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「影の戦争」の終末…中東が揺れ動く

登録:2024-05-07 07:29 修正:2024-09-19 08:35
[ハンギョレS]地政学の風景 
イラン・イスラエル直接衝突 
 
イラン・イスラエル、相互に本土を攻撃 
イスラエル、西側の支持を引きだしたが 
イランの追加反撃に対処可能なのか 
サウジアラビアは均衡保ち、米国は足を引っ張られる
先月28日(現地時間)、イスラエルのアラド市近郊の砂漠に落ちた迎撃ミサイルの残骸を超正統派ユダヤ教徒たちが調べている。迎撃ミサイルはイランの攻撃に対応したものだ/AP・聯合ニュース

 昨年10月7日に勃発したガザ戦争は、4月に入りイランとイスラエルによる相手領土への直接攻撃によって、中東の地政学的対決の構図をさらに混沌に追い込んでいる。

 ガザ戦争の地政学的背景の一つとして、サウジアラビアとイスラエルの国交樹立を目標とするアブラハム協定の進展が論じられている。サウジアラビア・イスラエルの国交樹立によって孤立することを懸念し、ハマスがイスラエルへの攻撃を敢行したと分析されている。ガザに対するイスラエルの一方的な攻撃であるガザ戦争は、イスラム圏の怒りを触発し、サウジアラビア・イスラエル国交樹立を当面の間中断させた。しかし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ極右政権は今年に入り、イランに対する攻撃を強化してガザ戦争後に深刻化した国際的非難にともなう孤立を打開しようとし、ある程度は成功した。

■イランを攻撃して支持率回復したネタニヤフ首相

 イスラエルは今年4月1日、シリアのダマスカス駐在のイラン領事館を攻撃し、イランは4月13日、300機のドローンとミサイルを用いてイスラエル領土に前例のない報復に乗りだした。4月19日にはイスラエルがイランのイスファハーンをドローンなどで反撃した。イスラエルはこのような対決局面で、米国などの西側の支持とイランに対する非難を引きだした。米国のジョー・バイデン政権は、イスラエルに対する全面的な支持と防衛を約束した。米国は、イスラエルに向かってくるイランのドローンとミサイルの迎撃に、自国軍と英国軍だけでなく、ヨルダンなどのアラブ諸国も動員した。

 特にネタニヤフ政権は、ガザ戦争後に地に落ちていた支持率を、イランとの対決局面のもとで回復した。20%台に留まっていたネタニヤフ首相の支持率は、イランとの攻撃が交わされた先月17~19日の世論調査では37%に上昇し、ライバルである国家統合党のベニー・ガンツ代表との支持率の差は5ポイントに縮まった。直近で総選挙が実施された場合、現連立政権の予想議席は120席中50議席に増えた。

 何よりネタニヤフ首相のイスラエルは、今回の事態で、サウジアラビアとの関係改善の糸口を再度つかんだと評されている。サウジアラビアはイランのイスラエル攻撃を防御したイスラエル・米国・ヨルダン・英国・フランスの軍事協力を支援したと、エルサレム・ポストがサウジアラビアの官僚の話を引用して報じた。サウジアラビアは、イランのドローンが自国の領空を通過して主権侵害が発生したとして、米国などと協力したと伝えられている。今回の事態でイランの脅威を再び実感したサウジアラビアなどのアラブ諸国は、イスラエルとの関係改善を通じた勢力バランスの必要性を再び実感し、これはアブラハム協定の新たな推進動力になっていると、米国などの西側メディアが報じている。

 しかし、イスラエルとサウジアラビアの関係好転がガザ戦争の背景になったことを考えれば、今回の事態がサウジアラビアに近づこうとするイスラエルと西側の希望事項をふたたび蘇生させられるかどうかは、今後を見守らなければならない。何より、イランとイスラエルの直接攻撃は、中東のこれまでの紛争の文法を変え、イスラエルにも高い代価を要求している。

 1979年のイラン・イスラム革命からの40年あまりの間になされた両国の紛争で、イスラエルが直接乗り出しイランの要人を暗殺したり施設を破壊しても、イランは直接対応は自制し、代理勢力を通じて間接的に攻撃してきた。イランの被害は直接的かつ可視的だとみられるが、イスラエルはイランを攻撃すればするほど、ヒズボラやハマス、イラク・シリア内の親イラン武装勢力とつねに非対称的な低強度の紛争にまきこまれていた。イスラエルの貸借対照表はイランよりも良好だとは言えない。イランが直接イスラエルを攻撃しなかった背景には、イスラエルの優れた安全保障能力を意識した側面もあるが、「親イラン・反イスラエル」のかたちでシーア派ベルトの勢力を確実に束ねようとする戦略でもあった。

■イラン、イスラエルを脅かす能力を誇示

 イランは今回の事態で、イスラエルに対する直接攻撃というレッドラインを越えるきっかけをつかんだ。特にイスラエルを脅かすことのできる能力を誇示した。イランは72時間前に攻撃を通知し、イスラエルと西側に事前に備える余地を与えた。イランが発射した300機あまりのドローンとミサイルを迎撃するため、米国の主導で英国・フランス・ヨルダンが直接加担し、トルコ・サウジアラビア・イラクなどが情報協力した。ほとんどはイスラエルに到達する前に迎撃されたが、イランの脅威の状況のもとで、イスラエルは米国や周辺国に前例のない軍事・情報協力に頼ることになった。

 これよりはるかに規模の小さかった先月19日のイスラエルの反撃に、イランは対応しなかったが、イスラエルがさらに反撃を加える場合には事前通知なしで報復すると警告した。イランが実際にイスラエルに対する直接攻撃を事前警告なしで実行した場合、イスラエルと西側が効果的に対処できるかどうかは疑問だ。

 米国が構想するアブラハム協定は、イスラエル・サウジアラビア国交樹立▽米国・サウジアラビア防衛協定▽ハマスを排除したパレスチナ自治国家という三軸で構成される。イランとしては、東地中海・ペルシャ湾・紅海から自身を追い出そうとする封鎖に他ならない。ガザ戦争後にイスラエルは、ハマスやヒズボラ、シリア・イラク内の親イラン武装勢力に加え、イエメンのフーシ派、さらにはイランの直接攻撃にさらされることになった。イランとしては、東地中海・ペルシャ湾・紅海での親イスラエル陣営の封鎖を逆に封じ込めようとするかたちだ。イランにとっては、東のアフガニスタンからパキスタン、イラン本土、イラク、シリア、レバノンまで続く人口2億5000万人のシーア派ベルトを結びつけ、海への通路を確保することが地政学的課題だ。

 イスラエルはイランとの直接衝突では短期的な成果を上げたが、長期的な地政学的優位につながるかどうかは疑問だ。イランは西側との関係改善がさらに遠ざかる孤立に直面したが、戦闘で鍛えられた16万人の武装勢力が散在するシーア派ベルトを、よりいっそう活性化して連帯させる環境を作っている。サウジアラビアはイランとイスラエルの間で均衡を保とうとし、米国は中東でさらに足を引っ張られている。

チョン・ウィギル|国際部先任記者。ハンギョレで国際分野の記事を書いている。新聞に執筆するかたわら『イスラム戦士の誕生』『地政学の捕虜たち』などの著書も刊行した。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1139307.html韓国語原文入力:2024-05-06 17:40
訳M.S

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