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[ルポ]10代青少年のアルバイト地獄…仕事は大人扱い、給料は子供扱い

登録:2015-04-20 00:12 修正:2015-04-20 14:34
この子たちが将来労働者になります
アイドルスターのヘリが登場するバイトの権利獲得を促す広告 映像キャプチャー//ハンギョレ新聞社

 学校の日課が終わる頃、教室は活気にあふれる。 午後6時、わいわい騒ぐ友達の間でユン・セミさん(仮名・16)は焦りだす。 光州(クァンジュ)広域市で特性化高校に通うセミさんは、3月から家の近所のコンビニで平日夕方にアルバイトをしている。 学校から勤務先まではバスで1時間以上かかる。 終礼が終わるやいなやカバンを背負って道に飛び出すセミさんにとり、下校はそのまま出勤になる。

 アルバイトを始めてからセミさんは、過労にインフルエンザが重なって何度も気を失った。 食事を抜くことだって珍しくない。「夕飯は食べません。 本当にお腹が空けば“廃棄”(賞味期限が過ぎてしまったコンビニ食品)で間に合わせますね」。 隔日で退勤時間の夜11時を過ぎて明け方まで仕事をする。 夜勤手当どころか超過勤務手当てすら受け取ったことはない。 そんなに働いても彼女が受け取るお金は時間当り4000ウォン(約440円)だ。

「勤労契約書? 誰もそういう話はしてくれません」
労働権を教えている学校は16%に過ぎず
アルバイトしながら“悪い社長”に巡り会っても
権利を知らなかったり、知っていても我慢

労働人権教育経験実態 ////ハンギョレ新聞社

 アイドルスターの“ヘリ”が登場するアルバイト広告を見るまでもなく、セミさんは今年の最低賃金がいくら(時給5580ウォン)なのかを知っていた。 最低賃金よりはるかに低い時給のために損したお金が月に19万ウォンにもなるということも、すでに計算してみた。 最低賃金、夜間労働、勤労契約書。 そういうことに関してセミさんに教えてくれた大人はいない。 働く友達どうしで伝え聞いた情報だ。権利を守った大人も少ない。 「友達の中に最低賃金を受け取っている子たちはいませんよ。広告が出たからって(権利まで)守ってくれるわけではないんです」。 彼女は苦笑いして見せた。

 セミさんのように情報も持たずに底辺労働に飛び込む青少年が毎年増加している。 勤労契約も結べずに、5人未満の零細事業場に流入する青少年労働者の数は統計さえ出て来ない。 標本調査でその比率を推定するのみだ。 韓国青少年政策研究院が2014年に全国中3~高3生徒約4000人を対象に行ったアルバイト実態調査結果によれば「アルバイトをしたことがある」と答えた生徒は25.1%だ。 2013年(22.8%)より2.3%増加した。 生徒4人に1人の割合でアルバイトの経験がある。

 しかし、これらの生徒たちが労働権を守るのに役立つ教育は一向に増えていない。 アルバイト実態調査の中で「アルバイトをする青少年の権利について学校で説明を聞いたり教育を受けたことがある」と答えた青少年は16.5%にすぎない。 ソウル地域の人文系高校に通うカン・ジェヨンさん(仮名・17)も、小中高校に通って一度も“労働権”について習ったことはなかった。 チキン唐揚げ店で3カ月間サービングを経験したベテラン“アルバイト生”だが、勤労契約書の存在を聞いたことさえない。「一度も勤労契約書を書いたことがありません。誰もそのような話をしませんでした」。 情報がないので、権利を主張したこともない。 ジェヨンさんは週末に時々ホテルで仕事をする。 女子生徒が簡単に仕事を得られる所だ。 管理を受け持っている外注業者に望む地域と時間帯を言えば、条件に合う当日のアルバイトをして日当4~5万ウォンを得ることができるためだ。 お金が必要だったり、時々小遣いを稼いで使うためにホテルのアルバイトに出かけたが、ジェヨンさんは「何度か本当にしゃくにさわった」と話した。「はっきりと結婚式があると言うのでバスに乗って行ったのに、日程が取り消されたと言われ黙って帰らされました。私はその日一日をドブに捨てたわけです」。 日当どころか交通費さえも返してもらえなかった。

 ビラ配布のアルバイトで小遣いを稼いでいるキム・スジンさん(仮名・16)も、事業主の横暴に涙をのんだことがある。「真冬に一日外に立ってビラを配れば、芯から冷えます。 時給で払うというので行ったのに、仕事が終ると一枚いくらで歩合で払うと言われました。 およそ3万ウォンの筈が1万ウォンでした」。 そんな目に遭っても求職者側は哀しい。 ジェヨンさんとスジンさんは今も月に2回はアルバイトに行く。二人は口をそろえて同じ事を言った。「私たちには選択の余地がありませんから」

雇い主も学校も労働権を教えてくれず
友達通しで伝え聞き情報が大部分
不当だと思うなら「申告してしてみろ」
手当を要求すれば「子供のくせに金には目がない」
早くから権利の放棄に慣れてしまう

 贅沢を言える境遇にない“労働連鎖”の底辺にいる10代青少年に与えられる仕事は“地獄アルバイト”だ。 低賃金、夜間労働、高強度労働の三重苦。 勤労基準法は原則的に青少年の夜間労働を禁止しているが、アルバイトを経験した青少年10人中1人(12.3%)は夜間勤務を経験している。 仁川(インチョン)地域のガソリンスタンドで仕事をするチョン・ヒョンス君(仮名・17)は昨年、月尾島(ウォルミド)遊園地のある食堂で仕事をした。 勤労契約書も書いたし時給も最低賃金よりは高くて満足だった。 一つ問題があった。 夜10時の退勤を約束したのに、シーズンの遊園地では深夜12時頃まで働くのが常だった。 後日、ヒョンス君は自身が夜勤手当と超過勤務手当てを要求できることを知った。

 受け取るべき手当てを払って欲しいというヒョンス君に対して、店の社長は「労働庁に申告するならしてみろ」と怒鳴った。5カ月勤続したが、結局手当の話をしてから間もなく「仕事が下手だ」という理由で解雇された。 「その当時、私はひどく気後れしていました。申告しようかと思いましたが、社長に情を感じて和解して終えました」。事業主の不当行為に対して多くの青少年は無力だ。 セヌリ党のカン・ウンヒ議員が女性家族部に提出させた資料によれば、2014年に青少年アルバイトと関連して申告された不当行為は1万5755件で、前年度(7173件)より2倍以上多かった。 手当てなど各種の賃金未払いが6498件で最も大きな比重を占めている。 権利を主張する声は「子供のくせに金には目がない」という偏見にしばしば踏みにじられる。

 中学校の時に家庭不和が原因で家を出て、アルバイトを始めていつのまにか4年目の“労働者”になったイム・スルギさん(仮名・18)は、幼いからと無視された記憶がおびただしい。 大概の社長は「仕事をさせる時は大人扱いしておきながら、給料を払う時には子供扱い」を望んだ。 ある肉屋の主人は「今日から直ぐに働いてほしい」と言って「時給は君の仕事ぶりを見て一カ月後に4600ウォンをかもしれないし4900ウォンかもしれない」と言った。 食堂のマネージャーは「女はよく笑ってこそ良い結婚もできる」と言って、聞き分けの良い子でいることを要求された。不当なことは分かっていた。 「ようやく見つけた働き口なので、我慢するしかありませんでした。分からなくてやられたというよりは、分かっていながら我慢するしかない状況が多いんです」。 2年にかけて事務補助の仕事をしているスルギさんは、“あきらめ”に慣れたように見えた。 「日常的な言語暴力はどこへ行ってもあるじゃないですか。言語暴力のようなものに対応しようと思えば複雑になるけど、お金の方がまだしも話が簡単です」。 未来を問う質問に彼女は「どうせ私にはチャンスがありません」として簡単に言葉が途切れた。

 人権教育センター「ツゥル」のペ・ギョンネ常任活動家は、「政府の政策はもちろん、一般的な社会認識も青少年の労働人権を保障しようとする努力が足りない。これを経験した青少年は、成人労働者として労働市場に再進入しても権利を積極的に主張できなくなり、自身の労働者性を蔑視することになるだろう」と指摘した。 ペ氏は「青少年労働人権教育は単に労働と関連した法律的知識を習得することではなく、権利を主張し確保する能力と人権感受性を同時に育てることを目標にしなければならない」と付け加えた。

オム・ジウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/687502.html 韓国語原文入力:2015-04-19 21:32
訳J.S(3565字)

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