ヤン・スンテ長官時代の最高裁が憲法裁判所の権威と裁判の力量を引き下げる案を検討した事実(ハンギョレ9日付「ヤン・スンテ最高裁、法理も捨てて『憲法裁判所こきおろし』に没頭」)が伝わると、憲法学界では「国民は眼中になく、自らの権限だけに没頭した結果」という批判が相次いだ。国民の基本権保障に向けて善意の競争を繰り広げる代わりに「憲法機関の無力化」戦略を立てた点で、「裁判取引」同様の「司法惨事」という指摘もある。
裁判所事務総局は2015年10月、「最上級裁判所」の地位を安定的に確保するという名分で、憲法裁の存立根拠を脅かし、憲法裁の力量を弱体化すると共に、憲法裁に対する世論を悪化させる方案などを盛り込んだ秘密文書を作った。
9日、憲法裁関係者と憲法学者らは、最高裁長官の憲法裁判官の指名権と最高裁判事の任命推薦権を「憲法裁を無力化する道具」に使おうと考えていた案が「最も衝撃的」だと口をそろえた。文書には、憲法裁判官出身を再び最高裁判事に任命し、「最高裁への隷属化」を進めるという内容が登場する。憲法裁の関係者は同日、「憲法裁判官を最高裁判事への過程の一部として認識させることで、『(最高裁の)顔色をうかがわせる』というものだが、法と良心に従った審判を妨げる反憲法的発想」だと指摘した。憲法学者のイ・ジョンス延世大学法学専門大学院教授は「事実上、憲法裁を最高裁判所の“下級審”に編入させるという構想」だと皮肉った。
これを機に、最高裁長官の権限を見直すべきだという声もあがっている。憲法裁関係者は「最高裁長官の指名権を国民の基本権保障ではなく最高裁判所の利益のために行使したなら、その権限をなくすべきではないか」として、不快感を露わにした。イ・ジョンス教授も「学界では、最高裁判所を牽制すべき憲法裁判官を最高裁長官が指名すること自体が憲法精神に合わないと指摘されてきた」と話した。
事務総局が検討した「憲法裁の裁判力量弱体化案」と関連し、「ただの噂ではなかった」という反応も出た。憲法裁関係者は「双方の対立が激化し、最高裁判所がいわゆる“問題判事”を憲法裁に送るのではないかという噂が憲法裁の周りで流れていたが、本当に類似した実行案があったというのは衝撃的」だとし、「憲法裁判所内部でも『あきれた』、『開いた口が塞がらない』という反応がほとんど」だと伝えた。憲法裁への派遣経験のある判事は「かつて事務総局が憲法裁への派遣裁判官の教育を行う際、憲法裁判所内部で(裁判所の権限と衝突する)『限定違憲』や『裁判訴願』の気配があったら、すぐに最高裁に“直接報告”するように言われたが、その内幕を充分推察できる」と話した。憲法裁への派遣裁判官に“スパイ”の任務まで与えたわけだ。
ヤン・スンテ長官時代、憲法裁所長に判事ではなく検察出身のパク・ハンチョル所長が任命されたことも、事務総局が無謀な戦略を立てた背景に挙げられる。パク所長は、裁判所の判決を不服とし、憲法裁に再び審判を請求する「裁判訴願」を検討する必要性を繰り返し強調した。憲法裁側は「検察出身のパク所長が就任当時から裁判所内部では『事前調整が不可能だ』として頭を悩ませていたという。そのため、このような露骨な敵対戦略をまとめた可能性もある」と話した。
最高裁判所は同日、これと言った反応を示さなかった。ただし、内部では「同じ釜の飯」を食べていた裁判所出身が多い憲法裁を“こき下ろす”態度が公開されたことに大変困惑しているという。