国防部長官出身のイ・ジョンソプ前オーストラリア大使が29日、辞意を表明し、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領がこれを受け入れたことで、「被疑者大使」をめぐる議論が一段落した。しかし、渦中の人を大使に任命し、すぐに辞任したことだけでも、韓国とオーストラリアの関係に傷を残したと指摘されている。さらに、ソウル大学教授出身のチョン・ジェホ駐中大使がパワハラで通報されたことが分かり、特任公館長の「外交リスク」が増大しているという批判が高まっている。
特任公館長は、外交官でなくても資質と能力を備えた人を特別に在外公館長に任命する制度だ。過去、外交官試験合格者で固められた外交部の純血主義を克服するため、外部の専門家を迎え入れる趣旨で導入されたが、これまで趣旨とはかけ離れた人物が相次いで公館長に任命されたことで、議論を呼んできた。
尹錫悦政権発足後も、権力者と親しい人物が選ばれたり、国内政治的な理由で特任公館長が相次いで任命され、これは直ちに外交的損失につながった。今回もイ・ジョンソプ大使が辞任したことで、来月予定された韓豪外交・国防担当閣僚会合(2+2)の準備に支障が避けられなくなった。
駐中大使館をめぐる状況も慌ただしい。北京の駐中大使館に勤務するある駐在官が今月初め、チョン・ジェホ大使を「パワハラ」で外交部に通報した。チョン大使は業務時間に本人の部屋にこの駐在官を呼んで対話する過程で、彼に侮辱的な言動をしたという。状況を説明する責任があるチョン大使は、4月1日に予定されている韓国メディア特派員団対象の月例ブリーフィングを突然取り消した。チョン大使は尹大統領の沖岩高校の同期であり、大統領と同じくソウル大学校出身で、かなり以前から尹大統領と個人的なつながりのある友人として知られている。
韓中関係が行き詰まっているうえ、対中外交の拠点の役割を担う駐中大使館が内輪もめに陥ったことで、懸念が高まっている。韓中日は昨年、閣僚級会合を開き、3カ国首脳会談の開催について協議してきたが日程を決められず年をまたいだ。さらに中国は28日、国連の対北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの任期を延長する決議案の表決で棄権し、韓国と米国が主導する対北朝鮮制裁への不快感をあらわにした。
外交界では、特任公館長制度の趣旨に合わせて送り出す地域と分野に専門性のある人を熟慮して任命すべきだと指摘する。ある元外交官はハンギョレに「公館長は安保・外交・政務・経済・通商・領事などをすべて総括しなければならない。20年以上専門的な外交官訓練を積んだ人でも務めるのが難しい」としたうえで、「そのようなポストに、大統領選挙キャンプに5~6カ月いただけの全く準備ができていない人を任命するのはかなり問題があると思う」と語った。