元大統領の拘束という不幸な憲政史が再び書き加えられた。全斗煥(チョン・ドゥファン)・盧泰愚(ノ・テウ)元大統領、そして昨年の朴槿恵(パク・クネ)前大統領に続き、李明博(イ・ミョンバク)元大統領を含めた4人の元大統領が拘置所と監獄に送られた。
23日、韓国社会は2人の元大統領が拘束された状況を、平静と秩序を保った中受け止めている。同日、インタネットには「10年間の胸のつかえた取れた感じ」などの感想が相次いだ。元大統領の拘束を控えて発表された各種世論調査で、国民の60~70%は「拘束捜査に賛成」の意見を示した
市民のこのような反応は、李元大統領の拘束が表向きには個人が犯した不正容疑で起きた出来事だが、社会的には「正義立て直し」、「朴正煕流の開発独裁の廃棄」、「民主主義の回復」などの価値が込められた事件と受け止められている兆候と言える。李元大統領の自宅があるソウル・ノンヒョン洞周辺に「政治報復の中断」のような李元大統領の主張の代わりに、市民たちが掲げた「国政壟断、4資防(4大河川事業、資源外交、防衛産業不正の頭文字を取った略語)不正の元凶、李明博拘束」のような横断幕が目立つのも、これを裏付けている。
特に、李明博・朴槿恵元大統領の同時没落は、単に個人に下される法の審判ではなく、韓国社会に亡霊のように漂ってきた「朴正煕流パラダイム」の終焉の始発点という分析もある。
江原大学のイ・ビョンチョン元経済学科教授は23日、ハンギョレとの電話インタビューで、「朴槿恵前大統領は開発独裁を進めた父親の娘としてハロー効果を享受し、李元大統領は実質的に『開発』の名前でハロー効果を享受した。この点で、李元大統領の拘束は『大統領が道徳性が欠けていても(私が)金持ちになればそれで良い」という新自由主義的開発独裁の表象が崩れたものと受け止められている」と話した。
明智大学キム・ヒョンジュン人文教養学部教授は「韓国社会は朴正煕パラダイムと金大中(キム・デジュン)パラダイムが衝突してきたが『(経済)成長できるならすべて許される』という朴正煕流の認識が李元大統領の拘束で根底から崩される当為性を示した」と分析した。
ユン・テゴン「議題と戦略グループ・ザ・モア」政治分析室長は「李明博は青年期の1964年、韓日国交正常化会談反対デモに参加するなど、朴槿恵とは少し異なる政治的性向を持っていたが、結局政治的な力を手に入れてからは、朴正煕の真似をした。李明博は、朴正煕のようにブルドーザーのように押し進めており、朴槿恵が受け継いだのは先公後私のような虚像だった。もう右派朴正煕(朴槿恵)と左派朴正煕(李明博)がいずれも崩壊しているものとみられる」と分析した。
李元大統領の当選は、韓国社会「欲望の反映」でもあった。大統領選挙前にダースとBBKなど、様々な疑惑が相次いだが、国民らは偽りの顛末に気づいたにも関わらず、李元大統領に票を入れた。李元大統領は「過程よりは結末を、庶民よりも財閥を、人権より成長を、保存より開発の価値」を掲げ、歪んだ欲望と価値観を説破した結果、双龍自動車の座り込み強制鎮圧▽龍山立ち退き住民による座り込みの強制鎮圧惨事▽4河川の環境破壊▽民間人査察などを招いた。
李元大統領の拘束は、国家権力の横暴により、国民主権の放棄を強要された人たちの傷を癒す役割を果たすという見解もある。キム・ドクジュン民主労総金属労組双龍車支部長は、「双龍自動車労働者たちは誰よりも、彼の拘束を切望してきた。2009年は公安政局だった。公権力の暴力と人権の尊厳が踏みにじられた時間だった。そのような労働者たちは外傷後ストレス障害を抱えたまま9年間を耐えてきた。遅まきながらも、李元大統領の拘束で双龍車事態の真実を明らかにする社会的な契機が設けられるだろうという希望が持てるようになった」と話した。イ・ウォンホ龍山惨事真相究明委員会事務局長は「龍山の遺族・生存者たちは2009年の龍山惨事事件当時から責任者の李明博とキム・ソクキ(当時ソウル警察庁長・現自由韓国党議員)の処罰を求めてきた。李明博は、彼らを徹底的に無視し、謝罪や言及さえなかった。被害者たちは、李明博の拘束が龍山惨事の原因究明と責任者の処罰の始まりだと考えている」と話した。
清算は何かを取り除く行為であり、取り除かれたものはまた他の何かで満たさなければならない。このため、李明博・朴槿恵元大統領の拘束は積弊清算の終わりではなく、始まりでなければならないという指摘もある。韓国社会はどのようなシステムと対案を講じなければならないだろうか。
チョン・サンジン社会学科教授は「元大統領の拘束は、悪い人を処罰するという意味もあるが、より重要なことは『腐敗しても私たちの欲望だけ満たしてくれば良い』という社会的価値の廃棄にまでつながなければならない。問題点をある程度知っていたにもかかわらず、彼らを選んだのは韓国国民だ。そのような部分に対する反省と省察がなければ、内部の欲望が誰かに投射され、『第2の李明博』が出るかもしれない」と警戒した。
ハン・サンヒ建国大学法科大学院教授は「元大統領の拘束はそれ自体で悲劇なのに、韓国社会は悲劇の最後の部分に到達している。ただし、過去の政権が過ちを繰り返し、国民がろうそくで対抗すると、他の政治勢力はこれを他山の石にすべきだが、実際にそうだったのかは疑問だ。また、自由韓国党は過去の政権の責任を負って没落すべきなのに、依然として第1野党であり、党代表などが危機感を感じていない」と診断した。
朴正煕元大統領が故チョン・ジュヨン当時現代グループ会長に「李明博に用心せよ」と言った事実が情報公開ホームページ「ウィキリークス」で2007年ソウル発の外交電文で明らかになった。しかし、チョン会長は、これを「李明博の面倒を見てくれ」という意味で聞き間違え、李元大統領が現代建設で高速昇進したことがある。当時、在韓米国大使アレクサンダー・バーシュボウは、米国務省に送った報告書でこれを「運のいい転換」だと明示した
もはや李元大統領のこのようなエピソードは、また別のデジャヴュとなっている。李明博元大統領のような「腐敗した政治指導者に気を付けろ」という警戒心を持って、「社会価値転換の土台」にすべきという声が上がっているのも、そのためだ。シン・グァンヨン中央大学社会学科教授は「元大統領が腐敗で拘束されるのを見ながら、韓国国民はもっと冷静に、分別を持って投票することが重要だということを学んだ。高い費用を支払った今回の民主主義の学習が未来の投票にもつながらなければならない」と話した。イ・ジョンヒ韓国外国語大学政治外交学科教授は「(大統領の不正を把握していたにもかかわらず長い間目を瞑ってきた)検察などの権力機関も、国民に謝罪しなければならず、帝王的大統領の権力をけん制できる社会システムを作らなければならない」と指摘した。