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[コラム] 映画『鬼郷』、慰安婦にされた少女たちの慟哭

登録:2015-02-05 02:05 修正:2015-02-05 09:05
映画『鬼郷』のポスター。 //ハンギョレ新聞社

 「この作品に出会ったのは運命だったようです。 おばあさんに対して常に申し訳ない思いがあったし、借りを背負っている気持ちだったので、今回それを返すことができてありがたく思います」

 映画『鬼郷(魂になって故郷へ帰ること)』製作発表会(1月6日ソウル汝矣島(ヨイド)国会議員会館大会議室)でソン・スク先生は、生涯舞台に絶ち続けた老練な演技者だが、演台で震えていた。16歳で日本軍慰安婦として連れて行かれたカン・イルチュルおばあさんの情恨を果たして表現できるだろうか?

映画『鬼郷』のポスター。 //ハンギョレ新聞社

 何も知らずに中国やミャンマーへと連れて行かれた少女チョン・ミン役のカン・ハナ、彼女の霊魂を自分の故郷に込む巫女ウニョン役のチェ・リ、みな10代だ。 キャスティングの提案を受けた時、私は恐くなった。しかしシナリオを読んで断れなくなった。 それは、ひょっとしたら自分たちの話なのかもしれない。カン・ハナの母親キム・ミンス氏(大阪の在日同胞劇団タルオルム代表)は、慰安所管理担当の日本人女性役を担った。日本軍兵士役や将校役を担ったユ・シン氏もチョン・ムンソン氏もみな在日同胞だ。大阪の真ん中で「ゴキブリ朝鮮人は出て行け、関東大震災の時のようにみな殺しにするぞ」といった嫌韓スローガンが公然と張り出される日本では“いいかげんな気持ちではできない”決定だった。

 『鬼郷』はこの3月に撮影に入る。 チョ・ジョンネ監督が作品を構想してから実に12年ぶりだ。シナリオを持って映画界の相当な人々に応援を求めた。 200部も配った。 関心も多く激励も多かったが、皆があきらめた。どんな劇場がそんな辛い話をスクリーンにかけるだろうか? そんな凄惨な歴史を誰がわざわざ見に来るだろうか? 日本とコンテンツを交流しなければならない大型投資会社は日本側のパートナーの視線を気にした。 そんな風にして11年の歳月が流れた。

 昨年から国民寄付方式に訴えた。在日韓国人同胞たちが寄付金5000万ウォン(約550万円)、100ウォンは約11円)を送ってくれ、在米の後援会長ユ・ヨング氏がアリゾナで集めた5000ドルも送ってくれた。 そんな風にして1億5000万ウォンが集まった。しかし、当初予想した製作費は25億ウォン。 ソン・スク先生など俳優とスタッフがノーギャラで参加することに力づけられて、とえいあえず開始することにした。 しかし経費と製作費はいくら減らしても最低で12億ウォン。

 昨年12月中旬、時事週刊誌ハンギョレ21がポータルのダウムを通じてニュースファンディングに乗り出した。 『鬼郷』製作費準備プロジェクト「姉さん、家に帰ろう」だった。 当初は1000万ウォンが目標だったが、1月30日に締め切った結果は2億5000万ウォンに達した。そこで3月に撮影に入り8月に封切ることにした。時には停滞することもあったが、わずか1カ月半でニュースファンディングに参加した約1万4000人の市民が底力であり可能性だった。

映画『鬼郷』の出演陣。左からチェ・リ、カン・ハナ、ソン・スク、ソ・ミジ。女優ソン・スクはこの映画で慰安婦カン・イルチュルおばあさん役をノーギャランティーで出演する。JOエンターテインメント提供。 //ハンギョレ新聞社

 後援者のためのコンサートがソウルの弘大前で開かれた次の日のことだった。安倍晋三首相は1月29日、米国の公立高等学校教科書に載った日本軍慰安婦関連内容を見て「本当に愕然とした」と話した。「(慰安婦強制徴用など)訂正すべき点を国際社会に向かって訂正してこなかった結果、このような教科書が使われている」。 マイク・ホンダ米下院議員は30日次のように話した。「ヒラリー・クリントン元国務長官は、慰安婦を性的奴隷と規定し糾弾してきた。ヒラリーが次期米国大統領に当選して、朴槿惠韓国大統領と共に女性大統領どうし安倍首相に慰安婦問題に対する謝罪を要求する場面は、想像するだけでも楽しい」。 ホンダ議員はこのように促しもした。 「韓国の教会は日本の教会に、韓国のマスコミは日本のマスコミを相手に真実を話し、米国在住の200万韓国人はホワイトハウスにメールを送って米国政府が積極的に取り組むようにしなければならない」。韓国政府は韓国国民が消極的でないのなら、太平洋の向こうからそのような忠告が飛び込んで来ることはないだろう。朴大統領は就任後、歴代のどの大統領よりも慰安婦問題に対して原則的な立場を堅持している。 三一節、光復節などの各種記念日のたびに糾弾を続けてきた。 それでも外から見れば、韓国政府と国民は何もしていない。 ただイベントを開いて糾弾しているだけだ。

 ユダヤ人虐殺を世界の人の胸に刻んだのは、犠牲者の数字と虐殺の残酷性のためだけではない。 世界の知性と良心と感性を決定的に揺さぶり泣かせたのは詩と小説と会話、特に映画であった。 ショア、ソフィーの選択、シンドラーのリスト、人生は美しい、ピアニスト…。 しかし日本軍の性的奴隷問題を扱った映画は一つもなかった。 性的奴隷として連れて行かれたおよそ20万人の13~18歳の少女。 いっそ虐殺された方がましだと思えるほど彼女たちは幾夜の昼も蹂りんされた。 演劇も日本の劇作家であり演出家である藤田朝也氏(1995年作『嘘つき女、英子』)が初めてだった。

 世の中で最もなつかしい名前、まだ幼かった姉さん。70年前に連れて行かれ、ほとんどが帰って来られなかった。今、その魂だけでも故郷に呼び入れよう。家に帰ろう、私の姉さん『鬼郷』。

 朴大統領は毎年映画を1、2篇ずつ必ず映画館で観覧する。『国際市場』『鳴梁』『ナッツ・ジョブ』…。しかしこれらは全て興行に成功した大作だ。 映画を政治的に消費しようとしているという指摘を受ける理由だ。姉さんの魂を呼び入れる招魂の喪主になって、そのような誤解を解くことはできるだろうか?

クァク・ビョンチャン先任論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/676947.html 韓国語原文入力:2015/02/04 21:57
訳J.S(2466字)

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