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[米国現地専門家対談]「ブルーカラーにとってクリントンは既得権の化身」

登録:2016-11-10 21:59 修正:2016-11-11 05:22
Endersby(ミズーリ大政治学教授) 
「クリントン、変化のビジョンより経綸を強調」 
「トランプ、政策不確実性が極めて大きい」 
 
チョ・ソンデ(韓神大教授) 
「クリントン-トランプ、政策論争なく…民主主義に深刻な脅威」 
「トランプ、議会の支持と協調を得るのに困難来すおそれ」
Jemma Endersby米ミズーリ大政治学科教授(左)とチョ・ソンデ韓神大教授=チョ・ソンデ教授提供//ハンギョレ新聞社

 8日(現地時間)に行われたアメリカ大統領選挙で、ドナルド・トランプ共和党候補が第45代アメリカ大統領に当選した。今回の大統領選挙が米国政治で持つ含意について、Jemma Endersby米ミズーリ大政治学科教授とチョ・ソンデ韓神大教授(ジョージ・ワシントン大訪問教授)が先月28日、ミズーリ大で対談したのに続き、9日選挙結果が出た後に電子メールなどを通して追加対談をした。

チョ・ソンデ(以下、チョ):結果が意外で多少衝撃的だ。ほとんどの報道機関と世論調査機関がヒラリー・クリントン民主党候補の勝利を予想していたが。このようになった原因は何だと考えるか?

Jemma Endersby(以下、Endersby):有権者投票全体ではクリントン候補がより多くの票を獲得した。結果的に、トランプが選挙人団制度を最大限うまく利用したわけだ。選挙人団制度は(全有権者対象の)一般投票制度とは異なり、州別の戦略が極めて重要だ。自身に有利と判断される州をよく選択して、とにかく該当州で過半数の有権者の支持を得れば、その州に属する選挙人団の全てを獲得できるためだ。結局、トランプキャンプが必要な州と投票集団を戦略的にうまくターゲットにした結果と判断する。

チョ:(トランプが)制度をうまく利用したと見ることもできるが、結局アメリカの有権者が過去8年間のバラク・オバマ行政府の延長を拒否し、変化を渇望したためと見るべきではないか? 特に中下層の白人の不満は選挙期間中ずっと目立った。

Endersby:トランプ支持者の最大の特徴は、現在の状態に強い不満をいだいているという点だ。言い換えれば、変化を渇望したということができる。特にトランプは、白人中下層と労働者集団の感性によく食い込んだ。低学歴でブルーカラー産業とサービス業に従事する人々は、過去8年間にオバマ行政府が推進した経済回復政策から何の恩恵も受けられなかったと考える。そのような彼らにとって、クリントンは既得権の化身だった。しかもクリントンは変化に対するビジョンより、オバマ行政府との関係と彼女の経綸を強調するキャンペーンを繰り広げた。結局、社会経済的地位の下落の中で変化を渇望する中下層の白人にとってクリントンは選択肢になりえなかった。

チョ:今回の選挙は過去の大統領選挙とは色々な面で違った。特に“アウトサイダー”に対する熱望表出が目立ったし、トランプのアウトサイダー戦略が当選に大きな役割を果したようだ。

Endersby:歴史的に米国の二大政党は党内主流を反映する候補を本戦に輩出してきた。ところが2016年のアメリカ大統領選挙は、アウトサイダー候補の挑戦と成功が目についたという点で通常の選挙と違った。失敗したとはいえ民主党でバニー・サンダース上院議員が主導した“左からの風”とか、トランプの“重商主義的国粋主義の風”は、結局主流既得権に反対する大衆的情緒と合致したので可能になった。ほとんどの米国市民は未来を明るく展望していなかったし、したがって変化に対するいかなる提案でも現在よりは良いと判断していたようだ。個人的にはトランプの当選は、トランプを大統領適任者と評価したというより、既存の現状を拒否する不満が大きかったために可能だったと考える。

チョ:歴代の大統領選挙と比較した時、今回の選挙では候補間の政策論争がほとんど見られなかった。これは米国の民主主義にとって深刻な脅威になり得るとおもうが。

Endersby:両党候補者の好感度が顕著に低い中で、政策と関連した公開的討論が一度もなかったという点は米国の進路に対する恐れを植え付けるのに充分だった。低い好感度は、お互いの人物像に対する攻撃を主要戦術として活用させたし、政策はあたかも調味料のように散らばっているだけだった。特にトランプは、明確な政策を綱領で提示していない。したがってトランプは、未来の政策方向について広範な大衆的委任を受けたとは主張できないだろう。さらに次期行政府が推進する政策に対する不確実性も極めて大きい。

チョ:ともかく共和党が上院と下院の多数を占めたことによって、トランプは単占政府(unified government・与党が議会の多数を占める政府)を率いる指導者になった。しかし、移民や貿易などトランプが強調した政策は、共和党の伝統的路線とは全く異なっている。トランプ行政府の政策方向をどのように診断するか?

Endersby:今話したように不確実性だらけだ。当座は不法移民に対する規制強化とオバマ行政府の最大立法成果であった“オバマ・ケア”に対する大々的な手直しが予想される。また、貿易と外交政策にも変化があるだろう。しかし、共和党政府ができても、どういう方向でどんな政策を主導するか、党内の明白な合意を導き出すことは非常に難しいだろう。

チョ:単占政府であるのに、トランプが議会からの支持と協調を得るのに困難を来すという話か?

Endersby:トランプは政治的経験が全くない人で、共和党が激しく分裂している。下院議長のポール・ライアンはすでにその指導力が疑問に思われている。トランプを支持した共和党議員は極端な立場の所有者で、穏健な共和党議員と民主党議員が同意し難い急進的な政策で圧迫することが明らかだ。さらには、トランプは選挙期間中一貫して共和党主流を攻撃したではないか。大統領として成功を収めるためには、共和党主流の協力が必須なのに、それは容易ではない。

チョ:民主党も危機であることは同じと見る。党内競選期間に主流のクリントン候補側は左からの挑戦に苦しめられた。もちろん全党大会で最低賃金引き上げ、公立大学無償授業料などサンダースの主要公約を受け入れ団結を誇示したりもしたが、選挙の敗北で今後党内の疲労感は尋常でなさそうだ。

Endersby:政策だけでなく制度に対する改革要求も相当あるだろうと判断する。特にスーパー代議員の比率を減らし、一般有権者の権限を拡大する方向に制度を改革しようという声が増えるだろう。しかし当面の選挙で敗北することが長期的な勝利にさらに利することもある。民主党は激しい論争を通じて、長期的により有効な政党として新たに出発するだろう。むしろ共和党は内部の争いと交錯に絶えず苦しむことになるだろう。

チョ:制度改革と関連して、今回の選挙も2000年の大統領選挙のように国民投票では負け、選挙人団票で勝った大統領が出ることになった。こうした選挙人団制度を改革しようという声が出て来るように思うが。

Endersby:選挙人団制度を改革しようという主張は昨日今日の話ではない。しかし、憲法を改正しなければならない。周知のとおり憲法改正は連邦上下院で3分の2以上の賛成と50州のうち4分の3以上の州の賛成を必要とする。したがって政治的変化に対する途方もない要求が出てこない限りはほとんど不可能だ。今回の選挙が選挙人団制度の改革を要求するほどの危機を産んだとは思わない。

チョ:今回の選挙でオバマ大統領はクリントン候補だけでなく民主党の上下院候補のための応援遊説に積極的に出た。これは韓国では選挙法で禁止されている。いくら選挙とは言っても、大統領は選挙運動より国政に神経を使わなければなければならないとは思わないか?

Endersby:相対的で最近の現象だが、現職大統領は自身のためや所属党の候補のために選挙運動を展開することができる。執権期間の政治功績を強調するキャンペーンにより自党の候補を支援するのは自然な現象だ。大統領は(選挙中立を守らなければならない)公務員である以前に政治家であり、在職時期に彼が推進した政策が続くことを期待するのは当然だ。したがって、後任者のための(大統領の)キャンペーンは民主主義社会で当然に保障されるべきだと見る。

整理イ・ヨンイン・ワシントン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/america/769790.html 韓国語原文入力:2016-11-10 19:54
訳J.S(3594字)

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