毎年、就職準備生数十万人が列ぶ大企業のビルディングは毎日が不夜城だ。 テレビ広告には電気の消えない事務所で強壮剤を飲みながら懸命に働く会社員が‘元気に’描かれる。 ‘超長時間深夜残業’に苦しむ30代の大企業社員(入社8年目1人、4年目2人)のインタビュー内容を独白形式で再構成した。
チーム長「ウチの上層部のこと、知らないの?」こんな一言で
一つの企画案に最低4種類を作成
「俺は夜明けに家に帰るのが好きなんだ」
部長は社員の晩ご飯を奪う
大企業の経営企画室で仕事をして6年目のソ・ヨンピョ氏(34歳・仮名)は、会社が単にオーナーに忠誠をつくす“顔色伺い”の組織であることを入社3年目にして悟った。入社初期にA級人材と認められ、代理級以上だけが行くという核心部署に発令されたが、みなと一緒に定時に出勤しても、退勤時間は見当もつかない“殺人的労働”に苦しみ、自らB級社員になることを決意した。 個人の時間を盗む会社に幻滅を感じた彼は、離職計画まで立てた。
#プランD
チーム長:「ヨンピョ氏、今回の新製品販売戦略の件なんだがね、プランDまで作ってあるだろ?」
ヨンピョ:「チーム長、プランAが有力だと聞いているのに、この夜中にプランBでもなくプランDまでは…」
チーム長:「ウチの上層部のこと、知らないの? 万一に備えなきゃ、万一ね。部長の決裁中に先に退勤することもできないじゃない。 時間も残っているし」
深夜12時を過ぎて退勤を待っていたが、またして青天の霹靂だ。 自分の勤務時間を計算してみる。 朝の出勤時刻ははっきりしているが、退勤時刻はでこぼこで計算が容易でない。 一週間に一度は午前2時を越して、週末にも出勤する。 確実なのは、一週間に40時間の労働を規定した勤労基準法は、自分には無用の長物だという事実だ。 牛のように仕事をしても、それが自分と会社を育てると信頼できた時は耐えられた。 生産職ブルーカラー労働者の長時間労働が社会的問題だという記事を見ても、自分には関係ないと慰めた。 だが、自分の労働時間が会社の‘オーナー’や‘上層部’の機嫌取りに使われているという現実に目を開いてからは、自分のしていることは労働ではなくなった。
‘オーナー’にとり‘非正規職’に過ぎない役員は、一日24時間ずっと仕事をしているように見える。 役員の目に留まろうとする部長・課長・チーム長も同じだ。 労働時間の多くが‘文書移動’に消費される。 各チーム長が上げたプランAを、課長が集めて部長に報告すれば、部長は役員に伝え、役員がそれを承認して指示が下る時まで夜でも明け方でもそれぞれが待っていなければならない。 チーム長・課長・部長は部下の職員にプランB・C・Dを作れという無意味な指示で退屈な時間を埋める。 明け方まで‘こんなこと’をしていれば、悪口が喉まで上がってくる。 A級人材がいないと嘆く役員は、針の穴のような就業の門を突き抜けて入ってきた最高人材がD級企画案を作っている間にD級社員に転落するということを知らない。
はっきり言えば、皆が被害者だ。 役員はオーナーの顔色を、部長は役員の顔色を、チーム長は部長の顔色を、社員はチーム長の顔色を伺う、この巨大な‘顔色伺いピラミッド’では、オーナーの小さな手ぶり一つで無数の‘深夜残業被害者’が量産される。 私もやはり‘売場内に氷でできた構造物があれば良い’というチーム長の冗談一言のために深夜残業を買って出て、‘酷暑期売場管理対策’報告書を作成したことがある。 正式に報告すれば‘気でも違ったか’と言われることを知りながらも、「この前、おっしゃったこと”のために報告書を書く。 チーム長は私が優れた報告書を書いた時より自身のくだらない冗談一言を記憶していた時の方が気分が良さそうだ。
#没落
チーム長:「ヨンピョ氏、お疲れさん。“花金”だから一杯やろう」
ヨンピョ:「お言葉はありがたいのですが、月曜日の報告資料を作らなければなりませんので」
チーム長:「ゆっくりやればいいじゃないか。月曜日の資料なら週末に作ればいいだろう。 明日、昼飯食べてからゆっくり出てきてやれば。俺も出てくるから」
退勤はさておき、必ず法律で決めて欲しいことが一つある。 ‘やもめ暮らしの父親’には役職につかせないようにしなければならない。 子供たちをフィリピンに留学させたチーム長には家に帰る理由がない。 家には誰もいないからでもあるが、つまらない冗談で笑って、夕飯も一緒に食べて、週末に登山に行ってくれる社員が会社にいるためだ。 月曜日に役員報告が集中しているので金曜日は業務が多い。 それでもチーム長は‘花金’だと言って会食をゴリ押しする。 土曜日に個人的にする事がないという告白のようなものだ。
40~50代の幹部の中には、家族と一緒に暮らしていながら会社を自宅のように考えている人間がかなりいる。 「俺は熱心に仕事をして、夜明けに帰るのが一番良い」という部長の言葉は「家族は自分が早く帰ることを別に歓迎しない」という言葉に聞こえる。
幹部らは社員の週末まで‘差し押さえ’するが
残業手当ての申請は夢にも思わない
A級社員は効率的業務処理をやめて
B級社員になることを決意した
若い時期に幹部たちから時間を‘剥奪’されて家族から疎外された彼らは、報復でもするかのように社員の時間を奪う。 仕事をしているのか、チーム長の友達になるのか分からないほど、昼夜も週末も分かたずに会社にいると、家族との楽しい時間は一年に指折り数えるほどになる。 父親が自動車事故で入院している間にも私は仕事をしていた。 結婚式が目前だったが招待状は3枚しか回せなかった。‘悪い男’よりもっと悪いのが‘忙しい男’だと言うが、この頃は‘婚姻届はゆっくり出そう’という恋人が、将来は離婚の可能性も考えるのではないかと怖くなる。
友達との気楽な飲み会も名節のようにたまにある。 同じ大学を卒業して同じような規模の会社に就職した友達も事情はほとんど変わらない。 夜9時には終わるから‘チメク(チキンとビール)’でも食べようと約束すれば、夜10時を過ぎてからポツポツと集まってくる。 酒は好きだが、退勤が遅くなった女子チーム員は深夜に自宅で一人で酒を飲むという。 我々の誰が大企業への就職に成功した瞬間にこういう‘没落’を想像しただろうか。
#罠
課長:「ペク チーム長、この頃なんか暇そうだね?」
チーム長:「どういうことでしょうか…」
課長:「今日、部所長会議でウチの部が事務室の電気が最初に消えると言われた。どうしたんだ?」
法定労働時間を遵守した部所長は懲戒対象にでもなったかのようにチーム長をつつきまわす。人事部では出退勤時間入力システムを利用して社員の平均退勤時間と平均残業時間を分析する。 社員が競争企業を圧倒するような創意的企画案を作成する代わりに、夜の退勤時間ばかりに気を遣うにはこのような事情があるものの、チーム長も部長もオーナーも我が社の実績が常に目標に達しない本当の理由を分かっていないようだ。
夜9時を過ぎても社内メッセンジャーがログイン状態になっている数百人の職員がいるが、誰も残業手当てを申請しない。 ある部署の誰かが何も知らずに残業手当てを申請したが、「良い年俸を受け取っておきながら、その上に手当てまで申請するとは図々しい」とののしるチーム長のそばで自然に習得した‘知識’だ。 会社は一年分の給料を与えて一年分の労働を買う。 一日や一週間単位の法定労働時間は‘年俸’という話の前には無力だ。 入社初期、聞いただけでまるで金持ちになったように思えた‘年俸○千万ウォン’は結局のところ罠だった。
自分で言うのも何だが、私はA級人材だった。入社から僅か2年で核心部署への発令も出た。 出世の高速道路に乗ったと言って、同期たちからうらやましがられた。 だが、業務を早く処理して退勤する私に「仕事がないのか?」と尋ねるチーム長の苛立った顔を見るにつけ、ものすごい渋滞が始まった。 仕事を最大限長く、非効率的にするB級社員になることに決めたのは、ぎっしり詰まった高速道路で生き残るための苦肉の策だった。
回し車に乗ったような毎日を過ごしていると高3の受験生時期を思い出す。 軍隊生活も似たようなものだった。 だが、そっちは繰り返される生活が終わる‘Dデー’があった。 月給で暮らす私には、このような生活をケリをつけられるDデーはない。