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トランプ:気まぐれな「世界の父さん」【寄稿】

登録:2025-07-07 06:53 修正:2025-07-07 09:00
スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
米国のドナルド・トランプ大統領が先月25日、オランダ・ハーグで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議後の記者会見に出席している=ハーグ/新華・聯合ニュース

 先月、北大西洋条約機構(NATO)は首脳会議で、米国の提案に基づき、巨額の国防費増額に合意した。ところで、この会場では、ドナルド・トランプとマルク・ルッテNATO事務総長のブロマンスが注目を集めた。トランプがイスラエルとイランを「学校の運動場でけんかする二人の子ども」に例えると、ルッテは笑い、「ならば、父親が立ち上がり、強い言葉で彼らを止めなければならないですね」と応じたのだ。

 ルッテは、自身を含む欧州連合(EU)の主要人物たちも、父親に尻を叩かれる子どもであることを忘れたらしい。欧州諸国も同じく父親に厳しく叱られ、国防費を5%に引き上げたではないか。残念なことにこの増額は、欧州の自主性を強化するどころか、むしろ、欧州を米国の支配にさらに従属させるものだ。トランプはこのように世界の舞台で、自身の新たな役割を発見した。それは、まさに報酬と威圧的な力を混ぜ合わせながら平和を守る「グローバル・ダディー」としての役割だ。トランプは、普遍的な外交ルールや最小限の品位さえ従わない気まぐれな父親であり、常に実用主義的な現実主義の名のもとで行動する。この事態で真に恥ずべき存在はトランプではなく、ルッテのような人物、すなわち厳しい父親の支配を待つ問題児のような子どもになることを喜んで受け入れ、対話の同等なパートナーとして原則的な政策を擁護する指導者の地位を自ら放棄する、われわれ全員だ。トランプがホワイトハウスでウォロディミル・ゼレンスキーを屈辱的に扱った方法を思い出そう。トランプが「クールな父さん」としてゼレンスキーに対して平和を望まないのかと叱りつけると、ゼレンスキーはすぐに父親の権威に屈服し、トランプと米国に対する愛を宣言した。

 父親としてのトランプは、露骨に特定の子どもを他の子どもより偏愛し(テヘランを灰にすると脅した)、経済的決定を主観的な好き嫌いに基づき下したりもする(英国が好きだという理由で、英国に対する関税を下げた)。しかし、イスラエルとイランの休戦を強制する過程で、相手方が体面を保つことを受け入れる柔軟さを示すこともあった。トランプは、イランがカタールの米軍基地を爆撃するという事前情報を米国に提供することで、米国が兵力を撤収して死亡者の発生を回避できるようにしたことについて、感謝の意を表明した。トランプは無条件降伏を言いながらも、イランに最後の体面を保たせる攻撃を一度は許したのだ。

 トランプが紛争を始めようとしているのではなく、終了を望んでいることは、一定程度は事実だ。しかし、トランプが今後さらに多くの「勝利」を収めるとしても、彼がクールな父親として世界の平和を調整しようとする試みには、明らかに限界がある。相手方が彼の父親としての役割自体を拒否してしまうと、もはや通用しなくなるためだ。トランプは今、ガザ地区に平和をもたらすと約束しているが、イスラエルを満足させてパレスチナに何かを与えることができるのだろうか。ウラジーミル・プーチンのような相手には、ウクライナに対するさらに強力な圧力や介入の撤回以外には選択肢がない。もちろん、真の経済戦争を繰り広げている中国については言うまでもない。

 問題は、トランプの実用主義的な平和仲裁者としての立場が偽りである点にある。トランプは、ビジネスの交渉で問題を解決できるかのように行動するが、トランプが持ち出す交渉の条件は、すでに政治的決定と排除によって徹底的に規定されている。イランとの事例のように、トランプの「実用的交渉」とは、結局のところ無条件降伏を要求する手法の他の顔にすぎない。

 グローバルなレベルでの父親としてのトランプは、明確な規則も倫理的原則もない世界を予告している。その世界では、暴力的な交換にまきこまれた子どもたちを統制しようとする行為者自身が、気まぐれかつ予測不可能な権威で行動する。つまり、われわれの世界は最も重症の狂人が統制権を掌握して医師になりすます精神病院に近づきつつある。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1206535.html韓国語原文入力:2025-07-06 18:43
訳M.S

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