国防部の過去事真相究明委員会で「実際にスパイ行為があった」と明らかにしていた在日同胞の金泰洪(キム・テホン)さんが、裁判所の再審で無罪判決を受けた。
ソウル高裁刑事10部(裁判長イ・ジェヨン)は15日、北朝鮮の指令を受け韓国に留学しスパイ活動を行ったとして無期懲役を言い渡された金泰洪さん(60)の再審事件で無罪を言い渡した。裁判部は「国軍保安司令部(保安司)所属の捜査官が任意同意の形で保安司に連行し、拘束令状執行まで約35日間監禁した行為は、憲法と刑事訴訟法に違反したものであり、供述証拠などには証拠能力がない」とし、「残りの証拠だけでは合理的に疑いの余地がないほど公訴事実が証明されたと見ることはできない」と明らかにした。
金さんは1977年、高等学校卒業後ソウル大学在外国民教育院を終え、翌年延世大学経済学科に入学した。しかし1981年、保安司は金さんを35日間監禁した状態で拷問した。金さんは当時、法廷で「保安司で調査を受けるとき、3日間眠れず、殴られ、後には辛さのために捜査官が書くのを見て書いた」と明らかにしたが、裁判所はこれを無視して無期懲役を確定した。この判決で金さんは1996年まで15年間服役し、光復節特赦で釈放された。
しかし、金さんが無罪宣告を受けるまでには至難の過程が続いた。2007年、国防部過去事委員会は「在日同胞および日本に関連するスパイねつ造疑惑事件の調査結果」を発表したが、キム・ヤンギ、キム・ジョンサ、イ・ホンチさんの事件はねつ造の蓋然性が高いと判断したが、金さんだけはスパイ行為があったと判断した。過去事委の真実究明がない状態で金さんは2012年に再審を請求し、ソウル高裁は3年後の2015年に再審開始を決定したが、今度は検察が即時抗告で対抗し、長い時間がかかるほかなかった。金さんは判決の後、「胸がすっきりした」と述べながらも、「長い時間がかかって残念だ」と話した。金さんの弁護人のチョ・ヨンソン弁護士は「無辜な在日同胞留学生を捜査権限のない保安司が逮捕・捜査したにもかかわらず、黙認し幇助した検察と裁判所が再審過程も遅延させた」とし、「まだ100人以上にのぼる在日同胞のスパイねつ造事件の被害者がいるため、真実・和解に向けた過去事委員会をもう一度構成し、早く救済しなければならない」と指摘した。