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[ルポ]対北朝鮮経済制裁後の丹東を行く(2)

登録:2016-03-26 23:23 修正:2016-03-27 08:59
1月6日北朝鮮の4回目の核実験以後、丹東駅で平壌行きの汽車に乗り込む人々 =カン・ジュウォン慶南大客員研究委員提供 //ハンギョレ新聞社

北朝鮮の海外駐在員、北朝鮮式市場化

 「朝露」を歌った彼は、北朝鮮国営企業の海外駐在員だ。 丹東には北朝鮮の駐在員が数百人常駐している。 大多数が金日成総合大学や国際関係大学(朝鮮労働党所属で外交官など対外部門の幹部を養成する学校)出身のエリートたちだ。 ここでは会社の「代表」と呼ばれている。 彼は丹東駐在員の人数は確認してくれなかった。 丹東駐在員が1000人まではいないと言い、中国東北3省に3000人内外ということだけを話してくれた。

 昨年、北朝鮮は駐在員に業務上の目的で南側の人と気軽に会ってもかまわないという指針を下した。 丹東に暮す韓国人の対北朝鮮事業家と以前から会う仲だったが、公式指針でもその道が開かれたわけだ。 8泊9日の丹東出張の中で会った韓国人対北朝鮮事業家のC氏(60代・記事に登場する人物は取材源保護のために年齢と名前を明らかにしない)は、多くの北朝鮮貿易の代表と面識があり付き合ってもいる。 18年間にわたり対北朝鮮事業をしてきたC氏はこのように説明した。 「北朝鮮の駐在員どうしは丹東で互いによく会うことはない。互いに牽制対象だから。 相互の監視システムもある。 むしろ韓国側の人間である私たちと気軽に接する。 朝鮮族、北朝鮮華僑は北朝鮮と結びついているが、私たちにした話はあちらには伝わらないから」

国連安保理による対北朝鮮制裁決議の後
北京以上に注目される丹東
嵐の前夜、経済的打撃が大きいという
マスコミ報道の向こう側には何があるのだろうか
その現場に8泊9日で飛び込んだ

 北朝鮮に金正恩(キムジョンウン)国防委員会第1委員長体制ができてから、北朝鮮式自由市場体制が活発化するという信号はここ丹東でも伺える。「北朝鮮の会社はほとんどが国営の性格を帯びている。 北朝鮮ではすべての単位、軍隊は軍隊、党なら党、すべての機関に付属会社がある。 それが会社だ。 人民武力部傘下、師団単位の会社。 機関別に会社を作ってアイテムを商う。 単位別に自力更正するわけだ。 中央からの支援も受けるだろうが、ある程度は充足しなければならない。 そして国にいくらかは捧げなければならない。 会社は多くはなかったが、この頃は会社の設立がとても自由になり簡単になった。 金正恩国防委員会第1委員長体制になってから。 事業アイテムは国で決めてくれる」(対北朝鮮事業家のC氏)

 北朝鮮は2009年11月に貨幣改革を断行し市場(総合市場)を閉鎖した。 しかし、物価暴騰などの弊害が相次いだため2010年5月には市場抑制政策を撤回し、2015年12月まで寛容を維持した。 米国ジョーンズホプキンス大学韓米研究所のカーティス・メルビン研究員によれば、衛星写真を分析した結果、北朝鮮には政府責任の下で住民が席料を納めて商う公式市場が2015年10月基準で406市場ある。 2010年の200余市場から5年間で倍増したのだ。(北韓大学院大学のヤン・ムンス教授、「2015年北朝鮮の市場化動向と今後の展望」)

 北朝鮮と鴨緑江を挟んで向き合っている丹東は、北朝鮮を見る窓であり「貿易」を媒介にして北朝鮮と中国、韓国と北朝鮮が交流する都市だ。 「1990年代に深刻な経済危機を体験した北朝鮮経済は、2000年代に入って制限的ながら回復傾向に転じた。 2013年現在、北朝鮮の企業構造は私たちが把握していた1990年代に比べ大きく変わったが、具体的分析はまだまともになされていない」(産業研究院のイ・ソクキ先任研究委員、「2000年代北朝鮮企業の実態および産業動向:北朝鮮公式メディア分析を中心に」)しかしますます変化する北朝鮮式市場経済、北朝鮮企業に関する情報は殆どない。

 1962年に北朝鮮と中国が非公開で締結した国境条約などによれば、北朝鮮と中国は鴨緑江を共同管理し使っている。 鴨緑江を共有する新義州と丹東は1980年代から交流を続けている。 加えて韓国人の対北朝鮮事業家が韓中修交がなされた1992年前後から丹東に入ってきた。 2010年、開城(ケソン)工業団地を除く南北交易を禁止した5・24措置以後にも第3国である中国を経由する迂迴的方法で北朝鮮産の製品が韓国に、韓国の物資が北朝鮮に入っている。

 国連安全保障理事会が3月3日(韓国時間)5回目の対北朝鮮制裁決議案2270号を採択した後、丹東は首都北京以上に注目される都市になった。 「嵐の前夜、経済的打撃を受けた境界隣接地、冷却ムード、みなぎる緊張感、しかめ面の貿易商、住民生計不安、急激に凍りついた朝中関係」。 韓国の茶の間に伝えられる報道はこうだった。 客のいない丹東の北朝鮮食堂、鴨緑江の遊覧船、人の姿が見えない税関、車が見られない鴨緑江鉄橋の写真と動画がその証拠であった。

 テレビや新聞の向こう側の現実はどうなっているだろうか。 国連が対北朝鮮制裁をすれば、貿易の橋頭堡である丹東は即座に凍りつくのだろうか、対北朝鮮制裁の経済的効果はあるのだろうか、北朝鮮の貿易駐在員はどの程度の経済活動をしているだろうか、国境を越えて丹東で20年余り交流してきた韓国人、朝鮮族、北朝鮮華僑、北朝鮮の人々の暮らしはどうなっているだろうか。 鴨緑江を渡ればすぐの北朝鮮社会は私たちが考えている通りの閉鎖的社会であろうか。 多くの質問を抱いて丹東に向けて発った。 すでに決まった答に現実を当てはめるのではなく、実際の丹東の中に入ることにした。 私の脇には10数年にわたり丹東を往来し韓国朝鮮語を用いる4種類の人々と、彼らの経済協力を研究してきた人類学者カン・ジュウォン博士(43)がいた。

今月9日に訪問した縫製工場の昼食。北朝鮮の労働者が昼食を終えて仕事をしている間に、私たちは中国の管理者たちと一緒に食事をした =カン・ジュウォン慶南大客員研究委員提供 //ハンギョレ新聞社

南北経済協力を禁止した2010年の5・24措置後にも
南北交易は中国を迂回して続いている
北朝鮮と中国の交易も日々増加
北朝鮮の対中貿易依存度も深化

 韓国政府が対北朝鮮独自制裁案を発表した今月8日午後4時30分、中国遼寧省の丹東駅に到着した。 同じ時刻に平壌から到着した国際列車が別のホームに停まっていた。 朝、平壌を出発して200キロメートル走れば日暮れ前に丹東に到着するこの列車の窓は白いカーテンが垂れていて、距離が遠いために内部はよく見えなかった。 この日、韓国政府は北朝鮮金融制裁対象の拡大、北朝鮮関連海運統制の強化、北朝鮮関連輸出入統制の強化、北朝鮮の食堂など営利施設の利用自制啓蒙を発表した。

 重々しい汽車の轟音、聞き取れない言語の中で、潮流のように降りていく中国人に混じって丹東駅の改札口へ向かう地下道を歩いて行った。 中朝博覧会を知らせる韓国朝鮮語の広告看板が見える。 この看板を読みながら脇をかすめて行く人々の国籍は各々違うだろう。 韓国、北朝鮮、中国籍の朝鮮族、中国籍だが社会的恩恵を担保する戸口(一種の住民証)を持たない北朝鮮華僑。

 丹東駅前で延辺出身の朝鮮族の対北朝鮮事業家であるK氏(50代)が私たちを待っていた。「いらっしゃい」。 8泊9日の日程の中で、何日かはK氏の対北朝鮮貿易事務室とK氏の友人の工場を見せてもらうことにした。 K氏はカン博士のキー・インフォーマント(情報提供者)だ。 K氏の車に乗って対北朝鮮貿易事務室に向かいながらカン博士が話した。 「丹東はタマネギのような都市ですね。 むいてもむいても別の面が見えます。 中に入らなければよく見えません」。 K氏の事務室には両国の時間が流れている。 北朝鮮と韓国のカレンダーだ。 中国と韓国の時差は1時間だ。 北朝鮮は中国・韓国とそれぞれ30分の時差がある。 K氏が椅子にどっかりと座った。

K:今日平壌から物資が全部入って来たよ。

カン・ジュウォン:韓国の新聞によれば何も入って来ないそうですが?

K:何が入ってこないって? 何でも入ってくるのに。敏感な時期だけど。 大韓民国で、国家情報院が丹東を調査して、(第3国を迂回した北朝鮮産製品の納品を受けた)韓国の元請けを叩こうとした。 国家情報院も、CIA(米中央情報局)も一度やるようだ。 国家情報院は平壌の業者を全部知っているじゃないか。原産地を見ようとして。

 カン博士は韓国から買ってきた、病気に効く料理の本をK氏に渡した。 難病に罹った北朝鮮の官僚がK氏を通じて買ってくれと言った本だ。 K氏の事務室の壁の一画には多くの本が並んでいる。 本箱が個人の思想を表わす空間だと言うが、彼の本は理念のあっちからこっちまで混じっていた。 『大統領の時間』(李明博(イミョンバク)前大統領著)、『朝鮮民主主義人民共和国法規集対外経済部門』、「金持ち中国、貧しい中国人』、『文在寅(ムン・ジェイン)の運命』、『安哲秀(アン・チョルス)の考え』…。

 「専門的に来て本を借りる(北朝鮮の)人がいる。 本の目録をずっと書いてくれる。ある人は韓国で出版された『ポスト金正日』をくれと言って一カ月読んでみて持ってきた友達もいる」。K氏が言った。 彼の本箱から本を借りる人は北朝鮮の駐在員たちだ。 「丹東に出て来た北朝鮮の人々を見れば、韓国製品が好きだ。 特にドラマは韓流の最初のとっかかりとして接しやすい。 なんと言っても言葉が通じるじゃない。 私たちの事務室に来る(北朝鮮の人)○○○は昨日放映された韓国ドラマを今日にはインターネットで観ているという」。((3)に続く)

丹東/パク・ユリ記者 (お問い合わせ (お問い合わせ japan@hani.co.kr ) )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/736944.html 韓国語原文入力:2016-03-25 21:31
訳J.S(4414字)

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