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[旅客船沈没 大惨事-現場寄稿] 嘆きの海、絶望の大韓民国

登録:2014-04-24 11:57 修正:2014-04-25 17:50
パク・ミョンニム教授
パク・ミョンニム(延世(ヨンセ)大教授. 政治学)

セウォル号惨劇の現場を二日にわたり見てきたパク・ミョンニム教授が、痛切な心情を込めた文を送ってきた。

"オーイ、○○、○○…" 声を限りに娘の名を呼び、返事のない漆黒の海に向かって「私があの船の中に代わりに入る」と泣き叫ぶ母親が今私のそばにいる。 「あの照明灯の下の冷たい海の下に私の娘が横になっている」と嗚咽する母親が今私たちの横にいる。

 豊漁を祈って魚を満載した船の到着を待っていた港は、そんな風に死亡者名簿を凝視して子供の遺体を待つ嘆きの場所になっている。 父母たちの呆然とした瞳と、胸の奥から絞り出した短い悲鳴は何を言っているのか? うめき声さえ喉につかえるこの断末魔的悲劇はいったい何なのか?

 誰が、なぜ、どのように、このような嘆きの海を招いたのか、私たちはきっちり問わなければならない。大韓民国は珍島の絶叫を凄絶に直視しないならば、人が生きる社会、良い国に向かって一歩も進めないだろう。 これまで多くの悲劇にもかかわらず、セウォル号大惨事が再びさく烈したからだ。

花のように美しい若者が海に沈むのを
目を開いて見守る国
韓国号のみじめな素顔が見えた

 私たちは産業化と民主化を同時に成し遂げた唯一の先進国という自慢に加えて、電子・半導体・造船・鉄鋼・自動車を含む先端産業において世界トップクラスだと自慢してきた。 今度の事態を引き起こした造船産業と海運産業でも、前者は主要国際比較指標(受注量、輸出額、受注船舶当たり平均標準貨物船換算トン数)で長きにわたり世界首位であり、後者は世界5・6大強国を行き来してきた。 速度の象徴である統合電子政府指数と人口百万人当たりインターネット加入件数も世界1位であった。

 技術と産業、先端化と情報化のこのきらびやかな世界でトップクラスであるにもかかわらず、急迫した人間の危機状況が到来するや全てが無用の長物だった。 安全指針、初期連絡、危機対応、人命脱出案内、救助作業、政府の合同対処はリーダーシップと責任感、迅速性と先端性、統合指揮体系のどれも見せることはできなかった。 右往左往状態で船が‘沈んで’花のように美しい生命が‘死んでいく’実際の状況を目を開いて眺めてばかりいた。

 緊迫した状況、切実な家族の心情とは裏腹に、政府は支離滅裂になった。 生死を分ける決定的な状況初期に、政府には指揮中心も責任核心もいなかった。 戦時でもないのに互いに先送りしてあわてて目の前で若者たちが‘死んでいく’実況を見守るばかりだった国が今日の大韓民国だ。 失踪者の家族たちは船室の生徒たちのようにただ政府の話を信じて待った。 結果は死だった。 困難な‘水中引き揚げ作業’を通じて‘遺体’を救い出すことに最善を尽くしているのに、寸刻を争って‘生命’を救出しなければならない‘水上救助作業’が切実な時にはなぜ死力を尽くさなかっのたか、繰り返し嘆いて問うことになる。

 時々刻々と増えるペンモク港の死亡者現況盤は、時代の代表的な痛みを証明している。 最初は乗船時の搭乗者だった人が、生存者と救助者に分かれ、再び失踪者に、そして最期に死亡者へと慌ただしく急変する様は、政府の有能と無能が国民の生と死の別れ目であることを明確に示している。

23日午前、京畿道(キョンギド)安山(アンサン)のオリンピック記念館にセウォル号沈没事故檀園高犠牲者のための臨時合同焼香所が用意され、弔問客が‘大韓民国が憎い’と書かれた弔花の前を通っている。 安山/イ・ジョンア記者 leej@hani.co.kr

この醜い国の‘背徳’を決して許すな

 まだ身元が分からず、人相着衣だけが書かれていてもすぐに識別した母親は状況板の前にそのまま泣き崩れ、地面でこれ以上ないほど悲しげに号泣する。 課程の経済状況が難しく修学旅行の経費を出発直前に隣人から借りて納めたある父親は「私が娘を殺した」と言って泣き続けた。 体育館には疲れきって点滴を挿している家族も増えた。 ある父親は手術後のからだに鞭打って自分の子供を生かす一念で持ちこたえていた。

 ある父親は安山に待機している母親と祖母に「おい、○○が出てきた」「お母さん、○○が出てきました」と電話をかけた後、ついにこらえていた涙を放つ。 父親はそんな風に超人的意志で悲しみを飲み込んでいた。 このように大きな悲しみを、いったいどのようにこらえるのか…。 ある父親の短い返事が皆を代弁した。 「子供が生きているだろうという希望、それだけです。」 その一つの切実な希望まで全てを奪ってしまったのが私たちの誠意であり能力だった。

 初めて船内から遺体3体を引き揚げた時、体育館の全面電光掲示板をいっせいに凝視する多くの目の息を殺した緊張と焦燥は、今まで私が経験した最も息が詰まる瞬間だった。 国の無能とくやしさに胸が張り裂けそうで、大粒の涙を止められなかった。

 船内から3体の‘遺体’を初めて‘引き揚げ’た直後、‘生命’の‘救助’を切なく待っていた家族たちは、ついにこらえてきた鬱憤をさく烈させた。 「朴槿恵(パク・クネ)は覚醒しろ! 目を覚ませ!」 「俺の子供を返せ! 返せ!」 父母たちの行進の叫びは深夜の島の空気を切り裂いた。 結局、総理が現れた。 しかし最善を尽くすという言葉を繰り返しただけの総理は、対話を中断して車の中に入ってしまった。 暫くして警察庁次長が現れて、家族たちに不法だから道路占拠を解けと言った。 情けなかった。 家族たちは大統領府への行進を邪魔するなと要求すると同時に、総理に車から降りて対話しようと言った。

 総理はドアも開けず返事もしなかった。 家族は明け方まで待ったが、車のドアはついに開かれなかった。 警察庁次長は多数が徒歩で移動することは危険なので許可できないとし、代表を選んで出発するように言った。 「それならバスで行けば許可するのか?」 「代表だけで出発すれば大統領府へ行くことを保障するか?」 警察庁次長も答えられなかった。 そんな風にして夜が明け、総理の返事をあきらめた家族たちは数日間一睡もできなかった身を引きずりながら体育館に戻った。 疎通はなかった。 悲しみと怒りを乗り越える家族たちの自制と思慮に胸が一層痛んだ。

 家族たちに広まった不信感は、政府の極度の無能と混線と無疎通のためだった。 特に政府を固く信じて待っていたために子供たちを殺したという怒りと自責のためだった。 政府は速やかに措置しなければならない。

 第一に、今回の惨事は決して国家安保でも国家機密事項でもない。国民の生命の集団死だ。 したがっていかなる情報も隠してはならない。 事実の歪曲とデマを除き、どんな意見も情報も統制してはならない。 すべての情報を最も正確で最も速かに公開せよ。

 第二に、遺族代表が大統領または大統領府と直接疎通して対話できる直通チャンネルを開設せよ。 大統領と大統領府が直接統合指揮をしなければならない重大懸案であり危急状況であるためだ。

 第三に、速やかに合同焼香所を拡張設置せよ。珍島、安山、仁川(インチョン)、ソウルはもちろん、全国の主要都市に合同焼香所を設置し、高校生と国民の弔意の場所としなければならない。

 第四に、現地に派遣された警察を縮小し、私服警察は撤収させなければならない。 今、珍島には過度に多くの警察力が進駐している。 また、警察は家族の対話に介入したり情報を収集する行為をしてはならない。 警察は家族の安全と便宜を提供する最小限の役割にとどめなければならない。

 船長の驚くべき有り様は私たちには非常に,見慣れた姿だ。 彼は危機時における韓国社会最高責任者の行動をそのままに再演した。 モンゴルの高麗侵略、日本の朝鮮侵略、韓国戦争時の絶体絶命の国難において、国家指導者はいつも国民より先に逃げた。 さらには北朝鮮の侵略直後、大統領は今回の船長と同じようにウソの放送で国民をソウルに残るよう指示し、自分だけは先に秘密裏にソウルを抜け出した。 そのたびに危難と戦火に打ち捨てられた民衆の死と苦難は極に達した。

 天安(チョナン)艦の時も将校7人は全員生存した反面、死亡した46人は全て兵卒と副士官だった。 当時、国家最高位職-大統領、総理、国家情報院長、大統領府秘書室長・政策室長、監査院長、与党院内代表、財政経済部長官-は軍隊に行かなかった。 今回も船舶職15人は全員生存し、死亡者は下位職と一般乗客たちだった。 「自分に力がないばかりに子供を殺した」という父親の悔恨はこの社会の本質を衝いた。

 韓国社会は尻尾切りが法治と責任の普通名詞になった。 全国民的公憤を引き起こした事件も、処罰は常に実務級の持分であったし、責任者は権力の保護の下で健在だった。 自分の陣営と自分の理念の有利不利だけを問い詰めて処決する形態の繰り返しの中で、国家規律は根元から崩れた。 行政・情報機構・軍・警察・企業・金融を問わず、全く同じだった。 指導層は正しい愛国心と真の公的倫理どころか、法的責任すらほとんど負わなかった。 崩れた規律、重病に罹った国、その腐って崩れた表出が、今の珍島の嘆きだ。

 珍島は根本が崩れた国の残酷な表象だ。 公職社会の責任倫理は破綻し、大統領のどんな令も通じず、社会はすべて権力と金の力だけが乱舞してきた姿の圧縮版がセウォル号沈没と事後対処が暴露する韓国号の素顔だ。 これが果たして国なのか?

 近代政治学を切り拓いたマキャベリは言う。 "よく組織された共和国は、いつも市民に対する賞罰制度が明確で、功績を立てたからと言って決して罪を許さない。" 一般国民に対する厳格な法執行に比較すれば、韓国の指導層は国家寄与を名分に種々の罪を免除されてきた。 マキャベリによれば、それは "絶対にあってはならない"。 反共と国家安保に献身しても、人権と民主主義を蹂躪すれば厳罰に処さなければならない。 経済発展に寄与しても、違法であれば罰を受けなければならない。 しかし政権寄与と自分の陣営なら責任も処罰もなかった。 そのために国家は中から崩れていった。

"自分が子供を殺した" と言って
声を張り上げて泣く、この断末魔的悲劇は
いったい何なのか

社会の指導層が生命の危険を冒しても
国民を守ってきたならば
船長・船員が子供たちを
死地に追い込んで脱出するという
獣にも劣る行動はなかっただろう

誰が、なぜ、どのように
この嘆きの海を招来したのか
私たちはきっちりと問わなければならない
この死を本当に慰める道は
人が中心となる国を作ることだけだ

 指導層が生命の危険を冒しても国民を最後まで保護し、厳しい規律を見せていたなら、国の根本がこのように凄惨に崩壊することはなかったし、セウォル号の船長と船員が生徒たちを死地に追い込んで自分たちだけが脱出するという獣にも劣る行動をすることもなかった。 彼らの母胎はこの社会だったのだ。

 セウォル号沈没のもう一つの本質は、金・企業第一主義と新自由主義だ。 無理な出航、安全不感症、点検不良の一貫した現象は、企業の利益追求と規則・規制の作動不能だった。 李明博政府時に許容された船の使用年数延長の目的も企業利益の保障だった。 企業親和政策の結果が珍島の惨状だった。

 規制は規則だ。 規則は自由と平等、人間の安全と生命の保護のための最小限の装置なので決して緩和してはならない。 むしろ強化しなければならない。 しかし法曹・税務・教育・金融・海運・建設・文化・言論…韓国のすべての部門と領域に蔓延した落下傘と前職官僚待遇は、企業と前職官僚の結託と利益を保障する反面、規制を無用の長物に仕立てて公共性を徹底的に破壊する。 必ず禁止しなければならない。

 今回の場合、韓国海運組合の38年にわたる落下傘・前職官僚待遇は、政府-組合-企業の強固な結託を通じて国家の企業に対する合法的規制を不可能にし、ついには国民を死のの海に追いやった。 セウォル号の沈没は前職官僚待遇、官経癒着、規制緩和、規制作動不能の総体的帰結だった。 企業と銀行の放漫経営、秘密資金造成、道徳弛緩、規則違反が招いた大災難である為替危機による苦痛を経験しながらも、再び規制緩和か? 不動産投機、縁戚経営、タコ足拡張と自営業崩壊、カード大乱、貯蓄銀行事態も全部規制緩和のせいだった。

 新自由主義が量産した非正規職の拡散は、今や国民の安全を脅かす核心問題に浮上している。 保安・警備・建設・鉄道・海運・輸送のような安全関連職群の非正規職化と外注化は、私たちの日常の暮らしの安全を破壊する。 今回も船長は1年契約職であり、核心船員17人中の12人が非正規職だ。個別の人生の不安定性が、他者の生命と共同体の安全破壊に連結される恐ろしい現実だ。 ごく少数の上流層を除いては、すべての人生が不安定な状況で、ひたすら各自が生き残りのために足掻かなければならない自営状態・自然状態が到来したのだ。

 自然状態と世界最高水準の不平等が結びついた韓国的人生で、反生命化と反人間化は今や機軸の現実だ。 自殺率、少子化率、労災死亡率、交通事故死亡率、直系尊属殺人率…つまり主要な人間指標と生命指標は全世界最悪水準だ。 韓国社会はすでに人間の安全を意味する文明状態・国家状態(=政治状態)の反意語である野蛮状態・自然状態(=戦争状態)に突入している。 文明化はすべての人が国家の中で安全と自由と平等を享受する市民資格の付与、すなわち市民化(civilis)を意味する。 すべての人の平等な人間化を謂う。

 しかし韓国の文明化は、産業化・物質化・情報化の急進展と反生命化・不平等化・反人間化の深刻化という両極端を駆け上がった。 イラク戦争が勃発した2003年以後、現在に至るまで韓国社会の自殺数は同じ期間のイラク戦争死亡者数より多い。 韓国は平時に自己殺人が世界の主要戦争国家の死亡よりも多い戦争状態の人生である。 信じ難い衝撃的現実だ。 他人殺人、軍内死亡、労働災害、交通事故を合わせれば、韓国の人間指標は世界最高の野蛮性そのものだ。 私たちは韓国を見て、国家発展経路には後進・中進・先進国だけでなく、善進の反対になる悪進国もあることを知ることになる。

 今回の惨事を契機に、私たちは善進に大方向転換をしなければならない。 精神と魂の本来の意味は、からだに生命の気勢を吹き込む息・風・呼吸だ。 今こそ私たちはこの社会の息・風・呼吸の方向を完全に変えなければならない。 革命だ。 金と物質、権力と虚勢から人間と生命、自由と平等に向かう新しい気風を振興しないならば、ペンモク港の嘆きは遠からず大韓民国全体を襲うだろう。 いやペンモクはすでに韓国の圧縮版であり、セウォル号は大韓民国号の別名だ。

 絶対的悲劇には絶対的反省が必要だ。 絶望的状況には全面的改革のみが生きる道だ。 この死を本当に慰めて正しく賛える道は、韓国社会を人間中心の国、生命優先社会に換骨奪胎させることだけだ。

 青年はこの醜い世代、不幸な祖国の現実を必ず革新せよ。 この世代を見習わずに、国を抜本的にやり直せ。 この背徳の世代、野蛮の国家を何としても是正せよ。

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/634313.html 韓国語原文入力:2014/04/24 09:09
訳J.S(6383字)

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