映画『ワイルドシングス』（1998）は、連続する反転のなかで、過去の説明が次々と崩れて再構築される構造を持つ。こんにちの政治も似ている。特に、イスラエル・パレスチナの対立の公式の物語は、新たな暴露があるたびに覆されている。
2023年10月7日の直後に最初に提示された話は、ハマスがイスラエルを理由もなく攻撃し、数多くの民間人を殺害したというものだった。しかしほどなくして、イスラエルがエジプトと米国の情報機関、そして自身の監視網を通じてガザ地区を徹底的に監視しており、ハマスの攻撃を事前に察知していたことが明らかになった。また、イスラエルは攻撃の直前、当該地域を防衛していた部隊を西岸に移動させたが、これはイスラエルがさらに大きな戦争を正当化するために、ハマスの攻撃を意図的に放置していたことを示唆する。
さらに、イスラエルが数年間にわたり、カタールを通じてハマスを間接的に支援していた事実も明らかになった。これは、ガザとヨルダン川西岸地区のパレスチナ人を政治的に分断することによって、イスラエルが二国家解決案を受け入れざるを得なくなる圧力を弱めようとする戦略だった。イスラエルがガザを爆撃すると、多くの人が「イスラエルがハマス除去に失敗し、パレスチナの民間人だけが犠牲になる」と批判したが、実はハマスを破壊することではなく、ガザと西岸地区を民族浄化することが、イスラエルの本当の目標だった可能性が高い。
最近、欧州諸国がパレスチナを国家承認しようとする動きも、やはり両義的だ。一見すると、イスラエルの膨張を牽制する措置のようにみえるが、同時にイスラエルが実質的な制裁を回避できるよう助ける効果もある。このような象徴的なジェスチャーにとどまるのであれば、パレスチナの領土はやがて消滅しかねない。タキトゥスが2000年前に言ったように、「彼らは荒野をつくり、それを平和と呼ぶ」
ロシアは戦争の名目として反ナチ闘争を掲げているが、彼らの代理勢力だったワグネルがナチス的な含意を色濃く帯びていたように、イスラエルが米国とともに漸進的かつ持続的に実行してきた全面的なガザ地区での民族浄化も、公式の言説と実際の行為が正反対の姿をみせている。イスラエルは自分たちの行為をナチスの集団虐殺と混同してはならないと繰り返し主張するが、そうすればするほど、両者の隠された連続性はますます強調される。ユダヤ人は自らの歴史的遺産を捨て、ナチス・ドイツがユダヤ人に行ったような蛮行をパレスチナ人に犯すという精神的破局に直面している。
事実、シオニズムと反ユダヤ主義は最初から結びついていた。1917年に英国外相のアーサー・バルフォアがユダヤ人国家の建設を約束する「バルフォア宣言」を発表したが、彼はユダヤ人移民を提案する法案を主導した人物だった。つまり、西欧は欧州からユダヤ人を追い出そうとする反ユダヤ主義的な動機から、シオニズムの支援を始めたのだ。また、ユダヤ・ファシズムは、イスラエル国家の土台それ自体のもとで機能してきた。イスラエルの建国過程は、極右シオニズムの武装組織「イルグン」と密接な関係にあったが、これを政治的に継承した政党である「リクード」が権力を掌握したことで、ホロコースト以来で最大の惨事を引き起こしている。
悲しいことに、イスラエルの精神的破局は、外部から突然もたらされたものではなく、シオニズム自体に潜在していたものが顕在化したにすぎない。だからといって、ユダヤ人アイデンティティ自体が破壊的だと解釈してはならない。この問題は、特定の集団だけの話ではなく、われわれ皆が共有する近代的な条件のもとで存在するからだ。人種主義は初めから近代啓蒙主義のプロジェクトに潜在しており、ユダヤ人は数千年間にわたる反ユダヤ主義の犠牲者であり、イスラエルを取り囲むアラブ社会は時に自分たち内部の対立に向き合わないためにイスラエルに視線をそらしている、といったことだ。イスラエルを批判するためには、われわれ自身もこの物語の中から見つめなければならない。われわれをこの共謀関係から離れた罪のない観察者とみなしたその瞬間、人種主義が始まるだろう。
スラヴォイ・ジジェク｜リュブリャナ大学（スロベニア）、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
訳M.S
