来年度の最低賃金が時間当たり8350ウォン(約830円)に決定されたが、最低賃金に含まれる賃金項目が一緒に増えた事を考慮すれば、一部の低賃金労働者の時給はこれに達しないという分析が出てきた。労働界では「算入範囲が大幅に広がったために、劣悪な労働条件で仕事をする労働者にとって、今回の最低賃金引き上げ効果はきわめて制限的」と主張した。
15日、民主労総政策研究院のイ・チャングン研究委員は「算入範囲拡大の直接的影響を受ける低賃金労働者は約20万人にのぼるが、彼らに適用される最低賃金の実質引上げ率は2.4%水準に止まると見られる」と明らかにした。今年の時間当たり最低賃金7530ウォンを基準に計算すれば、彼らの来年の最低賃金は8350ウォンではなく7711ウォンになるとの主張だ。
これに先立って最低賃金委員会は14日、政府世宗(セジョン)庁舎で第15回全員会議を開き、来年度の最低賃金を今年(7530ウォン)に比べて820ウォン(10.9%)高い8350ウォンに決めた。正規職労働者の平均賃金と算入範囲拡大の影響を反映したということが委員会の説明だ。週40時間(一日8時間×5日)で一カ月間仕事をした時に受け取る月給に換算すれば、174万5150ウォン(約17万円)になる。今年と比べて月17万1380ウォンが上がった金額だ。
来年度の最低賃金が少なからず上がっても、低賃金労働者(最低賃金以下を受け取る241万8千人)が同じように「賃金引き上げ」効果を得られない理由は、算入範囲の拡大が関係してくるためだ。来年からは、5月に改定された最低賃金法により、定期賞与金と食費・交通費などの福利厚生費の一部が新たに最低賃金範囲に含まれる。換言すれば「最低賃金とは別に」食費などを支給されていた労働者の場合、最低賃金委員会が決めた引き上げ幅820ウォンが来年の時給に反映されないことがあるという意味だ。
例えば、最低賃金水準の基本給(157万4千ウォン)と食費・交通費の名目で25万ウォンを受け取る労働者K氏は、算入範囲が拡大されなかったならば来年から月17万1千ウォン上がった199万5千ウォンの月給を受け取ることになる。これとは異なり、来年K氏の月給は4万3千ウォンしか上がらない。毎月受け取る福利厚生費のうち12万8千ウォン(最低賃金の7%)が算入範囲に含まれるため、それだけ賃金の引き上げ幅をけずり取るためだ。
固定の延長勤労手当を含めて毎月受け取るお金が188万ウォンのエアコン設置技師G氏の境遇も同じだ。時間当り最低賃金が8350ウォンに上がる来年にも、G氏の月給は1万6千ウォンしか増えない。G氏は基本給165万5千ウォンに定期賞与金30万ウォン、福利厚生費19万6千ウォンを受け取るが、このうち32万ウォンを国民年金・健康保険・税金などとして控除される。来年の最低賃金引き上げに合わせて、彼の基本給は月9万ウォン程度上がるはずだが、やはり算入範囲が広がったために引き上げ幅は月7万4千ウォン減った。
韓国労働研究院の「最低賃金算入範囲拡大の影響力」分析結果もこれと似ている。イ研究員は11日、最低賃金委員会に提出した報告書を通じて算入範囲の拡大が最低賃金「実質引き上げ率」を1%程度下げると指摘した。特に、算入範囲拡大の影響を直接受ける19万7千人の低賃金労働者だけを別にして見れば、最低賃金が10%上がっても、彼らが体感する実質引き上げ率はそれより大幅に(7.8%)低い2.2%にしかならないと分析した。
民主労総政策研究院は、算入範囲の拡大で被害を受ける労働者は主に劣悪な労働条件に置かれていると主張した。イ・チャングン民主労総政策研究委員は「最低賃金委員会の資料を基に分析してみると、最低賃金法の改定で31~40万人の労働者が2019年最低賃金受恵者から除外された。このうち52%が5人未満の零細事業体で働く労働者で、58%が非正規職労働者」と明らかにした。
労働界は、最低賃金の引き上げ率が10.9%に留まり、文在寅(ムン・ジェイン)政府の「2020年最低賃金1万ウォン」公約履行が事実上難しくなったと受け止めている。民主労総側は、「算入範囲の拡大にともなう一部低賃金労働者の“期待利益減少”を解消するには、結局最低賃金法の再改正が避けられない」と主張した。合わせて、最低賃金引き上げの過程でことさらに強調されている小商工人・零細自営業者と労働界の対立、すなわち“弱者同士の争い」のフレームを破るには、大企業・財閥中心の経済体制に対する改革も必要だと指摘した。
イ・ジュホ民主労総政策室長は「高い店舗賃貸料とフランチャイズ本社に納める加盟費、クレジットカード手数料が最大の問題という事実は、すでに広く知られている。こうした問題を一つも解決せずに、最低賃金だけ上げれば弱い輪(零細自営業者)が最初につぶれるのは当然だ。“完全な最低賃金1万ウォン”を定数として置き、残りの制度を合わせていく総合的な計画が必要だ」と話した。10日、民主労総が「零細自営業者を生かすために本来必要なことは、最低賃金の引き上げ緩和ではなく、流通財閥に対する改革など経済民主化」として、韓国の中小商人自営業者総連合会などと共同記者会見を行ったのも、このような認識と関係がある。