◎脱権威、破格の歩み
首相など主要人選は自ら発表
顕忠日には負傷兵と隣の席で
◎積弊清算に速度戦
国定教科書・4大河川堰の開放など
“ろうそく政権”モットーで改革課題を突破
◎改革人事を前面に押し出し
チョ・グク、チャン・ハソンなど改革参謀起用
側近排除「論功行賞」論議を遮断
◎野党協力政治は難航
野党指導部訪問など疎通を図る
内閣人選・補正予算は難題山積
文在寅(ムン・ジェイン)政府が10日で発足から1カ月をむかえる。現職大統領の弾劾と早期大統領選挙という前例のない状況の中でスタートした文在寅政府は、大統領選挙の翌日である5月10日午前の大統領就任宣誓と同時に任期を始めた。新政府は「与少野大」の政治状況の中で、引継ぎ委員会も経ずに職務遂行に突入するという悪条件に置かれていたが、80%を上回る国民の高い支持世論を背に政局を突破してきた。
■公開的な歩みは気さく・破格
国民が新しい大統領に最も歓呼した部分は、前任大統領と対照される“脱権威”だった。文大統領の気さくな態度は放送を通じて全国民に中継される過程で際立った。就任当日の10日、イ・ナクヨン首相候補者とイム・ジョンソク大統領秘書室長の人選を自らカメラの前で発表したのがその始まりだった。19日、キム・イス憲法裁判所長候補者を指名する大統領府春秋館の会見場では、人選案の発表を終えた後、突然「ひょっとして質問ありますか」と尋ねて、記者たちを慌てさせもした。5・18光州(クァンジュ)民主化運動記念式場では、追悼辞を読んで退場する遺族代表のキム・ソヒョンさんを後から追っていき、キム氏を抱きしめ慰労し、6月6日の顕忠日追悼式では、最も重要な政府部署の幹部が座る隣の席に、地雷で負傷した軍人を座らせて穏やかな感動をかもし出した。
■メッセージは慰撫・包容
国民に向けたメッセージも破格の連続だった。就任後初めての国家記念日メッセージであった5・18民主化運動記念演説からそうだった。「5・18の歴史的意味」を強調して「民主化のための湖南(ホナム)民の犠牲」を慰める次元から一歩進んで、5・18の真実を知らせるために身を投じた1980年代の“烈士” 4人を一人ずつ名前を呼んで「全国の5・18たち」を記憶してほしいと訴えた。5・18精神を憲法前文に反映させるという大統領選挙前の約束を守るという言葉も欠かすことはなかった。同月23日の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領8周忌追悼式では、大統領在任期間中の追悼式出席は今回が最後であることを明らかにし、特定“陣営”に閉じ込められた「彼らだけの大統領」にはならないと誓った。6月6日の顕忠日追悼辞では「殉国烈士」と「護国英霊」だけでなく、国家発展のために献身した清渓川(チョンゲチョン)の女工とドイツ派遣鉱夫、ベトナム派兵軍人の犠牲を同等な「愛国」の隊列にあげた。「愛国」には、進歩・保守の別はなく、各自の席に応じた色々な方式の「愛国」があったという点を強調することによって「追悼」に終わりがちなメッセージを「統合」と「包容」の次元にまで拡張したのだ。
■国政は突破・制圧
「ろうそく民心」の噴出に力づけられて執権した政府という点で「積弊清算」と「改革」は新政府の国政モットーになるほかはなかった。大統領府の選択は「広場」の冷めない熱気をエネルギーとして、相手を息つく暇もなく押さえつける「速度戦」だった。国定教科書廃止、検察の金一封事件への監察指示、セウォル号事故の犠牲になった期間制教師の殉職認定、一部の4大河川堰の常時開放など大統領府発のニュースであふれた。国民は前政権で詰まっていた改革課題が、大統領の決断で解かれていく状況を見て歓呼した。問題は多くの措置が「行政命令」の性格の「大統領業務指示」方式でなされた点だ。与少野大の政治状況と、大統領府と内閣構成さえまともになされていない任期初期政権の特殊性が作用したものだったが、政策の安定性と持続性などを考慮する時、国政運営の一般的方式とは距離があるのも事実だった。
■人事はコード・側近排除
初期大統領府参謀陣の人選は、概して文大統領と指向が似た改革指向の人々で埋められた。検察出身ではないチョ・グク教授を司正ラインの指令塔である民政首席秘書官の席に座らせたことと、財閥の専門家であるチャン・ハソン教授を経済・社会政策を総括する政策室長に抜てきしたことは、それぞれ検察改革と財閥改革を力強く推進するための「コード人事」の性格が濃厚だった。金一封晩餐事件で落馬したイ・ヨンリョル・ソウル中央地検長の後任に、チェ・スンシル特検捜査チーム長を務めたユン・ソクヨル氏を指名したことと、公正取引委員長候補者にキム・サンジョ漢城大教授を指名したことも同じだった。一方、長期にわたり“至近距離”で文大統領を補佐したヤン・ジョンチョル前大統領府広報企画秘書官とノ・ヨンミン前議員は初期人選から除外された。側近人選論議を避けて「論功行賞」をめぐる内部分裂を事前に遮断するための「泣いて馬しょくを斬る」次元だった。だが、業務引継ぎ委員会の期間を経ずにスタートした政府の限界は、後続人事で各種の「人事事故」として現れ、文大統領が候補時期に「公職任命排除基準」として明らかにした「5大原則」(兵役のがれ、税金脱漏、不動産投機、偽装転入、論文盗作)の無力化につながるのではないかという憂慮をもたらした。
■政務は説得・圧迫
文大統領の「国会との関係」と関連しては「疎通のために努力したが、協力政治水準まで進むにはまだ距離が遠い」という評が一般的だ。就任初日に与野党の指導部を訪問したことと、数日後に与野5党の院内代表を大統領府に招請して長時間対話をしたことは疎通強化の代表的事例に挙げられる。だが、人事原則毀損論議と関連して、先月29日に文大統領が発した首席・補佐官会議の冒頭発言をめぐり、政界では批判的見解が少なくない。野党を説得して異見を狭めていくというより、自身が正当と感じる事案は世論を信じて正面突破することを好む“政治家文在寅”の指向が明確にあらわれたということだ。当時、文大統領は「人事問題」について国民の了解を求めながらも、論議が大きくなったのは野党がこれを「政治化」したためという認識を隠すことなく露出させた。
■外交は慎重・名分
最大の外交懸案であるTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備と関連しては、米国と中国の反応を見ながら慎重な歩みを見せている。発射台の追加搬入報告漏れと関連して、国防部に対する経緯調査を実施し、THAAD敷地の環境アセスメント回避疑惑に対しても調査を始めたことは「国内法的手続き」と「正当性確保」という名分を前面に掲げ、米中を説得するための時間を稼ぐ意図だ。だが、文大統領のこうした「時間かせぎ」措置もやはり、前任政府の奇襲的THAAD配備によりもたらされた軋轢に対する「弥縫策(一時しのぎの策)」を越えられるかは依然として未知数だ。