「それでも工場は順調に稼働しているのですか」
昨年1月、現代自動車の蔚山(ウルサン)工場で定年を迎えた後、嘱託契約社員として再雇用された労働者に投げかけた質問だ。毎年約2000人が定年退職するが、会社は同じ規模の新規採用を行わない。今後も工場の稼働に問題がないのか気になった。彼は「自動化設備が増えたので問題ない」と答えた。直ちにリストラが行われることはないが、雇用の自然減は「静かに」進められていた。
先月22日、現代自動車労組がニュースレターを通じ「労使合意なしにはヒューマノイドロボット『アトラス』を1台たりとも導入できない」と宣言したことで、物議を醸している。一週間後の29日、李在明(イ・ジェミョン)大統領は「押し寄せる巨大な荷車(流れ)を避けることはできない」と述べ、労組を真っ向から批判した。19世紀の機械破壊運動(ラッダイト)にも触れ、「変化には素早く適応すべきだ」と迫ると、「転がってくる荷車を放置するのが国家の役目なのか」(金属労組論評)という反撃が続いた。
アトラスの存在感にはこれまでとは違うものがある。ロボットアームや自動化工程が次々と導入されるのとは次元が異なる。身長190センチ、体重90キロのアトラスは成人男性よりやや大きい体格で、人間の体型と大きく変わらない。最大50キロの荷重を持ち上げ、360度滑らかに回転する関節構造を備えている。狭い空間でも効率的に動く。人間の労働を制約する条件も障害にならない。マイナス20度から40度まで安定して作動するため、寒波と猛暑への対策が不要だ。バッテリーを自ら交換し、必要な時間だけ稼働できる。最先端の認知知能を備えたアトラスは、人間はもちろん他のロボットとも共同作業できるよう設計されている。
アトラスは2028年、米国ジョージア州の工場にまず導入される。一部からは疑問の声もあがっている。すぐに国内工場に導入されるわけでもないのに、早まった反対ではないのかということだ。現代自動車労働組合のニュースレターも冒頭はこう始まる。「笑うべきか、それとも泣くべきか」。1月初めの「CES 2026」でアトラスが公開された後、「現代自動車の株価が急騰し、時価総額3位まで上昇した」ことを念頭に置いた言葉だった。それでも危機感が高まったのは、国内工場の生産量にも直接的な影響を与えうるためだ。会社が人件費削減のため、国内工場の生産量の相当分を米国工場に移管するのではないかという懸念だ。労組は「平均年収1億ウォン(約1070万円)を基準に24時間稼働するためには、3人分(3億ウォン)の人件費がかかるが、ロボットの場合、購入してから発生するのは維持費のみ」という比較まで行った。
AIの発達が人間の労働に及ぼす影響は、少なくとも10年前から続く論争の的だ。常に楽観論と悲観論が対立してきた。単純化すれば、肉体的に過酷な仕事をロボットが代行する労働補助型と、人間の仕事を奪う労働代替型の二つのシナリオだ。数年にわたる繰り返しの論争から得られた教訓がないわけではない。政府が技術革新の余波に事前に対策せず、市場に全面的に委ねてはならないという点だ。セーフティネットの拡充なしに拡散したプラットフォーム経済が、労働法の死角地帯の労働者を大量に生み出したことが代表的な事例だ。
韓国のロボット導入は非常に早い方だ。韓国労働研究院が国別の労働者1000人当たりのロボット数を比較分析した結果(「技術革新と労働市場の変化」研究報告書)によると、2005年にはわずか2.66台だったものが、2020年には約5倍の13.17台に増加した。同期間中、米国とドイツは約2倍、台湾も4倍水準だ。同研究院が2024年10月に企業の人事担当者を面接調査した結果も意味深長だ。自動化設備の導入で単純組立要員は減少し、その設備を管理する要員が増加しており、過去に高熟練者と認められていた人々がパソコンを使えないため淘汰されているという。ある半導体企業の中間管理職は「現時点では人件費がロボットの導入・維持管理費用より安い」と述べた。ロボット導入のコストがさらに安くなれば、企業は別の選択をするかもしれないという話だ。
漠然とした抽象的な議論は実益がない。大統領の基本社会構想が労働者の心に響きにくいのと同様だ。「ロボットによる雇用代替に対応するために起業すべき」という発言も無責任だ。「巨大な流れ」を避けろと言うなら、政府がどのような備えをしているのかも明確に示すべきだ。ロボットの導入による余波は、劣悪な雇用地位にあるほど先に実感する可能性が高い。今後、良質な雇用の自然減はさらに急激になり、それだけ若年層の雇用も縮小する恐れがある。単純反復業務に従事してきた低熟練・非正規労働者と、国内労働者が敬遠する仕事をしてきた移民労働者、新技術導入への適応度が低い中高年者などの雇用不安も高まる可能性がある。こうしたリスク要因に伴う細やかな対策が求められる。「AI格差」は従来の「デジタル格差」よりも大きな二極化問題を量産する恐れがある。既存の正規職中心の社会保険制度では緩衝地帯を作るのが難しいという点も考慮すべきだ。