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[ニュース分析 なぜ?]あなたの親切なサムスンのサービスマンは泣いています

登録:2013-07-18 00:28 修正:2013-07-18 00:40
サムスン電子サービスセンター労組結成
国会議員、労働界などが参加した<サムスン電子サービスの不法雇用根絶および勤労基準法遵守のための共同対策委員会>が11日午前、ソウル市瑞草区(ソチョグ)のソウル中央地裁前でサムスン電子サービス労働者地位確認訴訟に関する記者会見を行なっている。 右から二番目がウィ・ヨンイル全国金属労組サムスン電子サービスセンター支会準備委員長だ。 カン・ジェフン先任記者 khan@hani.co.kr

▲去年の春、携帯電話の液晶がこわれてサムスン電子サービスセンターを訪ねました。迅速な業務処理と親切な応対にイライラは忘れ感動が残りました。 私と同様、誰もが親切なサムスンのアフターサービスの記憶を一つくらいは持っています。 8日に発表された「2013年韓国産業サービス品質指数(KSQI)」の顧客接点部門で最高点を取りもしたんですから。ところが、当のサービスマンたちは低賃金、長時間労働などで人知れず苦しんでいました。

 青いサムスン ロゴの入った作業服を着ることで一日が始まる。 出勤直後、サムスンが配分しておいたその日の業務を受取って仕事場に出かけ、顧客が支払ったサービス料金はそっくりサムスンに送る。 サムスンの言う「もう一つの家族」が現実世界に存在するならば、それはサムスンの家族であり同時にサムスンの家族でない、ウィ・ヨンイル(43)全国金属労組サムスン電子サービスセンター支会準備委員長と彼の同僚たちを称する表現かも知れない。

 しとしとと雨の降る11日午前、ウィ・ヨンイル委員長はサムスン電子サービスの協力業者(23ヶ所)の職員486人を代表してソウル市瑞草区(ソチョグ)のソウル中央地裁正門前に立った。 自身を「もう一つの家族」でない真のサムスン電子サービスの家族として受け入れてほしいという叫び、すなわち「労働者地位確認訴訟」のためだった。

閑散期には借金で生活し 繁忙期に稼いで返す

 ウィ・ヨンイル委員長と“サムスン”との縁は多少複雑だ。 その始まりは1992年に遡る。 当時彼が訪ねて行った業者がサムスン電子の協力業者だった。「実業系高校で電気通信を学びました。 電子製品の修理やカエルの解剖のように、手を使ってすることが好きだったんです。 勉強ができなくて医者にはなれなかったけれど、そういうことばかり習ったので機械を扱うことには自信がありました。」

 コンピュータ維持・保守業者を立ち上げたが1年で廃業し“サムスン”を再び訪ねたのは2003年だった。 1997年のIMFの影響が大きかった。 廃業して訪ねて行った“サムスン”はその間にサムスン電子ではなくサムスン電子サービスの協力業者に変わっていた。 サムスン電子は1998年10月27日、顧客サービス専門担当部署であったサービス事業部を切り離して資本金300億ウォン規模の別途法人サムスン電子サービスを立ち上げた。 携帯電話とコンピュータ、TVなどサムスン電子が作った各種製品の修理および維持・保守を受け持つサムスン電子サービスは、全国98ヶ所(支店基準)のサービスセンターを直接運営しているが、それぞれのサービスセンターは請負契約を結んだ105ヶ所の協力業者(2011年基準)を通じてサムスン製品の修理サービスなどを提供している。 簡単に言えば、私たちが直接会うサムスン電子のアフターサービス技師のほとんどはサムスンではなく協力業者の職員なわけだ。 ウィ・ヨンイル委員長も正確に言えば「東莱(トンネ)プレミアムサービス」という業者の所属だった。 彼と同様な境遇に置かれた人々の規模は1万人余り(サムスン側主張6000人余り)に達すると推定される。

 「本社と協力業者の職員間に賃金と処遇などで大きな差が存在するということは知っていたけれども、これ程だとは知りませんでした」

ウィ・ヨンイル委員長を最も疲れさせた事の一つは、食べるために始めたことが実際にはお金にならないという現実だった。

 彼は毎朝7時半までにサムスン電子サービスセンターに出勤した。 一日の業務は9時開始だった。 随時出て来る新製品に関する教育は9時以前に受けなければならなかった。 時々は教育がない時もあったが、それでも出勤時間はそれほど遅らせられなかった。 8時10分に朝会があった。 出勤以後、午前9時前までの1時間半程の“勤務時間”に対する賃金は支払われなかった。

協力業者と勤労契約を結んだが
サムスン ロゴの入った作業服を着て
サムスン電子の製品を修理
時給ではなく件数で月給を受け取り
延長・夜間・休日勤務
勤労基準法は守られていない

元請けのサムスン電子が
業務を指示して評価をし
月給まで実質的に支給した
組合設立に立ち上がった労働者たちは
元請けの労働者に他ならないと
労働者地位確認訴訟を起こした

 サービスマンのすべての業務は、サムスン電子サービスが支給した個人用携帯端末(PDA)や携帯電話のアプリケーション“Anyzone”を通じて入ってきた。 移動時間まで含めればサービス要請1件を処理するのに最低1時間は必要だが、繁忙期である夏には30分以内に1件を処理しなければならない時もあった。 湿気のためか夏にはエアコン、冷蔵庫など電子製品の故障も多く、大部分が“緊急”を要する製品修理要請が殺到することがよくあった。 作業を命令する携帯端末は昼食、夕食時間にも構わず鳴った。食事はのりまきやハンバーガーを買って車の中で済ませるか、抜くことも茶飯事だった。 呼び出しが絶えない時は夜の12時までも仕事しなければならなかった。 休日も一定していなかった。 土曜日は基本的に出勤せねばならなかったし、日曜日にも仕事があれば出かけた。

 「繁忙期の6~8月には口がひん曲がってしまうほど働きます。 ひどい時には4ヶ月間一日も休めなかったこともあります。 そのようにして受取るお金が閑散期には150万~200万ウォン、 繁忙期 には300万~500万ウォンです。 そこから車の修理費・ガソリン代、食費に毎月50万ウォンを使うことになります。 生活できないから閑散期には金を借りて生活し、 繁忙期に稼いで返します。 当然貯蓄など夢のまた夢です。」 10年働いた彼は、保証金100万ウォンに家賃22万ウォンの一間に一人で暮らしている。

 ウィ・ヨンイル委員長が2012年東莱プレミアムサービスとの間に作成した勤労契約書上の勤労時間は、月~金曜の午前9時から午後6時、土曜日の午前9時から午後1時だった。勤労基準法は原則的に1日8時間、週40時間労働を超過することはできず、超過しても限度は週12時間に制限している。 しかし実際の彼の労働時間は勤労契約書と違うことが多かった。 厳然たる勤労基準法違反と言える。 また、勤労基準法は労働時間が8時間の場合1時間以上の休み時間を与えるよう定めているが、実際はそうでなかった。 当然昼休みは保障されなかった。 ウン・スミ民主党国会議員と<民主社会のための弁護士会>(民弁)労働委員長クォン・ヨングク弁護士らは、サムスン電子サービスを勤労基準法違反で雇用労働部に告発した。 雇用労働部は問題が提起された後、先月24日から一か月間随時勤労監督を行なっているが、特別勤労監督よりは強度が低くて消極的な措置だという批判が出ている。

全国から訴えと応援の文が集まる“バンド”

 サムスン電子サービス協力業者の労働者が口をそろえて提起する不満は、不透明な賃金算定方式だ。 ウィ・ヨンイル委員長のこの一年間の給与明細書を見れば、基本給が97万6320ウォン、94万3776ウォン、91万3332ウォンなどと一定していない。 車両維持費と食事代補助金は出る時もあり出ない時もあった。 給与明細書を分析したキム・テオ労務士が言った。 「賃金算定が働いた時間ではなく処理した件数を基準としてなされています。 勤労基準法は、賃金は時間を基準として決めなければならないと規定していますが、これに違反しているわけです。 代わりにサムスン電子サービスと協力業者の請負契約書にある製品別手数料が基準になっています。 月給を時給で計算すれば最低賃金にならないケースもあります。」月給が“件当たり”で計算されるので、勤労基準法が定めた延長勤労・夜間勤労・休日勤務手当てもなかった。

 ウィ・ヨンイル委員長が「もう一つの家族」として甘受せざるを得なかった苦痛は彼だけのものではなかった。 ソウルのあるサムスン電子サービスセンターで働くパク・ヨンス(仮名)氏は言った。「仕事を終えて帰宅すれば子供たちはいつも眠っています。 繁忙期の真夏を無我夢中で過ごして、見たら子供たちの背がぐっと伸びていました。 子供たちが言うんです。『お父さんは嘘つき』って。早く帰るという約束も、遊びに行くという約束も、いつも守れないからです。」

                   

ネイバーが提供する閉鎖型SNS “バンド”(BAND)の「全国サムスンサービス労働者の会」に上がってきた妻たちの文でも、お金と労働時間に対する訴えが多かった。「夫は子供が生まれてこのかた、子供が目覚めているのを見たことがありません。 子供が寝ている時に出勤して、寝付いてから退勤するからです。子供はアッパ(訳注:父親を呼ぶ幼児語)と呼ぶことを知りません。 正規職など望みもしません。 子供がアッパと一緒に過ごせる日がほしいです。」 「結婚してから、夫が会社に関して嘘をついているのだと思っていました。 毎日7時に出勤して10時過ぎに帰ってくるのに月給は減っていくばかり。 ひょっとしてへそくりでも貯めているのかと。 新婚の頃は本当によく喧嘩しました。 今度の労組結成のことでは本当に強く応援しています。」 パク・ヨンス氏の妻も文を載せた。「夫がこんなに苦労して働いているという事を10年間一緒に暮らしていながら知りませんでした。 大人げなく、なぜ遅くなるのかと電話して癇癪を起こしたり、月給はどうしてこんなに少ないのかとなじったり・・・」

「私がどこの会社の職員のように見えますか?」

 7月初めに会ったパク氏はサムスン ロゴの入った作業服を着て、サムスン電子サービスの身分証を首にかけて尋ねた。 故障した電子製品の修理で家々を訪問すれば、人々は彼をサムスンの職員だと思う。 しかし彼は正規職ではない“庶子”、請負契約を結んだ下請け業者の職員だった。 ウィ・ヨンイル委員長と共に“解雇”されたイ・ヨンジン(仮名・41)氏は一緒に仕事をする正規職サービスマンを見れば“侮蔑感”を感じた。 「同じ仕事をしているのに月給が2倍も多いんです。 昼休みにはコールを受けなくてもいいし、 決まった時間に退勤もできます。 私の方が仕事を多くしているのに月給は少ないんです。」

 パク・ヨンス氏が家族のために、イ・ヨンジン氏が“遵法勤労”のために作った労組の種子は、昨年釜山市東莱(トンネ)センターで芽生えた。 きっかけはある後輩の涙だった。 「2年前に野遊会に行ったんですが、後輩がおいおい泣くんです。 100万ウォンの稼ぎでは家族4人は暮らせないと。 後輩たちが先輩を随分批判しました。 命じられるままに働いて、不当なことには目をつぶり、自分たちもそういうふうに生きるのではないかと。 恥ずかしかったです。 私の年齢で今後必死になって働いても金持ちになることはあり得ないから、どうしていくべきか真剣に考えるようになりました。」 ウィ・ヨンイル委員長は語った。 その時から法を調べ始めた。 その後、労使協議会を通じて知った法と雇用労働部から受取った返事を根拠に「最低賃金をよこせ、延長勤務・時間外労働手当てを払え、週休2日制にせよ」と要求し始めた。 数ヶ月突っ張っていた協力業者の社長も、“法”を押し立てて要求するので、受け入れざるを得なかった。

勝訴すればサムスン電子サービスの直接雇用正規職

 「5月初めに全国教育に行ってきた職員が釜山であったことを話しました。 私たちが受取れなかったお金があるんですが、そこでは訴訟でなく社長に要請して受取ったと。本当に驚きました。 私たちも受取りたかったし。 それで連絡してみました。」 釜山のニュースに驚いたのはパク・ヨンス氏だけではなかった。 互いに顔も知らなかった全国105ヶ所の協力センターの人々が噂を聞いて“バンド”に集まり始めた。

 しかし5月24日にウィ・ヨンイル委員長とイ・ヨンジン氏の所属する協力業者が“赤字“だと言って廃業した。 他の職員は新しくできた協力業者に吸収されたが、二人は除外された。事実上の解雇だった。 勤労基準法のとおりに要求した事案を協力業者の社長は受け入れる能力がなかった。 金がなかったためだ。 サムスン電子サービスと協力業者間の関係が根本的に解決されない限り、変わり得ない構造だったわけだ。

 「協力業者は経営の独立性がありません。 社長はほとんどサムスン電子サービスの役職員出身で、ただサムスン電子サービスの事業を代行しているだけです。 元請けであるサムスン電子サービスが協力業者のサービスマンに業務指示もするし評価もします。 実質的に賃金を支給する所も元請けだし。 製品を修理して受取った手数料は全て元請けに入金されて、協力業者は元請けが定めた手数料リストにより月給を払います。」民弁のリュ・ハギョン弁護士が指摘した。

 2008年7月10日の最高裁判例を見れば、暗黙的勤労契約関係の基準は△事業主として独自性のない雇い主(請負業者) △労働者と元請けの従属的関係△元請けの実質的な賃金支給△勤労提供の当事者が元請けであるかどうかだ。 弁護団はサムスン電子サービスと協力業者職員との関係がこのケースに全て該当すると見ている。 それでサムスン電子サービス協力業者の職員たちは勤労者地位確認請求訴訟を提起した。 両者間の暗黙的勤労契約関係または不法派遣が認定されれば、訴訟を提起した彼らは即時にサムスン電子サービスに直接雇用された正規職になる。

 これに対してサムスン電子の関係者は「独立した法人である協力業者は社長が独自に経営しているので、人事・経営権への介入と不法派遣の主張は事実ではない」と話した。

 サムスン電子サービス労組推進の事実が言論などに報道されるや「労組に加入するな」とか「加入すれば廃業する」といった協力業者社長の脅迫があったことが、録音記録により明らかになった。 「社長が『サムスンは無労組経営だから我々も無労組でついて行かなければならない』と言いました。 新聞社、放送会社、市民団体に知人が多いから、加入すればすぐに分かって解雇するとも言いました」パク・ヨンス氏が話した。 6月18日にサムスン電子サービス本社協力業者の社長会議が開かれ、その席で本社職員が“バンド”に加入した協力業者職員の名簿を見せながら脱退させよとの趣旨で話した事実も報道された。 国会議員と民弁労働委は雇用労働部と水原地裁に不当労働行為で告発した。

 ウィ・ヨンイル委員長が携帯電話に設置された『英韓労働法典』のアプリケーションを見せた。 勤労基準法、労働組合および労働関係調整法、派遣勤労者保護などに関する法律などをいつでも見れるように設置したアプリだ。 ウィ・ヨンイル委員長が話した。「法の通りやろうと思って毎日これを見ます。 私たちは大韓民国国民であってサムスン共和国国民ではありません。 ですから、サムスンの法でない大韓民国の法の保護を受ける権利があるんです。 チョン・テイル烈士の言葉のように、勤労基準法を守ってほしいというのが私たちの要求です。 サムスンのことを“無労組神話”といいますが、私たちはちょっと違います。 ここで100万ウォン稼いでもガソリンスタンドのアルバイトでそれだけ稼いでも全く同じでしょう。 生きるためにやるんです。」 労組の公式スタートを知らせる創立総会は14日午後2時、ソウル大方洞(テバンドン)の女性プラザ国際会議場で開かれる。

キム・ミンギョン記者 salmat@hani.co.kr

https://www.hani.co.kr/arti/society/labor/595524.html 韓国語原文入力:2013/07/12 21:00
訳A.K(6785字)

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