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[コラム]生半可な法では“彼ら”の不法を防ぐことはできない

登録:2017-12-05 23:01 修正:2017-12-07 06:53
国家情報院//ハンギョレ新聞社

 飛行機で帰国した野党のH議員が、空港で愛人に電話をかけた。すぐにホテルで会った二人は密会を楽しんだ。国会発言で大統領の逆鱗に触れたために、網を張って待っていた“彼ら”にまんまとひっかかった。空港で盗聴し、ホテルの部屋に設置したカメラで物証まで確保した。妻の不倫を信じなかった夫に、音声と映像まで提供し告訴状を受け取り、結局H議員を姦通の疑いで拘束した背後にも彼らがいた。1982年のことだ。

 自分たちは安保と国益のために仕事をしていると主張するが、そもそも生まれた時から“政権安保”が優先だった。1967年の大統領選挙当日には「もし当選したら撃ってしまえ」として、野党候補ユン・ボソンの自宅の向い側の女子高の2階に狙撃手を配置した。1971年の大統領選挙ではわずか90万票差で朴正煕を脅かした金大中(キム・デジュン)を2年後に拉致し、殺すぞと脅迫したのも彼らだった。

 参与政府(廬武鉉政権)は「国家情報院過去事件真実糾明を通した発展委員会」(真実委)を設置して、40年間に彼らが犯した過ちを一つ残さず暴いた。2007年10月に真実委は報告書を出し、国民に許しを請う“最後の機会”と、政権ではなく“国民の情報機関”として出直すことを誓った。今後は“スパイでっち上げ”や“選挙介入”のようなことはできないだろうと皆が信じた。

 国民がだまされたことに気づくまで、長くはかからなかった。コメント工作を始め、9年間に繰り広げた悪さが、干上がった干潟のように赤裸々にあらわれた。“日陰”の悪い伝統もそのまま残っていた。

 朴正煕(パク・チョンヒ)政権の時、「宮井洞(クンジョンドン)の安家(秘密宴会場)に立ち寄った芸能人は100人程度…月に10回」(キム・チュンシク『南山(ナムサン)の部長たち』)行事を行ったが、女性たちに渡した謝礼費も“彼ら”が賄った。40年後、彼の娘も彼らの特殊活動費から40億ウォン(約4億円)を取り上げ“私的用途”に使った。父親の時のことをあらまし知っていたので、彼女が要請したのだろう。スイスの秘密口座に政治資金を置いて、婿に管理を任せた李厚洛(イ・フラク)情報部長は、「餅に触れた人の手にきな粉がつくのは当然」だと言った。40年後の後任者も、妻の社交会に安家を提供しインテリア費用だけで10億ウォン(約1億円)を使った。

 “懺悔”させようとの気持ちで真実委を設けたとしても、彼らは結局、不法査察・工作を復活させた。政府に批判的な野党と市民社会団体、文化芸術家、学者はもちろん、政府与党の要人にまであら捜しをした。「大統領を守ることがすなわち国家安保」と合理化した。

 時代錯誤的な“従北”論理も再び持ち出した。憲法に則り民主主義を守れと主張した政党・団体・市民を、勝手な論理で「左派」と断定し「左派=親北朝鮮=敵」という冷戦時代の理念論争を前面に掲げた。文化芸術界ブラックリストや放送界「左派退出シナリオ」を作ったのも、右翼団体と大企業で構成する新種ホワイトリスト活用法を開発したのも彼らだ。オンライン時代に合わせて、官製インターネットメディアを作り、3千人余りのコメント部隊も動員した。これらはすべて「国家安保」のための仕事だった。

 彼ら自らが大手術を要請し法改正案を出した。“国外”と“北朝鮮”の情報だけを収集し、対共産主義捜査権まで手放すと言うので、今までに出てきた最も画期的な改正案だ。ところが代案もなくいきなり出したために「スパイは誰が捕まえるのか」という反論を呼び起こした。意図したのではないだろうが、最初のボタンを掛け間違えた結果だ。どこまで強い意志があるのか、疑問が起こるのも事実だ。

 多くのでっち上げ・不法・不正事件が起きるたびに、少しずつ法に手を入れてきたが、国民は何も変わっていないと感じている。国家保安法の称揚鼓舞罪に関する捜査権も一時は廃止したことがあり、不当な命令には従わないでも良いとする拒否権も新設したが効果はなかった。法の専門家である派遣検事たちまでが、不法であることを知りながら偽の事務室で同僚検事を欺くことに加担するほどならば、その雰囲気も推して知るべしだ。

キム・イテク論説委員//ハンギョレ新聞社

 35年前にホテルの部屋にカメラを設置したのと同様に、政権に嫌われた検察総長の婚外子身上情報を検索した彼らだ。そのくせ「トイレで偶然に聞いた情報」などというあきれた弁解にも、同僚たち数十人がいっせいに口を閉ざして同調した。積弊を清算するとしながらも、メインサーバーは自分たちがしっかり抱き抱え、他人には決して見せない組織だ。組織と権限を大手術する格別の対策がなくては、悪いクセは直せない。

 法にきっちり手を加えずに、大統領や情報機関長の善意に国家安保や国民の人権を任せることは危険千万だ。せっかく出された改正案のように、大幅に直さなくてはならない。生半可な法では彼らの不法を防ぐことはできない。10年前のようにだまされないようにするなら、そのようにしなければならない。

キム・イテク論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/821970.html韓国語原文入力:2017-12-04 19:54
訳J.S

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