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[ニュース分析]時代に逆行する韓国の民主主義

登録:2015-12-16 03:34 修正:2015-12-16 17:43

 今は退行の時期だ。基本権が押さえつけられ、制度は逆流する。政治的自由は萎縮し、夢を失った若者たちは剥奪感に身を震わせる。 「ヘル朝鮮」とまで言われる絶望の叫びの中で、憎しみと敵対は溢れ出し、いがみ合いを止めるべき政治は“仮死状態”に陥って久しい。民主主義の危機。この7文字以外に、今日の現実を表せる他の言葉がなかなか見つからない。朴槿恵(パク・クネ)政権発足から2年10カ月の“なりふり構わぬ日々”がもたらした悲惨な韓国社会の風景だ。

表現の自由などの危機追い込まれた基本権 
国連、韓国市民・政治的権利 
27分野のうち25分野で「懸念・改善勧告」

言論・インターネットにおける自由指数3年連続で下落//ハンギョレ新聞社

 先月5日、国連の市民的及び政治的権利に関する規約委員会(ICCPR)は、韓国の市民的・政治的権利全般を審議し、27の領域のうちの25領域で「懸念」と「(改善)勧告」の判定を下した。特に「集会の自由」と関連して委員会は、「実質的な許可制の運営、過度の武力と車壁の使用など、平和な集会の権利に対する深刻な制限」に懸念を示し、「すべての人が平和な集会の自由を享受できるよう保障すべきだ」と勧告した。

 しかし、勧告のインクがまだ乾き切っていない先月14日、ソウル都心で開かれた「第1次民衆総決起集会」には、これまで通り車壁が設置され、警察とデモ隊の衝突過程で放水銃に直撃された60代の農民が生死の境を彷徨っている。集会の背後に名指しされたハン・サンギュン民主労総委員長に、捜査機関は30年近く“法典上”でしか存在しなかった「騒擾罪」の適用を検討している。これ以上の退行はあり得ないほどだ。

■「アジア民主主義の模範」から人権後進国への転落の危機

アジア最悪の腐敗国家//ハンギョレ新聞社

 民主主義の成熟度を示す指標は、終りが見えない転落を続けている。国際的なメディア監視団体「国境なき記者団」(RSF)の言論の自由指数ランキングで、韓国は昨年より3階段落ちた60位にとどまった。4年連続で下落だ。国際人権監視団体の「フリーダムハウス」は、韓国を「言論自由国」から「部分メディア自由国」に格下げした。昨年この団体の政治的権利レベルの評価で、韓国は9年ぶりに2等級に下向修正された。

 「アジアの民主主義の模範」と呼ばれていた韓国民主主義に何が起きたのだろうか。様々な診断が出されている。少なからぬ人たちが、朴槿恵大統領の民主主義に対する認識の不足と帝王的な権威主義を原因として挙げる。退行を幇助し、さらには加速させた「野党と核心勢力の無能さ」に責任があるという人もいる。しかし、現在の総体的な退行をいずれかの要因だけで説明するのは、とんでもないことだ。

10人のうち7人は政府を不信(2014年基準)//ハンギョレ新聞社

 政治学者のチャン・ウンジュ・ヨンサン大学教授は、今日の韓国民主主義を「非自由民主主義」と規定する。手続き的な民主化は成し遂げたが、三権分立、公正なマスコミ、成熟した市民社会という民主主義の制度的基盤が脆弱であるため、執権勢力の性格によって、集会・結社の自由、表現の自由など、自由民主主義の基本的な要素さえ脅かされる状況が繰り返されるということだ。チャン教授は「韓国が日本の保守長期政権モデルに似てきていると懸念されているが、それは勘違いだ。むしろ民主的な手続きを通じて新しい権威主義体制を確立したロシアやハンガリー、トルコなどの国に近い」と指摘した。「周期的な選挙」と「政党間競争」という自由民主主義の骨格だけ整えただけで、市民が置かれた政治的状況は権威主義時代と変わらない、文字通り“選挙だけの民主主義”ということだ。

 今の政治危機を韓国社会が直面する全般的な経済・社会の危機の中でとらえるべきだという見方もある。イム・ウンテク啓明大学教授は「民主主義の危機は政治を矮小化する市場万能主義、極端な不平等と政治的二極化をもたらす新自由主義体制の秩序と切り離して説明するのが難しい」と指摘する。政治的議論と合意を「消耗的な費用」と見做して政党と議会の機能を無力化し、富の極端な偏重と二極化のために発生する社会的抵抗を治安・監視機構の強化で制圧しようとする権威主義的統治方式が、世界的に復活する現象に注目しなければならないということだ。このような点で、専門家たちは、朴槿恵政権に現れる政治的退行を「朴正煕(パク・チョンヒ)シーズン2」とか「維新体制への回帰」という風に非難するだけでは説得力に欠けると言う。むしろ新興民主主義国の「欠損民主主義」と新自由主義体制で現れる「再権威主義化」が混じり合って生まれた結果とみるべきだということだ。

司法に対する信頼度が最下位圏(2013年基準)//ハンギョレ新聞社

 専門家たちは、原因が複雑なだけに、処方や代案も多次元的でなければならないと口をそろえる。シン・ジンウク中央大学教授は「選挙で獲得した正当性で武装した新しい権威主義体制は、選挙を通じて壊すしかない。野党の実力を育て、体質を変えるために政治家や支持者が努力を劣らず、“政治参加”について有権者が持つ“心理社会的障壁”を崩すことが重要である」と指摘した。「与党も野党もどんぐりの背比べ」という冷笑、「投票しても何も変わらない」という落胆、「意思表現を間違えたら不利益につながる」という萎縮感を市民が振り払えるように、政界と市民社会が一層頑張らなければならないということだ。

イ・セヨン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 015-12-15 21:29

https://www.hani.co.kr/arti/society/rights/722048.html 訳H.J

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