「映画をうまく作る方法を教えてください」(脱北学生)。「スタッフに恵まれると、うまく行きます」(グレッグ・クェダル監督)
11日、釜山(プサン)江西区新湖洞(シンホドン)にある慶尚道と全羅道唯一の脱北学生代案学校(日本のフリースクールに相当)である章台ヒョン(チャンデヒョン、ヒョンは山偏に見)学校を訪問した見知らぬ異邦人に、17人の生徒たちは「わー」と一斉に歓声を上げた。米国の映画監督、グレッグ・クェダル氏だった。
彼は今月6日に開幕した「第21回釜山国際映画祭」のミッドナイト・パッション部門(招待作品9本)に招待された「国境守備隊」の監督として釜山を訪れた。
米国大使館の紹介で章台ヒョン学校を訪問したクェダル監督は、「戦争と差別のない世界を作りたいという点で、私の映画のメッセージと学生たちの考えは同じだと思う」と話した。
操縦士になることを夢見ていたという彼は、10年前、大学在学当時にメキシコ国境を旅行してから、安定的な職が保障される会計学専攻をやめて、映画監督に転身した自分のストーリーを語った。旅行の間、ビデオを撮りながら映像の威力を実感し、心残りなく大学を辞めたという。
彼は内戦と虐殺が行われたアフリカのルワンダの平和のために、5つの部族を代表する青年5人が自転車に乗って全国を回ったのがきっかけとなり五輪に出場するまでの6年の過程をカメラに収めたドキュメンタリー「Rising From Ashes」を2012年に発表した。この作品は全世界16の映画祭に招待された。
また、彼の最初の長編映画である「国境守備隊」(Transpecos)は、メキシコ難民の米国流入を防ぐために障壁を(建てることを)進めている米国の政策について考え直そうという趣旨で作ったという。彼は同日、自分の代表作品を子どもたちに少しずつ見せながら、映画製作の背景を説明した。
授業は当初、昼12時30分から午後1時30分まで1時間の予定だったが、ビビンバを一緒に食べた後、午後3時まで続いた。生徒たちは様々な質問を投げかけた。映画の作り方や俳優をキャスティングする過程での困難についても訊いた。また、プロデューサー志望の男子生徒が進路について悩んでいると打ち明けると、クェダル監督は「最後まで最善を尽くして挑戦すれば、夢は叶う」と励ました。「大学に入ったら、友達と共に心に響く映像を作りたい」と言った女子生徒に、彼は「大学に進学したら必ず作ってほしい。私に連絡してくれれば、必ず力になる」と約束した。
生徒たちとの質疑応答の前に、クェダル監督は生徒たちに絵を描かせてから、一人ひとりの説明を聞いた。パク・チョルミン君(17)が「南と北の国民が一緒に船に乗り、広い海で航海する姿を描いた」と言うと、拍手が起こった。
米国の映画監督と脱北した生徒たちの授業はギター演奏で終わった。クェダル氏が数学教師の妻に愛を告白するために歌ったというポップソングをギターを弾きながら歌うと、パク君が歌手アン・ジェウクの「友達」の弾き語りで応えた。ほかの生徒たちも一緒に歌った。
授業が終わった後、クェダル監督に感想を聞いた。彼は「生徒たちは知識に対する好奇心が多く、絵などで自分の考えを表現することに感動した」と話した。チョ・グヮンウン君(18)は「映画監督に直接会って製作過程を聞けたのがとても不思議だった。マジシャンになるのが夢だが、私も監督さんのように自分の夢に向かって挑戦してみたい」と話した。チャン・ウンスクさん(19)は「あまり期待していなかったが、感銘を受けた。やっぱり、人は会ってみないとわからないということを改めて痛感した」と話した。
章台ヒョン学校は、韓国の学校で言葉の壁やいじめが原因で学業を中断し、道を見失っている脱北した10代たちを助けるために、志を共にする人たちが2014年3月に開校した。学校財団は2013年7月、統一部の認可を受けた。さらに、2014年11月には釜山市教育庁から中学校の学力が認められる代案委託教育機関に指定された。
章台ヒョン学校の建物はある篤志家が寄贈した。有給教師4人と元・現職の教師50人あまりの専門家がボランティアで才能を寄付し、生徒たちを教えている。4人の教師たちの給料などの人件費と運営費は市民の後援金と音楽会などで集めた基金で賄っている。現在17~23歳の17人が寮で生活しながら中・高校課程を学んでいるが、今年の大学入試の随時募集で2人が合格通知を受けた。
充実した教育プログラムと教育環境が噂になり、来年度の入学志願者がすでに80人を超えているが、寮と教室が不足しているため定員は22人となっている。章台ヒョン学校の校長を務めているイム・チャンホ高神大教授は「廃校を活用し、韓国の学校にうまく適応できない脱北学生たちをもっと助けたい。行政当局の協力が必要だ」と話した。