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[寄稿]韓国が注いだ半分、日本が注がねばならない半分

登録:2023-04-03 05:10 修正:2023-04-03 07:53
リュ・ヨンジェ|議政府地方裁判所南揚州支院裁判官
尹錫悦大統領が3月16日午後、東京の首相官邸で日本の岸田文雄首相と韓日拡大首脳会談を行っている/聯合ニュース

 裁判をしていると、被告人が無罪を主張しながらも、一方では「道義的責任を負う」として被害者との合意を試みるケースがまれにみられる。それはありうるとしても、問題はその後に起きることだ。一部の被告は、有罪判決を言い渡されても、合意を酌量して罰金刑や懲役刑の執行猶予など希望する結果を勝ち取ると、態度を変えて裁判結果はすべて偽りであり、自分は無罪であり、被害者に対する道義的責任すら負う必要がないということを言う。被害者は後になって怒り、合意した自分をむしろ責めたりする。そんなときに思う。示談金が支給されたといっても、被害者にとってそれが終わりではないことを。

 被害者は、加害行為の不法不当性、被害の認定、加害者の謝罪および反省、事実歪曲を正すことと名誉の回復、再発防止の保障などを認めてほしいと願う。私たちが普段考える「正義」の内容でもある。この「正義」の概念は、国際的にも認められた。1948年の世界人権宣言から、欧州人権条約(1950)、国際人権規約(1966)、人種差別撤廃条約(1965)、米州人権条約(1969)、拷問等禁止条約(1984)などを通して着実に認められてきた。そして2005年12月16日、大韓民国と日本がともに参加した国連総会で全員一致で採択された「被害者の権利の基本原則」(重大な国際人権法違反及び深刻な国際人道法違反の被害者のための救済と賠償を受ける権利に関する基本原則とガイドライン)を通じて再確認された重大な国際人権法違反と国際人道法違反の被害者の権利は、(1)「正義」に対する権利、(2)「賠償(reparation)」に対する権利、(3)「真実」に対する権利を包括している。こうした権利は、「反人道的犯罪または国際人権法違反の行為の事実認定と、これに基づく責任の認定」で始まり、「今後の再発防止のための記録の保存と制度の改善、教育の実行」に続く。金銭的賠償は一部に過ぎず、それさえも、事実と責任の認定がともなわなかったり、記録の削除、事実の忘却、教育の歪曲を条件とする場合、被害者の権利として認められない。

 そうした意味で、2018年の日本企業の強制動員労働による人権侵害に関する韓国最高裁(大法院)全員合議体の判決は、大きな進展だ。その当時どのようなことが起きたのかに対する具体的な事実関係が記録され、加害行為の不法不当性およびそれにともなう被害者の損害賠償請求権が大韓民国の法律によって認められた公的文書であるためだ。

 にもかかわらず、日本だけでなく韓国内でも公然と、2018年の最高裁全員合議体の判決は、政府の解釈と合致せず誤っており、国際法に違反するものだとする内容が主張されている。それは本当なのだろうか。

 大韓民国の法制上、国家間の条約内容の解釈の権限は、行政府ではなく司法府が持つ。司法府が2018年の判決を下した際、条約の締結に関する大韓民国政府の立場を十分に考慮しなかったのか。そうではない。司法府は、強制動員被害者が2005年に日本企業を相手取り訴訟を提起した時から、2018年に最高裁が全員合議体の判決によって裁判を終了するまで、13年間にもわたって裁判を行った。その間最高裁は、韓国政府および日本企業とともに裁判に関する密談をやりとりすることまでしたのであり、韓国政府の立場を十分に聞いたといえる。それほどまでに忠実に政府側の立場を聞いても、「1965年の韓日請求権協定」によって強制動員被害者の日本企業に対する損害賠償請求権が消滅しないという解釈を下したとすれば、韓国政府は、1965年の韓日請求権協定と強制動員被害者の損害賠償請求権に関する最高裁の解釈に従わなければならない。それが法治主義だ。

 2018年判決は国際法に反するのか。主に戦後処理などのために、国家間でしばしば締結される「一括補償協定」というものがある。被害国が自国民の被害を含む全体的な被害に対する責任を加害国に一括して問うという内容の条約で、国際法的にその効力は認められてきた。2018年の判決が国際法に違反するという主張は、「日本の不法な植民地統治行為について、韓国と日本が締結した一括補償協定が1965年の韓日請求権協定であるため、その協定の履行を通じて、日本の不法な植民地統治による韓国の被害者の請求権(訴求権)はすべて消滅した」とする内容が主になる。だが、2018年の最高裁全員合議体の多数意見(7人の最高裁判事)は、1965年の韓日請求権協定では日本の植民地統治の不法性に関して両国間の意志の合致が成立しなかったので、植民地統治の過程で発生した不法な人権侵害に関する損害賠償請求権も、同協定の内容には含まれないと判断した。ならば、国家間の一括補償協定によって国民個人の補償請求権が消滅することを認めるとする国際法上の主流の観点からしても、1965年の韓日請求権協定は強制動員被害者が被った不法行為に対する一括補償を含まないため、被害者の日本企業に対する損害賠償請求権は同協定によっても消滅しない。2018年の判決の論理自体は国際法違反にはなりえないということだ。

 さらに、「1965年の韓日請求権協定の締結当時、韓国と日本の両国が日本の植民地統治およびその過程で生じた人権侵害行為の不法性に深く共感し、不法な植民地統治および人権侵害の加害国としての責任を負うために、日本が当時の朝鮮人が体験したすべての被害を大韓民国に一括補償するという内容でこの協定を締結した」と仮定しても、そうした1965年の韓日請求権協定によって強制動員被害者の損害賠償請求権自体は消滅しないとする判断(この見解は3人の最高裁判事が取った)について、国際法違反だと断言できるかは疑問だ。深刻な人権侵害に対する被害者個人の権利は、国籍国もむやみに消滅させることはできないとする法理がますます強くなっている国際法の流れに照らしてみた場合の話だ。

 2018年の判決で認められた強制動員の被害の実状は、つぎのようなものだ。日本は太平洋戦争を起こして戦時体制に入ると、軍需物資生産に必要な労働力確保にまい進し、日本企業はこれに対して積極的に参加した。日本企業は朝鮮半島から朝鮮人を相手に労働条件をあざむいた虚偽の宣伝を行ったり、官を通じて朝鮮人をあっせんされた後、これらの人々を軍需物資の生産労働力として活用した。被害者が日本企業で実際に働くことになった労働環境は、宣伝または官のあっせん・指示内容とは異なり、きわめて苛酷なものだった。事実上の監禁状態で安全措置なしに非常に危険な労役に強制従事しなければならなかった。労働の強度に比べはるかに少ない量の食事しか提供されず、休息と外出は極度に制限された。被害者には雇用関係を終了する自由は与えられず、逃走を試みて発覚するとむごい仕打ちを受けた。

 被害者が被った人権侵害は、韓国に限定されるものではない。人権尊重は人類普遍の価値であり、その尊重を要求するのは文明に対する訴えだ。人権侵害の被害者の権利を尊重した韓国最高裁の2018年の判決は、国粋主義的な判決ではなく、文明の発展に合致する判決に近い。被害者の国籍国である大韓民国が、人権侵害の加害企業らの国籍国である日本との間で未来志向的な解決策を模索することはありうるが、それは被害者の権利を尊重し、韓国最高裁の観点に合致する方向性のもとで進められなければならない。韓国政府が先に注いだというコップ半分に対して、日本が強制動員による人権侵害の存在とその不法不当性に対する認定、謝罪と反省に基づく教育の実行、人権侵害記録の保存で応じないのであれば、その半分は底にひびが入ってなくなってしまったのと同じことになる。

//ハンギョレ新聞社

リュ・ヨンジェ|議政府地方裁判所南揚州支院裁判官 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1086190.html韓国語原文入力:2023-04-02 19:34
訳M.S

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