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幹細胞ねつ造事件を暴いたMBCディレクターが語る映画『情報提供者』と韓国社会

登録:2014-11-03 21:29 修正:2014-11-04 06:59

「ファン・ウソク事態はマスコミ・政府・学界のカルテルの腐敗が弾けて起きた」
「公益情報提供者が被害に遭わないよう保護する法と制度を用意すべき」
31日に再び非製作部署に人事発令…「最近3~4年は本当にしんどい」

映画『情報提供者』の実在の主人公ハン・ハクス『MBC』ディレクターが、10月30日ハンギョレ新聞社でインタビューをしている。 キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

「マスコミと政府と学界がカルテルを結び、互いに目をつぶってきた慣行が腐りに腐って弾けたのが“ファン・ウソク事態”でした。 4月に起きたセウォル号の惨事もそのようなカルテルが続いていたために起きたのです」

 2005年、韓国社会を渦に巻き込んだファン・ウソク博士の幹細胞ねつ造事件を扱った映画『情報提供者』の実在の主人公であるハン・ハクス『MBC(文化放送)』ディレクターは、10年前のファン・ウソク事態と現在のセウォル号事故は同じだと話した。

 彼は「卑劣なジャーナリスト、策略に長けた科学者、仮面をかぶった政治家といった、見たくない韓国の恥部を残らずさらけ出したのがファン・ウソク事態だとすれば、企業の貪欲、政府の無能、公職者の腐敗、倫理の堕落といった韓国社会の現実を白日の下にさらしたのがセウォル号事故」だと強調した。

 先月2日に封切られた『情報提供者』が話題を集めているなかで、ハン・ハクス ディレクターに先月30日ハンギョレ新聞社で会った。

 彼は映画について「イム・スンレ監督は善悪を区別して見せようとするのではなく、ファン・ウソク事態を通じて韓国社会の問題を見せようとした点が良かった」として「来年に10年を迎えるファン・ウソク事態について、学術、言論、文化の分野から再び光を当てる動きが起きているが、その最初の試みがこの映画であるようだ」と評価した。

 現実と映画とで似ている点と異なる点は何だろうか? 彼は共通点については「映画で時事教養局のイ・ソンホチーム長(パク・ウォンサン)がユン・ミンチョル ディレクター(パク・ヘイル)に「ピッツバーグに行け。今から行って取材源を取材しろ」と言うが、実際もそうだった」と覚えていた。一方、差異点については「パク・ヘイルが社長の車を捕まえて、放送綱領をはっきりと叫ぶ場面が出てくるが、率直に言って私は放送綱領をそんなにはっきり覚えていない」として「真実の報道をしたいという意志を、映画ではそんな風に表現したようだ」と話した。

ハン・ハクス『MBC』ディレクター。キム・ミョンジン記者//ハンギョレ新聞社

 彼はこの映画が面白いだけに終わらずに、韓国社会に意味を残す結果になって欲しいと話した。 「コン・ジヨンさんの小説を映画化した『ルツボ』がヒットして、児童と障害者に対する性暴行犯罪の処罰を高めた“ルツボ法”が制定されました。同じように、この映画を契機に韓国社会の公益情報提供者が精神的・物質的被害を被らずに生きていけるよう保護する法と装置が用意されたらと思います」

 ファン・ウソク事態を貫くテーマであった真実と国益の論議に対して、ハン ディレクターは「実際、真実と国益は互いに相反するものではないと考える。‘真実か偽りか’または‘国益に役立つか、私益の追求か’のように、互いにカテゴリーが異なる」と強調した。続けて「それにもかかわらず、二つのうち一つを選択しろというなら、ジャーナリストは真実を選ばなければならないと考える。そのような選択が、その組織、その社会、ひいてはその国家に役立つためだ」と付け加えた。

 ハン ディレクターは、ファン・ウソク事態を取材している当時、最も辛い時が二回あったと話した。

「最初は『YTN』が真実検証よりはファン・ウソク博士を保護することに奔走し、『PD手帳が取材倫理に違反した』と請け負い報道をした時でした。すると直ちに『東亜日報』は“ファン教授を潰しにやって来た”、『朝鮮日報』は“PD手帳脅迫・陥穽取材”、『中央日報』は“MBCの主張には正しいことが一つもない”といったタイトルを1面トップに掲げて私たちを圧迫しました。だが、保守マスコミが誇らしげに前面に掲げた内容は数日も経たずに事実ではないことが明らかになりました」

 二番目は、情報提供者と関連したことだった。

「情報提供者である“ドクターK”リュ・ヨンジュン博士が原子力病院から解雇されました。強要された辞職でした。ファン・ウソク博士側が解雇される一か月前から『リュ・ヨンジュンが情報提供者』とマスコミに流している状況で、彼を匿名のまま保護することは容易ではありませんでした。それでも最後まで情報提供者を守れなかったという思いがあり苦しみました」

「ファン博士の論文捏造をPD手帳が放送しなかったとすれば、どうなったと思うか」という質問に対して、ハン ディレクターは「リュ博士は幹細胞の臨床実験を阻むために、また別の決断をしただろう」とし「韓国のマスコミで駄目なら、彼はアメリカの『ニューヨークタイムズ』に情報を提供しただろうし、もしそうしたならばファン・ウソク事態は更に大きな問題になり、国際的な恥さらしになっただろう」と話した。

映画『情報提供者』の一場面。 映画社スバク提供//ハンギョレ新聞社

 ハン ディレクターはキム・ジェチョル社長時期の“MBC事態”についても口を開いた。

「2011年5月、MBC京仁(キョンイン)支社水原(スウォン)総局の非製作部署に人事発令が出ました。テレビ番組を作りたくて強制転属取消仮処分訴訟を提起して勝訴しました。 しかし、2012年のストライキ後、会社は強制教育命令で約100人のディレクターと記者たちに“新川(シンチョン)教育隊”と呼ばれる文化放送アカデミーに教育発令を出しました(訳注:文化放送アカデミーはソウル地下鉄2号線新川駅から徒歩4分の所にある。1980年全斗煥政権時に「思想浄化」を目的に作られた三清(サムチョン)教育隊になぞらえて呼ばれた)。 そこでブランチ作り、東洋美術の理解、文学と人生のような大学1年の教養科目水準の講座を聞きました。自分が果たして権力を監視し批判するジャーナリストだろうかという自己恥辱感を抱きました」

 ハン ディレクターは最後に韓国言論の暗鬱な状況を憂慮した。 彼は「現在、韓国の言論の現実は容易な状態ではなく、表現の自由が極めて萎縮している」として「ファン・ウソク事態を取材した時、大きな役割を果したチェ・スンホ ディレクターが今どこにいるかと問いたい」と声を高めた。

 ハン ディレクターはインタビューを終えて「新しいドキュメンタリーを製作するために米国に出張する」と話した。 だが、彼はインタビューの翌日である31日、文化放送の人事発令で新事業開発センターに異動発令された。 ドキュメンタリー製作中に突然、非製作部署に異動発令が出たわけだ。 その日の夜、ハン ディレクターが電話をかけてきた。 彼は「撮影を終えて帰って来ると、新事業開発センターに発令が出ていた。 非製作部署であることは確実だが、何をする所なのかもよく分からない。 京仁支社と新川教育隊に続き、三度目の非製作部署だ。 最近3~4年は本当にしんどい」と話した。

文/チョン・ヒョクチュン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/662507.html 韓国語原文入力:2014/11/02 17:46
訳J.S(3215字)

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