人類全体を絶滅の危機へと追い込みうる戦争と、その中で発生する集団虐殺のような戦争犯罪を防ぐには、どうすればよいのだろうか。第1次世界大戦という途方もない悲劇を経験しつつも、再び大きな戦争の惨禍にさらされた人類は、真剣に悩みはじめた。
第2次世界大戦という巨大な危機を克服した人類は、侵略戦争をはじめるという判断を下した「戦争指導者」や、その戦争で残虐行為を繰り返した「戦争犯罪者」のような「個人」を処罰すべきだとの結論に達した。「国家」や「集団」はもちろん、「個人」にも応分の代価を支払わせることが重要だった。そこで米国、英国、フランス、ソ連の連合国4カ国は1945年8月8日、国際軍事裁判所憲章に合意する。同憲章は第6条で、平和に対する罪▽通常の戦争犯罪▽人道に対する罪という3つの戦争犯罪を規定した。とりわけ平和に対する罪という名のついたa項は、侵略戦争を計画、準備、開始、遂行した戦争指導者を処罰するために作られたものだ。靖国神社を参拝する日本の主な政治家を「A級戦犯が合祀されている神社の参拝は、先の侵略戦争を肯定するもの」だと批判する際に出てくる「A級戦犯」という用語は、まさにこの条項に由来するものだ。
だが、その後も戦争と戦争犯罪は絶えなかった。特に冷戦直後の1990年代初めにはじまったユーゴ内戦とルワンダ内戦で発生した集団虐殺は、人類に大きな衝撃を残した。結局、国際社会は1998年7月に「国際刑事裁判所(ICC)に関するローマ規程」(2002年7月発効)によって常設の刑事裁判所を作ることを決める。124カ国が加盟するICCでは、集団殺害犯罪(6条)、人道に対する犯罪(7条)、戦争犯罪(8条)などを起こした個人を処罰することができる。
昨年10月のハマスの先制攻撃ではじまったガザ戦争は、すでに7カ月続いている。パレスチナ側の死者はイスラエル(約1200人)の30倍の3万5千人にのぼる。見るに見かねた国際司法裁判所(ICJ)は調査を開始しており、イスラエルのネタニヤフ首相らに対する逮捕状の発行を準備しているという。にもかかわらず「大破局」は防げていないようにみえる。期待を集めたイスラエルとハマスとのカイロ休戦会談が成果を出せなかったことから、ネタニヤフ首相は5日、すべての責任をハマスに押し付ける声明を発表し、7日には最悪の「集団殺害」を招きうるラファ侵攻を開始した。歴史はネタニヤフを何者として記憶するのだろうか。