登録 : 2017.09.10 22:47 修正 : 2017.09.11 08:40

“李健煕動画”のその後

2016年7月、インターネット独立メディア「ニュース打破」が、李健煕(イ・ゴンヒ)サムスン電子会長の買春疑惑動画を公開し、大きな波紋を呼び起こした。だが、時間の経過と共に関連報道が少なくなり社会的関心も低下した。それから1年余り、当該事件と関連した裁判所の判決が下された。問題の動画を撮影し、それで脅迫した一味が実刑判決を受けた。それでもまだ解けない疑問がある。その疑問はいつになったら解けるのだろうか。

2011年買春疑惑動画を初撮影
ソン氏一味、2013年に入り脅迫を開始
サムスン高位役員らにUSB・写真伝達
サムスン側、江南のホテルで数億ウォンずつ渡す
イ会長秘書「チェ氏」の存在は依然として疑問
ソン氏一味に渡した金銭の出処も明らかにすべき
相続財産めぐりサムスン-CJの衝突時点
検察、CJの組織的介入は解明できず

インターネット独立メディア<ニュース打破>が、李健煕サムスン電子会長の2011~2013年にわたる買春疑惑を報道し公開した映像で、李会長だとされた男性がソファに座っている=<ニュース打破>画面キャプチャー//ハンギョレ新聞社

 これは恥ずかしい告白だ。2015年8月、李健煕サムスン電子会長に関連した動画情報の提供を受けて取材に乗り出した。だが、翌年に「ニュース打破」が李会長の買春疑惑動画を公開するまで、一行の記事も書くことはできなかった。当時ハンギョレに寄せられた情報提供は、該当動画を渡すから金を払って買い取れというものだった。情報提供者との金銭取引をすることは、ハンギョレの取材倫理に外れることだった。結局、動画全体の内容を調べることはできなかった。代わりに警察との共助を通じて取材しようとしたが、それも壁に突きあたった。警察は李会長の買春疑惑に対する捜査に先立ち、まず動画関連者の身元を把握するための情報を要求した。当時、情報提供者でもある人々の情報をむやみに渡すことはできなかった。それでもこの事件に関連したサムスンとCJなどの企業関係者の虚偽説明を簡単に受け入れたことも、執念をもって取材に臨めなかった根本責任はすべて取材記者にある。最近出された当該事件裁判の判決文を根拠に、裁判過程で明らかになった事実と、依然として残っている疑惑を調べる。
“李健煕動画”と関連して有罪判決を受けたソン氏一味がサムスンとCJの関係者らと電子メールをやりとりした痕跡//ハンギョレ新聞社

2011年、動画初撮影

 イ・ジェヨン・サムスン電子副会長が懲役5年の刑(1審)を受けた8月25日。同日もう一つの興味深い判決があった。イ副会長の父親である李健煕サムスン電子会長の買春疑惑動画に関連した判決だ。この日、ソウル中央地裁刑事29部(部長判事キム・スジョン)は、特定経済犯罪加重処罰法上の恐喝などの容疑で拘束起訴されたCJ第一製糖元部長のソン・某氏(56)に懲役4年6カ月と40時間の性暴行矯正治療プログラム履修を宣告した。ソン元部長と共謀した彼の弟のソン・某氏(46)とイ・某氏(38)にもそれぞれ懲役3年と懲役6カ月が宣告された。また、動画を自ら撮影した中国国籍女性のキム・某さん(30)は、懲役8カ月を宣告された。弟のソン氏とイ氏、キムさんらは揃って似たような麻薬の前科を持っている。

 8日、ハンギョレが判決文を調べたところ、事件の始まりは2011年に遡る。2011年12月11日、キムさんはイ会長の買春疑惑動画を撮影し、弟のソン氏に見せた。その後、弟を通じて動画を見た兄は動画をもっと撮影するように薦めた。

「これからもこの続きを撮れるか?もっと撮れたら俺に渡してサムスンと勝負できるからサムスンを揺さぶれ」(兄)

「撮影するには機材も買わなければならないが経費もない」(弟)

 兄は会社に弟を呼んで、車とクレジットカードを渡した。弟のソン氏一味はボールペン型の隠しカメラを購入し、2012年3月31日に追加の動画を撮影した。2011年と2012年に撮った動画二つがサムスンを脅迫する武器になった。買春はその後、2013年1月5日、4月19日、6月3日にも続けられた。ソウル市ノンヒョン洞のマンションと三成洞(サムソンドン)の邸宅で女性4~5人が性売買を行い、これらの女性は毎回500万ウォン(約50万円)ずつ受け取った。

 ソン氏一味の脅迫は2013年3~6月頃に始まった。彼らはイ会長の秘書であるチェ・某氏が利用する美容室とサムスングループの瑞草(ソチョ)社屋の案内デスクに動画をコピーしたUSBメモリーを送ることから始めた。彼らは電子メールのアドレスとパスワードを書いて「メールを確認しろ」という内容のメッセージとUSBメモリーを送った。その後、サムスン側から連絡が来ると、電子メールで連絡したり、ソウル江南(カンナム)のSホテルのサウナで直接会い、金銭を要求した。結局、彼らはその年の6月に6億ウォンを手にすることに成功した。金は彼らの知人の口座番号で受け取った。彼らはさらに追加で3億ウォンを受け取った。

 彼ら一味から動画がコピーされたUSBを盗んだ別のキム・某氏(39)も、同年7~8月にサムスンを脅迫し始めた。サムスン電子のイ・某社長の携帯電話で動画からキャプチャーした写真を送る方式だった。キム氏はサムスン側から連絡が来ると関係者に会い、まず3億ウォンを受け取り、その3年後に再び3億ウォンを受け取ることで合意した。数日後の8月13日、キム氏はソウル市江南のKホテルのコーヒーショップでUSBを渡し、現金3億ウォンを手にした。この過程でサムスンは覚書の作成を要求した。サムスン関係者は「資料の原本やコピーが存在しないことを確約し、事実でなかった場合には受け取った金を返還するのはもちろん、いかなる代価(刑事処罰を含む)も甘受することを誓う」という内容の覚書に対する署名を要求した。

 当時、李健煕会長も脅迫の事実を知っていたことを示す情況がある。李会長の資金を管理するサムスンのチェ・某役員は、検察の調査で「正確な日付は覚えていないが、3個の口座に6億ウォンを振り込んだが、数日後に李会長が3億ウォンを現金で用意しろと言ったので3億ウォンをカバンに入れて渡した事実がある」と述べた。現金を別のサムスン関係者に渡し、ソン氏一味に渡させたものと見られる。

 脅迫を受けたわけでもないのに当該動画を購入した所もある。それはCJだ。2012年4~5月頃、サムスンが受け取ったものと類似した内容が含まれた電子メールを受け取ったCJは彼らに直接会った。当時ソウル市麻浦区(マポグ)の西江大正門でグループの監査チーム部長が彼らに会ってUSBを受け取り、1千万ウォンを渡した。
“李健煕動画”に関連して有罪判決を受けたソン氏一味がサムスンCJの関係者らと電子メールをやりとりした痕跡//ハンギョレ新聞社

会社の資金を渡したならば横領に該当

 動画の撮影者が明らかになり、これを武器に脅迫した一味も断罪された。だが、依然疑問は残る。

 まず、李会長の秘書チェ・某氏の存在だ。ソン氏一味は2015年に記者と会った席で、チェ氏のことを“チェ・ホンサ”だと主張した。部長職位で7~8年間李会長に“女性”を会わせる役割をしているという話だった。チェ氏がソウル市ノンヒョン洞に住居はもちろん高級外車など相当な財産を所有しているとも話した。だが当時、サムスンの内部ネットワークで職員を検索したが、同じ名前の部長はいなかった。サムスンの職員ではなく、ある種の役割をしていたのではないかと推定することもできる。中国国籍の女性キムさんが性売買することができたのもチェ氏とのコネがあったためだ。

 そのためかソン氏一味は、動画伝達者の1人としてチェ氏を選んだ。2013年当時、チェ氏が利用していた美容室にUSBを送ったのはもちろん、ソウル市瑞草洞(ソチョドン)のサムスングループ案内デスクにUSBを送り、チェ氏に渡すよう要請もした。そのおかげでサムスン関係者らから連絡を受けることができた。有罪が認められたキム氏の性売買回数が4回である点を考慮すれば、チェ氏もやはり性売買斡旋容疑を受けて当然だ。だが、判決文には検察がチェ氏を調査したという記録はどこにもなかった。

 次に、誰が現金を渡し、その資金はどこから出たのかもまだ確認されていない。もし会社の資金を使ったのなら、業務上横領に該当する。ソン氏一味が2015年に記者に送った電子メールには、サムスン役員の電子メールアドレスが載っている。1人はサムスン電子のキム・某社長であり、また別の1人は同社のホン・某社長だ。また、サムスン電子のイ・某社長は2013年に携帯電話で李健煕会長動画のキャプチャー画面を渡された。さらにソン氏一味はキム・某社長とイ・某社長にそれぞれ別に直接会ったとも主張した。キム社長とホン社長は、当時これに関連したハンギョレの質問には答えなかった。イ社長は動画について「常識的には話にならない」として、しらを切った。判決後に再度投じた質問にも答えなかった。

 だが、判決文にはソン氏一味がサムスン関係者に会ったホテルの一つが、ソウル市江南のKホテルだったと明示されている。2015年に記者に対してイ社長に直接会ったと主張したまさにそのホテルだった。当時彼らは「イ社長に会った席で互いに対話内容を録音した後、再び一緒に破棄した」と主張した。

 ソン氏一味は一個のホットメールアカウントでサムスン側と連絡を取り合ったと見られる。サムスン側が金銭を渡した人が誰かはまだ明らかでない。9億ウォンの横領有無を正確に知るには、連絡をやりとりした関係者を見つけ出し、金銭の出処を把握しなければならない。判決文によれば、検察がサムスン電子のイ社長から陳述を受けているだけで、他の関係者を調査したり資金の出処を把握した内容はなかった。グループ会長の電子メールに連絡を受けたCJの場合も同様だ。CJはサムスン(9億ウォン)に比べれば金額が少ない1千万ウォンを渡したが、その金が誰のもので、どのように処理されたのかについても調査しなかった。

 仮にこの金銭が李健煕会長の個人資産だとしても疑惑は残る。李健煕会長動画が撮影されたのは、ソウル市ノンヒョン洞のあるマンションだが、こちらの貸切保証金は、2008年の「サムスン秘密資金事件」特別検察官捜査で明らかになった李会長の借名口座から出たものだった。2014年までに実名転換を完了したと明らかにしたにもかかわらず、依然として借名財産がありえることを示したわけだ。

 また別の疑問は、ソン氏一味がサムスンに対して相当な情報を持っていたという点から始まる。彼らはCJ側に送った電子メールで、李健煕会長の昔の名前を書いた。李会長が5歳の時に、現在の名前に変える前の名前を書いたのだ。ある財界関係者は「家族の間で時々使う李会長の旧名を知っているほどならば、相当な努力をしたと見られる」と話した。さらにCJの部長だったソン氏が故イ・メンヒCJグループ名誉会長の儀典を担当した経歴があるという点も注目に値する。仁川(インチョン)のある高校を卒業した彼は、イ・メンヒ名誉会長が韓国国内に入国する時に空港で出迎えたり、中国に出張に行って手伝ったりしたという。
キムさんら女性たちが性売買の見返りに受け取った自分宛小切手//ハンギョレ新聞社

検察、李会長に時限付き起訴中止処分

 このように相当な情報と儀典の経歴を考えれば、CJの組織的介入の有無も十分に疑惑を買うに値する。ソン氏一味がCJ側と連絡をやりとりした2012年4~5月は、イ・メンヒ名誉会長が父親の李秉チョル(イ・ビョンチョル)サムスン創業者の借名相続財産を返してくれとして、弟の李健煕会長側と訴訟戦を行っていた時期だ。当時両グループ間の感情的争いは極に達していた。当時の状況と関連して、CJのある役員は「当時は『一戦まじえるか』とばかりに双方とも感情が悪く、相互に対する各種の情報を収集もした」と打ち明けた。検察は今年3月、CJハロービジョンと大韓通運事務室など4カ所を押収捜索したが、CJグループの組織的介入疑惑を完全に解明するには至らなかった。

 CJ側は疑惑自体を強く否定している。CJの関係者は「監査チームの職員は脅迫犯がどんな意図で接触してきたのか、事実なのか、真偽把握の次元で会っただけ」としながら、「会った以後にも関わらない方が良いという判断で連絡を断ったと明らかにした」と説明した。さらにこの関係者は「CJ介入疑惑について検察が調査したが、疑惑を発見できなかった」として「検察も被告人も裁判でCJが介入したという疑惑は提起しなかった」と強調した。

 検察は今年4月、事件の当事者である李健煕会長に対する調査は不可能とみて、時限付き起訴中止処分した。カギとなる李会長の買春疑惑自体を解明することが課題として残ったという話だ。一方、検察の公訴事実が間違っていて裁判所がこれを修正した点もあった。検察はソン氏一味がCJ側の関係者に会った時点を2013年4~5月として起訴したが、裁判所は証拠を総合すればその時期は2012年4~5月と考えられるとして内容を直した。ソン氏一味が記者に渡した電子メールのキャプチャー写真にも、CJと電子メールをやりとりした時期は2012年となっている。

イ・ジョンフン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2017-09-10 14:13
http://www.hani.co.kr/arti/economy/marketing/810315.html 訳J.S(5647字)
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