拷問被害者の再審事件で「拷問した事実はない」として虚偽の証言をした拷問捜査官が、懲役1年を宣告された。
ソウル中央地裁刑事19単独イ・ソンウン判事は28日、偽証容疑で裁判に付されたコ・ビョンチョン氏(82)に懲役1年を宣告した。イ判事は「被告人の虚偽の陳述は、実体的真実を明らかにすることを妨害し、国家の司法機能を侵害した。(虚偽陳述は)人権侵害行為を隠蔽・縮小しようとしたと解釈せざるをえない」と宣告の理由を明らかにした。
コ氏は2010年12月16日、在日同胞スパイねつ造事件の被害者であるユン・ジョンホン氏(65)の再審裁判に証人として出て「拷問はしていない」と虚偽の証言をし、昨年12月、偽証容疑で起訴された。コ氏は、元国軍保安司令部(現、機務司令部)の対共処捜査官で、1984年にユン氏、1982年にイ・ジョンス氏などを不法拘禁し、鉄製椅子に座らせ棒で殴ったり、椅子に座らせて地下に落下させる“エレベーター拷問”を行うなど、多くの苛酷行為を犯した人物だ。コ氏は「当時、国家安保を最優先視した特殊な社会状況があり、対共捜査機関では苛酷行為のような不法捜査が慣行だった」として「苛酷行為で私利私欲を追求する意図もなく、事実通りに述べれば組織、同僚、国家の威信を失墜させるか憂慮して虚偽を述べざるをえなかった」と裁判所に善処を訴えてきた。
イ判事は「当時の安保状況や対共捜査の慣行は、拷問など苛酷行為を正当化する理由にはなりえない」として「被告人は当時係長の次に高い階級で、スパイの検挙・捜査を認められ褒賞を受けもした。上部の指示によりやむを得ず拷問に加担したのであり、個人的な栄達を追求したこともないという被告人の主張は事実と異なる」と指摘した。
イ判事は「被告人が犯した行為は、被害者に一生消えない苦痛と被害を抱かせる蛮行に近い行為であり、いかなる場合であれ慣行だとして正当化されえない」として「被告人の家族に拷問が加えられた時にも、そうした立場を維持できるか疑問」と明らかにした。続けて「家族が善処を嘆願しているというが、拷問被害者の生命と身体の重大な人権侵害行為を加える時、被害者にも待っている家族がいることを全く心配しなかった被告人が、そうした主張をすることが適切なのか疑問」と付け加えた。
イ判事は「この事件は(コ氏の)自白が適用され、懲役1月から10月まで宣告できる事件だが、量刑基準を上回る刑を宣告する」として懲役1年を宣告した。
宣告公判を見守ったユン・ジョンホン氏は、取材陣に「検察の求刑が1年にしかならず、懲役1年に執行猶予までつくのではないかと心配したが幸い」としながらも「1年はすぐに過ぎ去るが、その人のために被害を被った人は少なくとも50人はいる。(刑量が)50年にはならなければならない」と話した。イ・ジョンス氏(60)は「その人が懲役刑を受けるとしても、被害者の失った時間を取り戻すことはできない。この事件を通して、捜査機関が人権に対する認識を高める契機にしなければならない」と声を高めた。
この日裁判を共に見守った拷問被害者も、裁判所の判決を歓迎すると口をそろえた。「三陟(サムチョク)定着スパイ団事件」で拷問被害を受けたキム・テリョン氏(69)は「裁判所が拷問加害者を厳しく処罰したことに対し、司法府の正義が生きていると思った。裁判所の判決を見て、胸に積もっていた恨が溶けて流される思いがした」と話した。1984年、国軍保安司令部によって拷問被害にあい、スパイの汚名を着せられたナ・ジョンイン氏(80)も「裁判所が拷問加害者の主張に逐一反論して、気が晴れた。『(司法府は)もうこれ以上は後退しないだろう』と思う」と話した。