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「浴びせられる毒舌に遺族は日々匕首(あいくち)で刺されているのです」

登録:2015-01-03 23:21 修正:2015-01-04 15:01
セウォル号遺族の治癒空間<隣人>を
11日にオープンするチョン・ヘシン専門医
精神科専門医チョン・ヘシン氏が5日、京畿道安山檀園区のセウォル号惨事被害者と家族の社会的治癒を始める癒しの空間<隣人>で、今後すべき事とこれまで感じてきたところなどを話している。左側の絵はキム・ソンドゥ画伯の『星をお見せします』安山/キム・ギョンホ先任記者//ハンギョレ新聞社

「哀悼の過程を持とうとする遺族を
足蹴りにし続けました、国家が」

「セウォル号津波は、今も襲いかかっているのです」

 セウォル号惨事から146日目の9月8日、惨事後初めての秋夕(チュソク)を迎える、死亡した檀園(タンウォン)高生徒の家族たちは、京畿道安山花郎(キョンギド・アンサン・ファラン)遊園地に設けられた合同焼香所で「家族合同キリムサン(訳注:正式の法事ではなく亡くなった人を偲ぶ行事)」を準備した。セウォル号特別法制定が漂流し、遺族にとって「合同祭祀(訳注:祭祀は正式の法事)」はいつのことになるか分からない。全羅南道珍島(チンド)で、安山で、そしてソウルの大統領府前と光化門(クァンファムン)広場で、遺族たちと対面して治療してきた精神科専門医チョン・ヘシン氏(52)は「この方たちは哀悼の時間も持てなかったし、治癒の第一歩も始められないでいます」と語った。

 11日に安山でセウォル号惨事被害者たちの社会的治癒を始める癒しの空間<隣人>をオープンするチョン氏に、去る5日、<ハンギョレ>記者が会った。彼女は、子供たちが死亡したという事実をまだ本当に感じることもできないでいる遺族たちを街頭に追い出し、“哀悼の開始”すらもできなくする韓国社会の閉塞状況を、一言で「凄惨だ」と言った。

 「周囲で誰かが亡くなったとすれば、隣人としてしなければならない極く常識的な過程があるじゃないですか。共に生きる者としての最低限の日常的道理があるのに、我々は隣人も、社会も、国家も、最低限の道理を示さなかっただけでなく、哀悼の過程を持とうとする遺族たちを足蹴りにし続けたのです。妨害し積極的に足掛けして倒し、国家がそうやっているのです」

 チョン氏は「遺族たちの感情はまず、いま子どもの日常を思い浮かべれば、恐ろしさと恐怖がとても大きいです。子どもの死を実感できないまま、もう二度と会えないのだということが分かる時、その現実は恐怖です。もう一つは、悲しみより怒りをどうしたらいいか分からないのです。理由も分からぬまま、300人余りの子どもたちが、無念にも海の中に葬られてしまったのに、当然原因を明らかにしてくれなければいけない国家が、その義務に知らん振りをしています。それで、憤りをどうしていいか分からずに、ただ地団駄を踏むばかりなのです」と話した。

 拷問の被害者と国家暴力の被害者たちに会い、双龍(サンヨン)自動車の解雇労働者とその家族25人が自殺した時、京畿道平沢(ピョンテク)に<ワラク>を作って心理治療を行なったチョン氏は、セウォル号惨事を拷問や双龍車に比べて「まだ進行中の津波」と表現した。「双龍車の解雇労働者たちに会ったのは、2年が過ぎた状況でした。すでに津波が全てをさらって行って廃墟と化した土地で呆然としている人たちに会ったとすれば、セウォル号の津波は今も押し寄せているのです」

 彼女が接した遺族たちは「今病院で療養したり家にいるのではなく、血をどくどく流しながら全国を回っているのです。そうして、街頭で、警察に鎮圧されながら、絶望感と無力感を感じます。こういう国家だったんだ、私が生きてきた国がこういう国だったんだということに対する絶望感を、瞬間瞬間、経験しています」と説明した。

 真相究明が治癒の第一歩なのに
政府は最低限の道理すら果たそうとしない
遺族の日常復帰、すぐには難しいだろうが
疲れ切った時に休める充電所にはなるだろう

空に上げた“真実の船”。秋夕の8日午後、セウォル号特別法制定のためのソウル光化門断食座り込み現場で、セウォル号事故犠牲者遺族と座り込み参加者たちが願いを書いた“真実の船”を空に上げている。イ・チョンヨン先任記者 //ハンギョレ新聞社

 チョン氏はこのような状況を、傷ついた皮膚に喩えた。「皮膚で言えば、(遺族たちの傷は)皮が全部むけてしまった傷です。ほこりが触れるだけでも、風が触れるだけでも痛さに飛び上がります。そのような状況で政府や社会が、あらわになった傷口に粗塩のような毒舌をまくのです。気を取り直す間もないほど遺族は傷ついて、毎日毎日投げつけられる匕首に刺されているのですから、凄惨なことこの上ないでしょう…」

 「セウォル号のために商売にならず、景気が悪い」「遺族が譲歩しろ」といった主張についてチョン氏は「そのような要求は遺族に対してではなく、政府に対してすべきなのです。なぜ政府がこの重要な事を解決しないで、遺族には悲しみを与え、一般国民には景気を心配させるのかと、政府を問い詰めるべきです。遺族たちにそういうことを言うのは全くお門違いなのです」と言う。

 彼女は、遺族はもちろん、韓国社会の治癒と正常な哀悼の過程のためにも、「真相究明が先だ」と指摘した。

 「教科書的には、社会的な災害状況が起きた時、状況収拾と原因究明と治癒とを分けて行なうのだが、韓国社会では国家が原因究明を回避するので、これが混在している状況だ」というのが彼女の診断だ。韓国社会と政府が真相究明に対する最低限の義務にも背を向けているため、遺族たちの正常な哀悼はもちろん、治癒も不可能な状況だという説明だ。

 チョン氏は「今は遺族たちが、子供たちを失った悲しみを背負いながら、真相究明のために路上で夜も過ごし、ほとんど気力も体力も尽きた状態です。真相究明を通して、遺族たちが子どもたちとお別れをし、その悲しみと子供たちに対する思いを治癒できるように、国家が乗り出さなければなりません」と話した。

6日午後、セウォル号特別法制定を求めるソウル光化門のハンスト座り込み場の近くで<日刊ベスト貯蔵所(イルベ)>会員たちと自由青年連合所属の大学生たちが、暴食パフォーマンス(訳注:ネット右翼であるイルベ会員たちがオフラインで集まって、ハンスト中の遺族や市民のそばで暴食して見せるパフォーマンスをやり始めた。ピザの箱をたくさん持っているのが見える)に参加するために接近し、警察に制止されて教保(キョボ)文庫前の歩道に移動している。ニューシス

 国家は責任を負おうとせず、光化門(クァンファムン)広場ではセウォル号遺族たちの悲痛な叫びが嘲弄される中で、チョン氏は11日、安山市檀園区ソンブ路253のホンウォンビルの3階に治癒空間<隣人>をオープンする。セウォル号惨事以後ソウルから安山に居所を移した後、心理企画者のイ・ミョンス氏(56)とともに推進してきた<隣人>には、国内外の数多くの隣人たちの手が調和をなしていた。

 空間確保は<美しい財団>が力を貸し、安山地域の主婦たちは屋上菜園管理団を作り、韓国服専門家のイ・ヒョジェ氏が食器を、キム・ソンドゥ画伯が絵を担当し、チョン・ヒョナ氏など建築家が空間のデザインに無料で参加した。「何でも、できることがあればしなければならないと思います」という切実な思いの40代の主婦をはじめ、「やれることを教えてほしい」という在米同胞女性たちなど国外からも参加の手が引き続き寄せられた。

 慶尚南道昌原(キョンサンナムド・チャンウォン)の50代くらいの男性は「毎週金曜日に遺族たちのマッサージを助けたい」と言ってきたし、遺族たちの漢方治療のために漢方医100人余りが参加するなど、数百人のボランティアが隣人になる準備を終えた。<隣人>のイ・ミョンス代表は「治癒とは傷ついたのを元の状態に戻すことです。彼らの以前の日常の復元が治癒です。村の会館のように遺族とボランティアが一緒に食事もし慰め肩を組み合って、それで治癒された人が今度は治癒者として立つ、そういう場となるでしょう」と説明した。

 きびしい現実の中で<隣人>は、当面は街頭に出た遺族たちの前進基地になりそうだ。チョン氏は「セウォル号の真相究明のために努力する遺族たちが、疲れたら休んで、傷ついたら治療を受け、お腹がすいていたら食事もし、そうして再び本人たちが向かおうとしている真相究明のために、最小限の心理的日常的充電ができるようにしたい」と語った。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/654528.html 韓国語原文入力:2014/09/15 10:52
訳A.K(3646字)

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