広報することがより重要という姿勢で業務にあたってほしい」と話した。共に民主党のホン・ヨンピョ院内代表とチュ・ミエ代表も政策諮問案が事前に流出され議論が大きくなったとし、福祉部を叱責した。
批判世論が激しくなり、急いで鎮静化に乗り出したかたちだ。果たして大統領府と与党、政府は、国民年金論争がこのように大きくなるとは予想しなかったのだろうか。 国民年金がどれほど破壊力のある政治的イシューであるかは、2003~2007年、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時の学習効果を通じて確認されている。
盧武鉉元大統領は就任後半年で国民年金の所得代替率を引き下げる法改正案を出した。2003年、第1次財政計算の結果、当時の保険料率9%と所得代替率60%を維持する場合、2047年に国民年金基金が底をつくという推計が出たためだ。当時、政府は所得代替率を2008年から50%に引き下げるものの、保険料率を2030年に15.9%に調整する国民年金法改正案を国会に提出した。しかし、国民年金批判世論などによって国会で議論が3年間空転した。2007年4月、与野党は保険料率を9%に維持しながら、所得代替率を2028年に40%まで下げる合意案を発表した。この時改定された国民年金法が今まで適用されている。その後、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政府や国会は、国民年金改革という困難な高次方程式を解決することはできなかった。
17日に予定された公聴会で議論されるべき事案も、早くから論議が予告されていた。特に、今回の第4次財政計算の結果、2060年に予定された国民年金基金の消尽時期が3年ほど繰り上がるという見方が多い。現行9%の国民年金保険料率と2028年まで40%に縮小される所得代替率の調整をめぐり、最も大きな論争が起きるものとみられる。文大統領は13日、「まるで政府が(老後所得保障に対する)対策なしに国民の保険料負担を上げたり、年金の支給時期を遅らせるなどの方針が政府レベルで議論されているように広まった理由を理解しがたい」と述べただけで、「老後所得保障拡大」に必要な保険料率の引き上げに対する立場を明確にはしなかった。
すでに政界では国民年金を政治争点に浮上させている。13日、キム・ソンテ自由韓国党院内代表は「この1年間、国民年金基金運用本部長は空席で、年6%以上だった基金運用収益率も1%以下に落ち込むなど、文在寅政府の無能さが明らかになった」と政府を批判した。
17日の公聴会で提案された政策案は、国務会議を経て最終案が決定された後、10月末の国会に提出される予定だ。最終案が国会を通過するまでには長い陣痛が予想される。与野党間の政治的立場の違いがはっきりしているだけでなく、国民世論に敏感な問題であるからだ。13日、文在寅大統領は「社会的議論」を通じて最終案が決定されることを強調した。
しかし、17日に公開される政策諮問案には社会的議論をどのように進めるかについての下絵は含まれていない。国民年金、基礎年金、退職年金の役割調整を講じるために、「老後所得保障委員会」(仮称)などが必要だという提案が含まれてはいるが、これは最低賃金委員会や経済社会労働委員会のような社会的論議または合意機構ではない。福祉部は経済社会労働委員会傘下の社会保障委員会または国会で別途特別委員会を構成し、国民年金に関する議論を続けていく案を考慮しているという。
政府のある関係者は、「政府案を複数案で国会に提出したり、政府案を出さず国会で立法発議案を出すなどの迂回路も検討中」だと話した。政策諮問に関与したある専門家は「複雑で敏感な国民年金問題の解決策を見出すためには、政府が『政府案ではない』『決定されたものはない』とばかり言うのではなく、もっと積極的な社会的論議に乗り出す必要がある」と指摘した。