米国領空を侵犯した中国の「偵察気球」をめぐって、米中関係がさらに深い泥沼に陥った。米国が予定されている国務長官の訪中を取り消し、「偵察気球」を撃墜すると、中国は激しく反発した。両国間の対立が国内政治ともかみ合って、瞬く間に危機状況に突き進む可能性があることを生々しく示している。
今回の事態には理解しがたい点が少なくない。中国外交部は、気象研究用気球がコントロールを失い米国領空に入ったと主張しているが、米国は同気球が米国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)格納庫がある空軍基地上空に長く滞在した点などを根拠に「偵察気球であること」は明白だとした。「ゼロコロナ」で打撃を受けた経済回復のために最近米国との関係改善を推進してきた中国が、なぜ米国務長官の訪中直前に簡単に目に触れるほど巨大なこの気球を米領空に進入させたのか疑問だ。偵察衛星で地上を監視する時代に、冷戦時代に主に活用された「偵察気球」をなぜ送ったのかについても意見が分かれている。中国がこうした点について詳しく説明し、事態を収拾することが重要だ。しかしその可能性は低いため、両国は相互不信の中で真実攻防を続けるものと予想される。
状況をさらに悪化させたのは両国の「国内政治」だ。米国防総省は2日、「同気球は偵察用だが、大きな軍事的脅威にはならない」と説明した。だが、米国メディアと政界が「中国気球の本土侵入」に騒がしくなり、下院を掌握した共和党がバイデン政権の「安保無能」フレームを持ち出すと対応が強硬になった。国務長官の訪中取消に続き、4日にはF22戦闘機を飛ばし、中国の「偵察気球」をミサイルで撃墜した。当初遺憾の意を明らかにした中国も、米国が気球を撃墜すると翌日の声明で「米国の過剰対応」を非難し、報復措置を示唆した。中国外交部は6日、駐中米国大使館の責任者に「厳正な交渉を提起した」と明らかにした。中国も自国内の強硬愛国主義世論を考慮し、「米国に強く叱咤する姿」を強調しようとしているようだ。
今回の事態は、米中が多くの難題を解決し偶発的な衝突の危険性を管理する能力があるのかという疑念をさらに膨らませた。北朝鮮の核問題の悪化、台湾海峡の危機、もうすぐ丸1年になるロシアのウクライナ侵攻などは、米中両国の妥協と協力なしには解決できない。両国が冷静に今回の事態を収拾し、国際社会に責任をもつ姿勢を示してほしい。