一体何が間違っているのか、とても気になっていることだろう。心の中では「こんなはずはない」と数え切れないほど繰り返していることだろう。
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と与党「国民の力」のハン・ドンフン非常対策委員長のような一部の法曹エリート出身の人生観は傲慢だ。自分はあまりにも優秀なので、何でもうまくこなせると勘違いしやすい。囲碁をしていたならイ・セドル9段のような棋士に、フィギュアを習っていたならキム・ヨナのような選手に、また、ビジネスの世界にいたらサムスングループの故イ・ゴンヒ会長のような存在になっていたはず、という妄想に陥る恐れがある。ましてや政治なんて、言うまでもない。
法曹界出身の国会議員たちが、政治が決してたやすい領域ではないことを痛感するのにはそれほど長い時間はかからない。大半は新人議員の時に分別がつく。理性より感性、結果より過程、実体より態度、法治より政治が優先であることが分かるようになるのだ。
尹錫悦大統領とハン・ドンフン委員長は、国会議員の経験がないためか、今も政治が分かっていないようだ。総選挙を控え、なぜここまで政府与党が厳しい目を向けられるのか、理由が全く分からないようだ。
遊説に出たハン・ドンフン委員長の演説からは、苛立ちと戸惑いがにじみ出ている。口を開けば「犯罪者」や「北朝鮮追従」のような言葉が出てくる。野党「共に民主党」のイ・ジェミョン代表や「祖国革新党」のチョ・グク代表(元法相)のような「犯罪者」たちが、尹錫悦大統領や自分のような「正義の味方」より一体なぜ多くの支持を集めているのか、とうてい理解できないという表情だ。
「イ・ジェミョン代表が義姉に向かって言った言葉、それは最低な言葉ではないですか。私があの方の言葉を一度読み上げてみましょうか。皆さん、そうです。読み上げることさえはばかられる言葉です。皆さん、もう一度聞いてください。耳を塞ぎたくなるかもしれませんが、国のために聞いてください」
ハン・ドンフン委員長は、自分が野党を激しく非難すればするほどますます票を失う理由を最後までわからないまま、総選挙を迎えるだろう。それが彼の限界だ。
尹錫悦大統領は3月31日、ソウル市江東区のミョンソン教会の復活祭連合礼拝に出席し、このように述べた。
「私と政府はもっと低い姿勢で、国民の中に深く入り、国民の非常に小さな声にも耳を傾けます。私と政府は、困難を抱え苦しんでいる方々が立ち上がれるよう、温かく見守り、彼らを後押しします」
真摯さが感じられない。人工知能(AI)がしゃべっているようだ。困難を抱え苦しんでいる人たちが立ち上がれるように温かく見守るためには、法律を変えなければならない。法律を変えるためには、野党と話し合い、妥協しなければならない。野党代表に会う必要がある。
総選挙が終われば、尹錫悦大統領は共に民主党のイ・ジェミョン代表に会うだろうか。おそらく会わないだろう。この2年間会わなかったイ・ジェミョン代表に、総選挙が終わったからといって今更会うはずがない。尹錫悦大統領はこれまで、イ・ジェミョン代表を野党第一党の代表ではなく、被疑者や被告人扱いしてきた。
民主党の8月の全党大会で他の人が民主党代表に選ばれたら、尹錫悦大統領はその人に会うだろうか。会わないだろう。おそらく他の言い訳を探すだろう。尹錫悦大統領は、イ・ジェミョン代表だけでなく、野党自体が嫌いなのだ。一人で全部やりたいのだ。
尹錫悦大統領とハン・ドンフン委員長が今のような態度に固執する限り、国民の力が総選挙で勝つのは難しいだろう。どうすればよいだろうか。国民の力でも長く政治にかかわってきた人たちが正しい診断と処方を出している。
「民主党の代表は、週に2回、3回裁判を受ける人だ。祖国革新党の代表は、最高裁の確定判決が下されれば刑務所に入れられる人だ。野党代表がそのような人物であることを国民は知っているにもかかわらず、それでも尹錫悦政権と国民の力の方が憎いと思っている。それが本質だ」
「根本的な原因は2つだ。第一に、この2年間、経済と暮らしの問題の解決に失敗した。第二に、尹錫悦政権は公正という価値を掲げて政権を握った。ところが、公正でないことが続いている」(ユ・スンミン元議員)
「尹錫悦大統領は国民にひざまずかなければならない。傲慢と独善で聞く耳を持たない姿を見せたこと、側近中心の政治をしたこと、人事を排他的に進めたこと、国政課題に混乱をもたらし無気力な姿を見せたことについて、謝罪しなければならない」
「尹錫悦大統領は国政の全面的刷新を国民の前に宣言しなければならない。まず人事を刷新しなければならない。昨今の民意離れに責任がある大統領室と内閣を全面改編しなければならない」(チョ・ヘジン議員)
2人の診断と処方を一言でいうと、尹錫悦大統領とハン・ドンフン委員長が土下座しなければならないということだ。彼らが果たして土下座をするだろうか。するなら、チャンスが訪れるだろう。だが、おそらくしないだろう。人の本性というのは、そう簡単には変わらないものだ。