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トランプの空母と真人の船【寄稿】

登録:2025-09-26 00:28 修正:2025-09-27 07:20
ハン・スンフン|韓国学中央研究院教授(宗教学)
米国のトランプ大統領。背景は、尹錫悦大統領の弾劾審判の宣告日の今年4月4日にソウル龍山区漢南洞の大統領官邸近くで行われた弾劾反対集会で、「弾劾却下」を叫ぶ尹前大統領の支持者たち/聯合ニュース

 韓米首脳会談直前の8月25日夜、トランプが自身のトゥルース・ソーシャルで「韓国での粛清と革命」に言及したことが報じられた。このメッセージは、トランプが不正選挙によって親中国政権を樹立した韓国に圧力をかけ、尹錫悦(ユン・ソクヨル)を救い出してくれると真剣に信じていた尹錫悦の支持者たちを熱狂させた。本格的な首脳会談がはじまり、トランプがこの発言を速やかに撤回したことで、この事件は小さな波紋を起こすにとどまった。トランプはなぜこのような荒唐無稽なことを言ったのだろうか。尹錫悦の弾劾と拘束以降、一部の支持者たちは米国の極右勢力と連携し、トランプにこの事態に介入するよう様々なルートを通じて要請してきた。その「ルート」の中にはもちろん、トランプのトゥルース・ソーシャルのアカウントに直に請願する行為も含まれる。交渉を前に虚偽情報で相手を当惑させる戦術を好んで用いるトランプが、これを利用しない理由はなかった。

 「尹アゲイン」勢力が想像したトランプの介入方法の中で最も劇的なものは、米国の空母が漢江(ハンガン)に入ってきて現政権を威嚇するというシナリオだった。期待とは異なり、首脳会談が和気あいあいとした雰囲気の中で終わると、尹錫悦の支持者が集うオンライン・コミュニティーでは「トランプも親中左派」だという冗談のようなため息が見られた。これは、5・18当時に光州(クァンジュ)市民の間に広まった風聞の悪質なパロディーのようにもみえる。例えば、1980年5月25日に作成されたある市民の声明は、米第7艦隊の空母「コーラル・シー」が釜山(プサン)港に入港したから、全斗煥(チョン・ドゥファン)の新軍部が退くのは時間の問題だ、勇気を出そうと訴えていた。もちろん、現実の米国は全斗煥のクーデターを放置したし、それは韓国の市民社会で反米感情が広がる決定的な契機となった。

 ついにトランプの空母はやって来なかったが、外部の介入を通じて絶望的な現実は一挙に転覆するだろうという信仰は、かなり一般的な宗教的思考でもある。今回の事態についてハンギョレを含むいくつかのメディアは、尹錫悦の支持者はカーゴカルト(cargo cult:貨物崇拝)に陥っているという診断を示している。比較的よく知られる宗教人類学の概念であるカーゴカルトは、もともとは19世紀以来メラネシアに広まっていた終末論的な信仰形態だ。欧州の植民地支配以降、かの地域の一部の住民たちは、近い将来に神から送られてくる大量の贈り物と共に理想世界が到来すると信じていたが、その贈り物とは缶詰、綿織物、自動車、小銃、弾薬のような欧州の商品のかたちで想像された。

 実際の商品と同様、それらは船または飛行機で運ばれてくる貨物でなければならなかった。そのため、このような信仰を持つ人々は、神々の船や飛行機を迎えるために海岸や伝統的な聖地をきれいにしたり、埠頭や倉庫、飛行場を建設したり、貨物の到着の知らせを聞くためにラジオのアンテナや電話機を設置したりもした。貨物を送ってくれる神は先祖だったり、キリスト教信仰が広まっていた地域では神や「黒人イエス」だったりすることもあった。いずれにせよ、貨物を与えてくれる神は、白人が不当に独占している贈り物を正直な者たちに分け与えてくれると信じられていた。

 このような脈絡を考慮すると、尹錫悦支持者の救済論はカーゴカルトというより朝鮮時代の真人(チニン)信仰に近い。真人信仰で強調されるのは船の「積み荷」ではなく、船を送ってくれる「人」だ。真人は現在の王朝を滅ぼし、新たな国を建てるメシア的な人物だ。この人物は漠然と海の向こうの島にいると信じられたり、実在する海外の勢力と同一視されたりした。17世紀には清に抗して台湾地域に独立王国を建てた鄭氏王朝の船団が、18世紀末には強力な武器と不思議な宝物を積んだ西洋の大型船が、朝鮮王朝を倒す真人の船だという予言が広まった。

 現代の真人であるトランプの空母を待つ人々は、政治的挫折を認めるのではなく幻想への逃避を選んだ。それは望ましいとは決して言えないが、政治的激変期に行き詰まりを感じている勢力によく見られる、ある意味で自然な現象の一つだ。問題は、このような幻想をあおり、利用して政治的動員を試みたり、経済的利益を得ようとしたりする勢力だ。現実を否定する終末論的希望は、内乱擁護勢力を延命させ、扇動者たちの通帳を厚くしている。基本的に私たちは、信じる者たちはほどほどに嘲笑するにとどめ、欺く者たちこそ激しく非難しなければならない。しかし、政治家たちを含む「欺く者たち」自らが、米国による尹錫悦救出のようなものを盲信しているとしたら、嘲笑され、非難を浴びることこそふさわしい。

//ハンギョレ新聞社

ハン・スンフン|韓国学中央研究院教授(宗教学) (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1219896.html韓国語原文入力:2025-09-21 19:03
訳D.K

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