制憲節の7月17日、あるテレビ番組のインタビューで、司会者がムン・ヒョンベ元憲法裁判官に尋ねた。「韓国憲法の中で最も好きな条項はありますか」。彼は次のように答えた。「憲法10条が好きです。『すべての国民は人間としての尊厳と価値を持ち、幸福を追求する権利を持つ。国家は個人の持つ不可侵の基本的人権を確認し、これを保障する義務を負う」という条項です」。彼は続けて「国家の義務は基本権を保障することにあるが、憲法10条はそれが最もよく表された文章だと思う」と説明した。彼が言いたいのは、憲法10条はすべての条項の中で最高であり、最も基本となるものだということだ。その条項が言っているのは、人間が関係するすべての事案において、人間は人間だということそのものが目的となり、尊いということだ。
今年の夏はとりわけ暑かった。6月1日から8月28日までの気象庁の猛暑統計を見ると、一日の最高気温の平均は30.7度で、1973年以降で最も暑かった。移住労働者の数が100万人をはるかに超えている時代、気候災害と呼んでもいいこのような時代に、移住労働者はその被害に直にあっている。猛暑の中で働くのがつらい真夏の作業現場では、内部の温度が上昇し、熱中症が発生する恐れが高まる。疾病管理庁によると、今年発生した熱中症の患者数は4137人。一言で言うと、移住労働者は「極限の気象現象に直にさらされている労働者、そしてエネルギー利用から疎外された者」であり、人間の尊厳が脅かされている。農村振興庁は、夏場の昼12時から午後5時の間は、田畑などの屋外や密閉された場所での作業を最小化するよう勧告している。しかし移住労働者たちは、常に仕事を失い本国に帰されるかもしれないという恐れの中で、作業中に異議を唱えることもできないのが実情だ。今年も7月初めの真夏に、極度にぜい弱な労働現場で働いていたベトナム出身の20代の労働者が、慶尚北道亀尾(クミ)のあるマンション建設現場で熱中症で亡くなっている。7月下旬には、慶尚北道浦項市北区杞北面(ポハンシ・プック・キブンミョン)の里山で、猛暑警報の発効中に除草作業をしていたネパール国籍の40代の労働者が意識を失って倒れ、死亡している。
移住労働者にとって、韓国の冬の過ごしづらさは夏に劣らない。移住労働者たちは、寒波の中でまともな暖房もないか、あっても火災にぜい弱な臨時の施設に寄宿するケースが多い。2020年12月には、京畿道抱川一東面(ポチョンシ・イルトンミョン)の農場のビニールハウス内で、カンボジア女性移住労働者が遺体で発見された。被害者は2018年12月からこの農場で働いており、近くカンボジアに戻ってから再入国し、同じ農場で改めて働く予定だったという。死亡した日、一東面の一帯は氷点下14度に迫る厳しい寒さで、寒波注意報が発せられていた。
昨年6月には、京畿道華城市(ファソンシ)のアリセルのリチウム電池製造工場で、単一の労働災害事件としては最多の18人の移住労働者が亡くなるという火災事件が発生した。捜査の結果、アリセルの役職員が生産に便利なように防火区画の壁体を勝手に撤去していたうえ、避難経路に仮壁を設置して構造を変更しており、仮壁の背後の出入口には正社員のみが出入りできるようにロック装置を設置していたことで、移住労働者の被害が拡大したことが明らかになった。水原(スウォン)地裁刑事14部は9月23日、「重大災害の処罰などに関する法律」違反などを理由に、アリセルの工場の代表に懲役15年を言い渡した。同地裁は「この事件の火災事故はいつ起きてもまったくおかしくない、予告された人災であった」として、「そこは、生産と利潤の最大化を掲げて労働者の安全はまったく眼中にもない韓国の産業構造の現実と、派遣勤労者の労働現場の実体に暗く覆われている」と判決した。
韓国の代表的な移住労働政策は雇用許可制だ。この制度は東南アジアなどの特定の国から来た移住労働者に適用されるもので、原則的に入国した日から3年間は一つの事業所で働かなければならない。この制度の適用を受ける移住労働者は、特別な事情がない限り職場を3回以上変えることはできない。これにより移住労働者は、使用者の不当な待遇に耐えざるを得ない不利な従属関係に転落する、という批判が存在した。これに対して憲法裁判所は2021年12月、7対2の多数意見で、現在の雇用許可制は憲法に違反しないと判示した(2020憲マ395決定)。その要旨は「外国人勤労者が勤労契約を解除したり更新を拒絶したりして自由に事業所の変更を申請できるようにすると、使用者としては人材の安定的な確保と円滑な事業所の運営に大きな困難を抱えざるをえない。このところ不法滞在者が急激に増えている中、外国人勤労者の効率的な管理の観点からも、事業所の頻繁な変更を抑制するとともに、就業活動期間内は長期勤務を誘導する必要がある」というものだ。しかし、内国人労働者が自らの安全や健康などを守るために職場を離脱できるのと同様、移住労働者も労働環境が劣悪な事業所から離脱する必要がある。移住労働者にとって事業所移動の自由は、単なる事業所の移動のみを意味するわけではない。それはすなわち人格の自由を意味するものだ。
国家人権委員会は2024年11月、移住労働者の死を初めて扱った「移住労働者の死亡原因の分析および支援体系の構築のための研究」と題する報告書を発行した。これによると、2022年の1年間に死亡した移住労働者の数は、実に3340人。このうち労働災害と認定された死亡は137人で、同年に死亡した移住労働者の4.1%に過ぎない。報告書の責任研究員を務めたソウル大学環境保健学科のキム・スンソプ教授は、「報告書で取り上げた人々は、生きている時は未登録労働者、死んだ時は原因不明、死後は無縁仏として扱われた。韓国社会は彼らを哀悼することなく日常を営んできた」として、移住労働者の死に対する韓国社会の無関心を指摘している。
人間は人間そのものとして尊厳を持つという憲法10条の思想は、「汝の人格や他のあらゆる人の人格のうちにある人間性を、いつも同時に目的として扱い、決して単に手段としてのみ扱わないように行為せよ」というカントの哲学と関係している。移住労働者を共同体の平等な構成員ではなく、韓国産業社会の発展のための代替物と考えた瞬間、私たちは自ら人間性を喪失しているのかもしれない。雇用許可制に対する批判をはじめ、移民庁などの独立した省庁すらない現実を直視する時、移住労働者問題はいつまでも私たちの社会の良心をさいなむ課題として残っていくだろう。
イ・ソクテ|元憲法裁判官 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )