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[インタビュー]GPSスパイ事件で無罪…今も安保法の亡霊が社会を支配

登録:2016-04-12 23:50 修正:2016-04-13 07:25
スパイの汚名着せられた対北朝鮮事業家のイ・デシク氏
「GPSスパイ事件」無罪確定判決の便りが伝えられた8日午後、イ・デシク氏がソウル城北区敦岩洞の自宅で自身の捜査資料を調べている =ホ・ジェヒョン記者//ハンギョレ新聞社

統一革命党関与20年服役が「レッテル」
50代になり再起を夢見て対北朝鮮事業に
突然警察が押しかけ連行
「軍機密流出をしたか」と追及

検察は証拠もなく陳述だけに依存
スパイ容疑で拘束されたが疑い晴らす
対北朝鮮事業はすでに相次ぎ取り消され
「私は民族主義者」と苦痛を訴え

 「私たちの社会は未だに幽霊が支配している」

 白髪の老人が語った。 大法院(最高裁)2部(主審チョ・ヒデ最高裁判事)で最近、国家保安法違反容疑で無罪の確定判決を受けたイ・デシク氏(78)。この4年間は悪夢のようだったが表情は淡々としていた。

 イ氏は「長期囚」出身だ。 「統一革命党再建事件」に関わり1971年に収監され、1990年に出所した。 社会に復帰し平凡な人生を送っていた彼が、再び冷たい鉄格子の中に入ることになったのは2012年の4月18日だった。 統合進歩党事態で激しい「従北」論議が起こり、北朝鮮がGPS(衛星航法装置)攻撃をしてきた時期だった。

 「(中学校に通う)子供たちを学校に行かせようと、朝、玄関のドアを開くと、突然警察が押しかけてきて私の腕を掴みました。 事前に出頭要求書があったわけでもなく、私も驚いたし、子供たちもショックを受けて…」。警察に連行された当時のことを話す時は、淡々としたイ氏も身震いした。 ソウル警察庁保安捜査隊では、北朝鮮にGPS関連装備など軍の機密を渡そうとしたのではないかという追及が続いた。

 その年の5月30日、警察はいわゆる「GPSスパイ事件」を発表した。 ハンギョレなどいくつかのメディアが「(警察の発表とは異なり)イ氏が収集した資料は軍の機密ではなくインターネットで収集可能な情報の水準」とし、事件ねつ造疑惑を提起した。 イ氏は統一部の承認を受けて対北朝鮮事業をしていた。 検察は彼をスパイ容疑で拘束起訴した。 ソウル中央地裁刑事28部(裁判長キム・サンファン)が2012年12月6日に無罪を宣告をするまでの6カ月間、イ氏は拘置所生活をした。 ソウル高裁刑事5部(裁判長キム・サンジュン)は2014年5月20日、再び無罪を宣告し大法院(最高裁)は今月8日に無罪を確定した。

 「GPSスパイ事件」について裁判所は、検察と警察の捜査が特定人の陳述に過度に依存していると判断した。 1審裁判所は「検事(チョン・ウォンドゥ検事)が提示した証拠は、ニュージーランド僑胞(海外在住韓国人)キム氏(60)の陳述を媒介としたものや、その陳述と一緒でなければ事実関係を立証できない内容」と明らかにした。 スパイ指令を下した北側の人物として検察が名指ししたキム・ミョンファン(北朝鮮民族経済協力連合会丹東<タンドン>代表部職員)について、2審裁判所は「論理的飛躍」があるとした。 キム・ミョンファンは統一部がイ氏に対して事業上の接触を承認された人物だった。

 裁判所は検察捜査で主要な役割をしたキム氏が、イ・デシク氏と対北朝鮮貿易事業をしていて仲違いした人物である点に注目した。 ニュージーランド国籍のキム氏は、2010年12月にイ氏と知り合い、北朝鮮産松茸の輸出事業を一緒にすることにしたが、契約金問題で決別した。

 キム氏は警察に「イ氏がGPS関連装備を購入するため2011年7月18日、中国の丹東市で米国NSI社のホームページに購買申込書を送ろうとしたEメールがある」として、関連証拠を提出した。 しかし1審裁判の過程で2011年7月18日~22日の間にイ氏に丹東ではなく延吉市(ヨンギルシ)で会ったという第三者の証言が出てきた。 裁判所はキム氏の話の信憑性を疑った。 裁判に参加した検事も法廷で「(起訴するまで)大いに悩んだ」と述べたと伝えられた。

 1963年に高麗大学校の行政学科を卒業した前渡有望な青年だったイ氏は、70年代スパイ容疑で逮捕連行されたし20年余りを監獄で過ごした。 「統一革命党再建事件連座者」というレッテルのせいだろうか。 50代になって再起を夢見て始めた対北朝鮮貿易事業は、北の指令を受けて活動するための偽装事業ではないかという疑いをかけられ、彼は再び収監された。 以後、無罪判決を受けても統一部が許可した既存事業は続々と取り消された。

 イ氏は刑事補償金で5千万ウォン(約470万円)程度を受け取ることになるだろうという説明を聞いたが、すでにかかった弁護士費用だけでもその程度にはなる。 公安通のファン・ギョアン弁護士(法務法人太平洋)が、1審でイ氏の弁護人として参加した。 イ氏は小規模な政府賃貸アパートで老齢年金と国民年金でかろうじて暮らしている。 自宅には最小限の家財道具があるだけで、家具と呼べるようなものは殆どなかった。 「子供たちはまだ父親がスパイだと思って訪ねてこない」とイ氏は無念な思いを吐露した。

 「私は共産主義者ではありません。 ただの民族主義者だと分かって欲しい」。イ氏は苦々し気に話した。 民族主義者を共産主義者であるかのように疑惑を着せ続ける「幽霊の実体」は果たして何だろうか。 イ氏が被っている苦痛に誰も明確な返事をしない。

ホ・ジェヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/739392.html 韓国語原文入力:2016-04-12 19:53
訳J.S(2393字)

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