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[ルポ]感情的な拡声器放送再開で北朝鮮核問題が解決されるのか

登録:2016-01-08 23:22 修正:2016-01-09 06:53
南北緊張で軍事境界線周辺地域に不安広がる

韓国軍、11カ所で最高警戒態勢を発令
拡声器周辺に打撃兵器を結集
周辺住民「昨年も待避所生活
また、自宅を離れることになるか不安」

北朝鮮の4回目の核実験に対応するため政府が昨年の8.25合意後に中断した対北朝鮮拡声器放送を再開した8日、陸軍が京畿道漣川郡の中部戦線にある対北朝鮮拡声器偽装幕を取り払っている=漣川/写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

 8日正午、京畿道の中部戦線には緊張が漂っていた。 対北朝鮮拡声器放送が零下10度の凍てついた冷気を揺るがした。 韓国政府が北朝鮮の4回目の核実験に対応するとし、昨年の「8・25合意」以降中断していた対北朝鮮拡声器放送を136日ぶりに再開した。 拡声器が設置された11カ所の前方地域には、最高警戒態勢(A級)が発令され、北朝鮮側の攻撃に備えて対北朝鮮警戒・打撃兵器が補強された。 幅3メートル、高さ6メートルの金属の塊(対北朝鮮拡声器)は、南と北の両側に極度の緊張感を漂わせた。

 韓国軍関係者は「放送の再開自体が北朝鮮に心理的打撃を与える。 目的が達成されるまで放送を行う」と話した。 対北朝鮮放送には北側で“最高尊厳”と呼ばれる金正恩(キム・ジョンウン)労働党第1書記を狙う内容も含まれている。 この日は金第1書記の誕生日だ。 対北朝鮮放送は北朝鮮住民の人権に言及し、金書記の核実験が北朝鮮社会をさらに困難にさせるという内容が含まれたという。

 軍当局が製作した『自由の声放送』は、1日2~6時間にわたり拡声器別に不規則に送出される。「ニュース」、「発展する韓国の姿」、「北朝鮮の実状・体制批判」等が含まれる。 また、ラジオドラマや最新歌謡も含まれるが、今回の放送には歌手イ・エランさんの「百歳人生」、ガールグループのガールフレンド「今日から私たちは」、エーピンクの「私たちの愛、このまま」が含まれた。 スピーカーの音が届く距離は10~20キロメートルだ。 対北朝鮮拡声器が設置されたところから最も近い北朝鮮軍哨所(GP)はわずか2キロメートル先にある。 非武装地帯(DMZ)の北側区域を越えて、北朝鮮側の民間人居住地まで放送が届くという意味だ。 拡声器付近の放送室のドアには「真実を知らせよう」と書かれている。

 韓国軍は北朝鮮の軍事的対応に対しては「断固たる報復」を予告した。 キム・ミンソク国防部報道官は「北朝鮮が追加挑発すれば、韓国軍は断固として応懲し苛酷な代価を支払わせる」と明らかにした。

 しかし、朴槿恵(パク・クネ)政権と軍が「北朝鮮に心理的打撃を与える」として再開した対北朝鮮拡声器放送は、休戦ライン周辺の京畿道と江原道の境界地域の人々を不安にさせた。 民間人統制線(民統線)内側の村である京畿道坡州(パジュ)ヘマル村の住民イ・ジェソクさん(50)は「心理戦も戦争手段の一環であり、前回見たように相手の対応により実際に砲弾が飛び交う戦争状況まで行くかも知れないと見ている。 昨年も住民が待避所生活をしたが、普段暮らしていた家を離れて収容所生活をすることになるかも知れずとても不安だ」と話した。

 この日、第3トンネルと都羅山(トラサン)展望台など境界地域の安保観光は全面中断され、民統線出入り禁止令が下された。 民統線地域の農民チョン・ファンシク氏は「対話で解決方案を見つけるべきで『ケリをつけよう』という感情を刺激するだけの対応が北朝鮮核問題を解決するのに何の役に立つのか訊いてみたい。 出入り制限で農作物被害が心配だ」と話した。

 前方部隊将兵の外出・外泊も全面中断され、江原道の鉄原(チョルウォン)、華川(ファチョン)、楊口(ヤング)、麟蹄(インジェ)、高城(コソン)など境界地域の市街地は寒々しいほどに閑散としていた。 楊口で10年間食堂を営んできたイ・スンジェさん(57)は「軍の将兵相手に商売をしているが、週末を控えて外出・外泊が禁止されて商売にならない。争いになれば損だ。 一日も早く南北の緊張が解消されて欲しい」と話した。

 山川魚祝祭を控えた江原道華川(ファチョン)郡の住民たちは、今回の事態で境界地域の安全に不安を感じた観光客が旅行を取りやめるかと心配している。華川上西面のキル・ヨンス「DMZ四方通りドンドン祝祭」委員長(58)は「昨年8月のように祭りの途中で住民全員が待避しなければならない状況にならないか心配」と話した。

 その渦中で「北韓民主化推進協議会」や「脱北人団体連合会」などの団体は、「金正恩政権の資金源に他ならない開城(ケソン)工業団地と民間団体の対北朝鮮支援を直ちに中止させなければならない。対北朝鮮放送と対北朝鮮ビラ事業を新たに戦闘的次元で展開・拡大させる」という声明を発表した。 ソウル大統一平和研究院のチャン・ヨンソク先任研究員は「拡声器放送の再開が南北関係に火に油を注いだが、対北朝鮮ビラ散布でさらに加速化する」と話した。

国防部共同取材団、イ・スンジュン記者、坡州、華川/パク・ギョンマン、パク・スヒョク記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/725380.html 韓国語原文入力:2016-01-08 18:56
訳J.S(2255字)

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